交渉直後
「どうですか、これ。結構似合っていると思うんですけれど」
「ああ」
半袖のシャツとベストにショートパンツ、アクセサリーで手袋を着けた動きやすそうな服装だ。
「ロングブーツも合わせると盗賊みたいで良く似合ってる」
「絶対褒めてませんよね」
「考え得る限り最高の褒め言葉だと思うぞ」
「基準が犯罪者寄りですよ、それ」
「ゲームやアニメの盗賊、とちゃんと言えば伝わるか」
「なら私は市郎のコーデを旅商人と例えます」
確かに長袖長ズボンのベスト姿は何処かしらに居そうな普通の旅商人だ。
「でもベストだと少し寒いな。何か他に厚手のものは……。お、革ジャケットとかあるのか。衣服文明どうなってるんだろうな」
「それは世界旅行の最中で分かると思うわよ」
「姉さん、旅行なんて言い方では娯楽のようじゃないですか」
「こうして服選びなんてしてる時点で半分娯楽は入ってるだろ」
試しに手に取ったジャケットを羽織ると、かなり丁度良かった。姿を確認するため全身鏡の前に立つ。
「お、結構似合ってるんじゃないか? どうだ?」
「もう少し髭が生えてた方がかっこよさそうですね。でも、悪くはないですよ」
「ミシュにそう言われるならばっちし決まってるみたいだな」
「流石ですね、市郎。私のツンデレ属性を完璧に理解しています」
「ツンデレ属性っていうならもっとデレの方面を出してくれませんかね」
「難しい話ですね。えっと……、ビジネスデレなら出来ます」
「レンタル彼女にでも頼むよ、そういうのは。――ミシュはもうちょっとこう、ヒロインみたいな言動は出来ないのか」
「私はヒロインじゃないですよ。そもそもあなたを主人公として見ないでください」
「確かに自分が主人公だなんて驕慢にしても程があるけど、見るなと言われる程では無いだろ。人生は誰でも自分が主人公の自慢話だ」
「ミュージカルで聞きそうな台詞ですね。市郎の人生では私はヒロイン枠なんですか」
「自己中心的に話していた訳じゃないが、確かにそうなる」
「それは、――かなり趣味が悪い」
「ん、それはどういう」「服の見繕いも終わりましたし、行きますよ」
「……ああ」
カエズから貰った袋から取り出した幾つかの金貨を店員へ渡し、外へと顔を出す。
袋は支給品とのことだが、中身には結構ものが入っている。
「どうする、このまま一つ向かってみるか」
「陽もまだ真上ですし、感覚も掴んでおきたいですが、一度あの森へ帰りましょう。少し解析したいことが出来たので」
「解析? それはソフィアの領分じゃないのか」
「どうしても気になるんですよ。私も加われば十分夜までには終わります」
ミシュの好奇心は止められない。研究家気質は既に知っている所なので彼女の意見に賛同した。
「あ、そうだ。その前に一つ寄りたい場所があるんだが、いいか」
「ダメです」
「すまん、言い方があれだったな。先に帰っといてくれ。満足したらアナザーを呼ぶから」
「ダメです。手間じゃないですか。死んでもいいならどうぞ好きにして構いませんが」
ミシュはあきらかなボタンをこちらにしっかりと向けた。俺の体に流れる毒に毒性を与える装置。割と久々に見かけたな。
「お願いだ、頼む。教会に行ってみたいんだよ」
脅迫されても俺は引き下がらない。
「何でですか。教会ならNWでも珍しくないでしょう」
「好奇心だ。気になるんだよ、今のお前と一緒だ。気になって仕方がない。自分の好奇心は満たすのに他人は無視か? フェアに行こうぜフェアに」
「……はあ、分かりましたよ。袋はアナザーに乗っけておきます」
「よし。コールはWITHからだよな」
「満足したら呼んでくださいね」
「了解」
「……行くのはもういいですが、どうしてそんなに教会が気になるんですか」
「だから好奇心が」「話聞いてませんね。なんでそれほどの好奇心が湧いたのかを聞いたんですよ」
ミシュに言われ、頭の中に原因を思い浮かべる。
「……あれ、何でなんだろうな」
浮かばなかった。一個も。
多少城と融合してたりとかなんとかで俺の知る教会でないのは事実だが、敬虔な信者でもこだわりのある建築家という訳でもないのに、無性にこれが気になる。好奇心を持つまでに至る理由が見つからない。
「まあ、好みのデザインだったとか個人的な感覚なのでしょう。突発的なものに理由を求める方が難しいことでしたね。悪いことをしました」
「……お前が、謝る? やべえ、交渉成功したのに槍の雨でめちゃくちゃになっちゃうぜ」
「本気で殴られたいんですか」
「冗談、冗談。――そういえば、異世界人の証明とかなんとかって何だったんだ?」
あぁ、と今更思い出したように話し始める。
「もっと策は考えてあったのですが、相手がいかんせん超越存在だったので全く使わなかったんですよ」
流石にミシュも予想してなかった存在らしい。そりゃ、あいつを知らずして予想するのは神でなきゃ不可だ。
「お陰でインパクトを与えるための初策を無駄撃ちすることになってしまいました」
「あのダイナミックな登場シーンか」
「後片付けが中途半端なので、誰かしらに良くないイメージがついている可能性があります。一応は気を付けておいてください」
あの時の姿でない以上、見ただけで襲われる、みたいなことは起こらない。が、注意が必要なのは間違いないだろう。
「さんきゅ。じゃあ、今度こそよろしくな」
口で肯定はしなかったが、不満そうな顔でもなかったのでここで永住エンドは避けれそうだ。
アナザーは稼働し、見るもびっくりな速度で出立した。
「……ミシュの気分が変わる前に行くか。――ソフィアが居るから大丈夫そうだけど」
そう、ソフィアが居るから大丈夫。
そこが違和感なんだが。
アナザーの統括管理システム兼、同乗者ヘルスケアAI。仰々しいネームドだが、用はロボットに搭載されたお助けAIだ。
ソフィアから軽くあいつのバックストーリーを聞き出してはいる。ミシュの産まれから考えられる人間不信、コミュ障、俺への態度。それでも俺を頼る理由は少し謎に思えるがそこはいい。
今考えたいのはソフィアへの信頼の強さだ。
話の流れから人間でないAIに依存するのは当たり前のように感じるが、二人に感じたのは依存のような歪なものではない。
もっと暖かい、安心感のある絆だ。だから俺は信頼と呼称する。
ここで話は終わらない。あの二人の関係は歪でないが不思議ではある。また話の流れから引用するなら齟齬が起こるのだ。
一つ納得のいく理由をつけるとするのならば……
「あいたっ」
思考に没頭しすぎて、目的の扉の隣に頭をぶつけてしまった。
人は考える葦であるとか言ったが、考えすぎたら葦以下になるのはこれで実証できたろう。
……まあいい、さっさとこの欲を満たそう。俺はドアノブに手を掛け、扉を開く。少し重たいが、難なくそれは可動する。




