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第一話 依頼③ ~聖女?~

「もしかして、フギスナギルドのハゼさんって方をご存知ですか」

 

 試しに質問をしてみれば、少し驚いたような顔をした。どうやら、この人で間違いないらしい。

 

「なるほど。老公爵を知っているということは、君が協力者ということかな。――はは、良い人選だ」

 

 彼女の自己紹介で思い出した、少し衝撃で忘れていた目的、その依頼者のハゼさんは親しい相手にのみ、老公爵と呼んで欲しいと頼んでいる。


 住む場所からして関わるタイミングはあまりなさそうだが、どうやって知り合ったのだろうか。……まあ、それは後でも構わない。

 

「ハゼさん、もとい老公爵から、ある程度話は聞いています」

「話が早いな。助かる」

「ええ。でも、一応聞いておきたいんですが」

「何だ? 君の質問というならどんなものでも答えよう」

「……その、僕はそれほど優秀ではないので、むず痒い期待を含んだ言い方はあまりして欲しくないんですが」

「大丈夫だ。一心同体、一蓮托生といっても過言ではない私達なのだから、そこまで気負う必要はない。――それに、あの老公爵の紹介だ。期待はしてしまうだろう」

「そういうのをむず痒いって言ってるんですけど……」

 

 むしろその言い方は重く感じる。

 

「で、質問とは何だ。ニト」

「あ、はい。えっと」

 

 デリケートな質問に思え躊躇ったが、ここで止めるには話に踏み込みすぎているので、思いっきり言い出すことにした。

 

「……何で家出しようと決めたのかなと思って」

 

 今回の依頼、フギスナギルドの代表の一人、老公爵のハゼから直々にご指名を受けた僕が頼まれたのは、神と話せる神嫌い、神と意気投合できぬ、謂わば神気不投合のシスター、ユンクォ・フリードレードの門出のお手伝いだ。

 

「なんだ。そんなことか」

「……そんなこと、でいいんですか」

「当たり前だろ? 逆に言えば、こんな居心地の悪い場所に居続ける理由が無いからな」

 

 前置きをしてしまったわりには、あっさりと答えが出てしまった。それに、とても意外な理由という訳でもなかった。

 

「納得がいかなかったか」

「いえ、むしろしっくりくるものでした。それが、逆に違和感を生んでいるというのがあって」

「ありきたりとも言えるからな、当たり前は」

「いや、別に行動原理を評価するようなことを言いたい訳ではないんです」

「分かっているよ、君がそういうタイプではないのは。それは私がしていることだ」

「ユンクォさんが?」

「自己批判というのは私の趣味みたいなものでね。思い上がらず、それでいて己の過ちに気付ける良い手段だと思うんだよ」

 

 違うかな? と問われれば、否定は出来ない。

 

「だから、君を責めている訳ではないんだ。気にしないでくれ」

「は、はい」

「よし。それじゃあ、早速荷物を持ってくるよ」

 

 ユンクォさんは入口に足を運んでいく。

 

「分かりました。では僕は、――って、ちょっと待ってください」

「ん? 何だ? 怖いことでもあったか? よしよーし、大丈夫だからなー」

 

 身を翻し、近くに来て頭を撫でながら彼女は言ってきた。

 

「そんな脈略無かったじゃないですか!」

「ここら辺は結構亡霊が漂っているからな。てっきり視えちゃって恐怖から私に甘えてきたのかと」

「僕ってそんな末っ子タイプですか?」

「ニト君のお姉ちゃんになるならそうだな」

 

 会話をしているようで時々話をしていない。おそらくユンクォさんは変な信頼を僕に置きすぎている。


 後、亡霊の話は聞きたくなかった。寝れなくなる。

 

「というか、そういう話じゃないです」

「君も乗ってたのに」

 

 不満ありげな顔をしているが気にしない。

 

「荷物を持ってくるって、もう出発ってことですか?」

「無論。協力者が来てくれたのだからな」

「いきなり、ですか。もうちょっとこう、ブリーフィングとかがあるものかと」

「君がどうにかしてくれるんだろう?」

「勿論、できる限りはどうにかします。が、僕自身ユンクォさんの家出のお手伝いとしか聞かされてないんです」

「それはつまり、私が家出に、わざわざ遠方の知り合いから協力者を頼んだ理由を知らない、ということか」

 

 随分と具体的に当てられた。

 

「懺悔の際に言語力のない奴は多くてな。こういう直感もそこで鍛えられたよ」

 

 心の呟きすら拾われたことには驚きを禁じ得ないが、それならさっきの僕の心中を見抜いてくれても良かったんじゃないかと思った。

 

「なるほど。老公爵はそういう所があるのを忘れていた。タイプで言うんだったら師匠タイプか」

 

 確かに師匠って大体重要なことを言いそびれるか隠してるけど。

 

「なるほど、なるほど。それなら私は君にもう少し事情を話さなくてはいけない。――のだが、一旦ここまでだ」

 

 後ろ方面から軋むような音が軽く聞こえ、首だけ振り返ると、入口から人が入ってきていた。

 

 同じルートを経由して戻した、僕の頭に付随した目には、フリードレード家のシスターが映っていた。


 決して神を嫌いだったり、距離感がおかしいお姉さんではない、それであるべきと思わせる姿になっていた。


 端的に言えば、大人しくなっていた。

 人は雰囲気まで着替えれるのか。

 

「明日、もう少し早い時間帯からおいでください。神のご加護があらんことを」

 

 実際、取って付けたのだろう常套句と整った言葉遣いで結ばれた約束を内心に留め、僕は教会を後にした。






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