格上降臨
「思ったよりも早くイチロウさんが来ましたからね。あなたが来る前にはアマさんに説明しきる予定でした」
カエズは予定外と言う割には落ち着きすぎている表情で、変わらぬ調子のまま話し続けた。
「まあ、早く終わりそうなイチロウさんからにしましょう」
「……俺が来るのは分かってたんですか」
「その答えについては少し置いておいてもらえますか。私から伝えるのは一言だけですから」
「伝えるって、何をですか。このアマって子が協力者ですよ、みたいな話ですか」
「察しがいいですね。おかげで私が話すはずだった一言さえ奪われてしまいました」
「状況からの推察だ」
すると、視界の端で先程よりおそるおそる手を上げる姿が見えた。
「……すいません、あんまり状況が掴めてないんだけど、とりあえず私はイチロウさんのお手伝いをするために呼ばれたってことですか、国王様?」
「細かくは後で話しますが、認識としては間違っていません。あなたに依頼したのはこの客人のフォローです」
「ふむふむ、なるほど」
この時、俺はある仮説に辿り着いた。
「カエズ」
「何でしょう、イチロウさん」
「あんたはこれのために俺を呼んだんですか。後俺に何をしたかも教えてくれれば万々歳なんですけど」
「……あなたも心を読めたりするのですか?」
「いいや、さっきも言った推察ですよ。で、実際はどうなんですか」
「私から伝えられるのは先の一言だけです」
「……あいつ、ミシュほどではないにしろ、俺にも好奇心はあるんです。答えてもらえませんか」
カエズは微かに眉をひそめ、開いていた目を閉じる。次に目を開いた表情は何も変わらない冷たさを持っていた。
「最近人と話す機会が少なかったからですかね、話が下手になっています。正確に言うなら、私からは一言しか伝えることが出来ないんです」
「なら、誰が出来るんです?」
「当然、イチロウさんを誘導した本人です」
そこまででカエズは一旦止めた。後ろに振り返り、そびえ立つ女神像を見上げる。
「……二人とも」
俺達は彼の紡ぐ言葉を待つ。
「これは本来、家の者でない外部者に見せるのは禁忌と言われている業です。どうか内密に」
カエズがそっと出した右手を女神像にぺたりとくっつける。しかし、何も起こらない。
対照的に、隣にいるアマの顔が強張っていく。
「アマ、一体何が起こってる」
「……イチロウさん、これを感じないんですか……?」
「? 何をだ?」
「国王様の魔素と空気中の魔素、全てがあの女神様に集まってるんですよ!? 剣士の私でも分かります!」
……もし本当なら、カエズは今から極太ビームみたいな魔法でも使うのか? そう考えていた刹那、俺でも分かる異変が起きた。
女神像が威厳を示すが如く輝き始めたのだ。
「はあ!?」
「なにこれ!? これ幻覚じゃないですよね!? ねえ!?」
「安心しろ! 俺にも見えてる! 安心できないけど!」
「ですね!? こわいこわいこわい!」
「なあ、どんどん光増してってないか!?」
「本当じゃないですか!? どういうこと!?」
「俺が知るか! やってる本人なら知ってるだろ!」
「何してるのか教えてください国王様ぁ!」
「話下手過ぎるだろうがお前ぇ!」
カエズは全く動かず、まさに石像となっていた。俺とアマはどうすることもできずに、あたふたしまくっていた。
……すると、スイッチを切ったようにふっと、女神像は輝きを失った。
「……終わった、のか?」
「……」
「何処か怪我してないか、アマ」
力が抜けてへたりこんでいた彼女の側にしゃがんだ。
「……うわーん! 怖かったんですけどー!」
勢いよく俺の胸に飛び込んでくる。腰に手をまわす姿勢で泣きついてきた。
「わあっ、分かった、分かったからひっつくな! 暑苦しいだろ!」
距離感と警戒心が無さすぎる。
◆◆◆◆
「……で」
感情(主にアマの)が一段落した後、やっと意識と指の先を彼に向ける。
「カエズ、少しも喋んないけど大丈夫か?」
「本当ですね。喉痛くなったんでしょうか」
アマが落ち着くまでにかかった時間は短くはない。だが、俺はカエズが動くところを確認していなかった。
「うぬらが落ち着くまで待っておっただけじゃよ」
「あ、喋った。カエズ、何だったんだよ、今のは……、うぬら?」
「じゃよ?」
カエズはふんぞり返って、小さい体で己の強大さを誇示するかのように見下してきた。
「そうじゃ。うぬらの様に騒がしくては会話も成り立たん」
アマは口を開いたまま呆然とあれを見る。
「国王様、急にイメチェン始めちゃった」
「絶対違うと思うぞ。雰囲気変わったとかのレベルじゃないだろ。ありゃ頭のネジが外れたんだ」
「初対面の相手にとんだ酷い挨拶をするのう」
「うわ喋った」
「儂さっきも喋っておったろうが! 反応もしてた!」
「え、もしかしてあれが? 小鳥のさえずりかと思ったわ」
「褒めておるのか貶しておるのか全く分からん言い訳じゃな」
「羽を広げ翔た空のように広大で、日の光を受けて開いた花のようにささやかな声だったよ」
「分かるぜ。今まで聞いたことがない声だった」
「むしろ矛盾で成り立ってる声なんて聞いたことなくて当然じゃろ」
「え、あらやだ奥さん聞いてよ~。あの人、矛盾した事実が存在しないっておっしゃるのよ?」
「あら、今時ステレオタイプな考えの人居るのね~。はぁ、やんなっちゃうわねえ」
「そんな尾ひれをつければぎりぎり哲学に昇華出来そうな主婦歓談は無いわ。というかほぼ初対面でコンビ芸をするな」
「まぁ、私達ぃ?」
「「なかよピだもんね~!」」
「……自己紹介しても良いかの?」
「いやいや、俺達の仲の良さってのを」「自己紹介を! ……しても良いかの?」
「アッハイ」
流石に悪ふざけしすぎた。
「ったく、さっきまではそんなんじゃなかったろうに。……では名乗ろう」
水が流れるように、風が吹くように自然な動きでポーズをとる。上げる方の足を少し曲げ片足立ちし、直角よりも浅い角度で両手を伸ばす。
「儂の名はシンミン! 命を司る神、命神じゃ!」




