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第一話 依頼① ~朝~

 ……意識が少しずつ戻ってくる。目をパチクリ、近くの窓から入る日の光を認識した。脳があまり回らず、上手く思考が出来ていない。

 

 僕は、何をしていたんだったかな。

 

 えーと、確か、昨日は請け負った依頼を達成する為に、久々にセイクレート王国に戻ってきた。

 

 それから、装備品の幾つかにガタがきていたからミョウタ用具店で新品を買ったり、修理を頼んで、そこから。


 ――そうだ。

 暗くなっていたから宿に泊まったんだった。少しずつ、頭が冴えてきたぞ。

 

 今回の依頼者は結構気長な人なので急ぐ必要はないが、かといって数週間も待たしてはいけないので、やれることは済ましておこう。幸いこの辺りは詳しい。

 

 睡魔はいないのでさっさとベットから上体を起こし、もう一つのベットの方へ歩く。纏めてある金髪が布団から漏れている。

 

「おーい、もう朝だぞ」

 

 声をかけてみるが、返事がない。

 

「おーい、朝だ朝だ」

 

 軽く揺すってみても、返事がない。ただのしかばねのようだ。

 

「……ん、ぅ~ん」

 

 前言撤回、生きてはいる。さっきよりも強く揺する。

 

「国王さまぁ、それはないですよぉ」

「誰が王様だ」

「私のサラダ返してくださいぃ」

 

 人のサラダ奪う王様って何だ。そんなに価値があるのかよ。

 

「純金だからって酷いですよぅ」

「食べれねえよそんなの!」

 

 しまった、ついツッコんでしまった。ただの夢に。

 

「……うるさいなぁ。眠いのよぉ、今は寝かせてぇ」

 

 少し見えていた頭も布団の中にすっぽり埋もれてしまった。思っていたよりも疲れていたらしい。


 ……まあ、仕様がない。一人で動くことにしよう。

 

 ベットを整え、一応何処に行くかのメモを残し、軽く身支度をして受付の方へと向かった。

 

 昨日見た気がする顔の男性が立っていた。


「おはようございます」

「おはようございます。ゆうべはおたのしみでしたね」

「さあ。隣の部屋じゃないですか」

「老人と少女で、なんてなかなかの業がありますね」

「個人情報じゃないんですか、それは」

「守秘義務はないので」


 手遅れではあるが、あまりこの宿は泊まりたくない。

 

 出ていこうとした時に、数日間分の宿泊費を既に払っているからか、「またのお越しを」ではなく、「行ってらっしゃいませ」と言われた。


 昔から変わらない癖でつい、

 

「行ってきます」

 

 と返した。

 

 それでは仕事を再開しよう、というので、まずはミョウタ用具店のある方向に向かった。

 当たり前ではあるが、王国内がよく見える。


 少し前はよく通っていたのだが、記憶は儚いもので、かなり曖昧だ。

 それでも、前より少し此処が寂れているのが分かる。


 単純に言えば人が少なくなっていて、具体的に言うなら、今横を通り過ぎた人数が十人から八人になった程度ではあるが。


 何度も訪れ、憧れていたこの国が変化していく様は心まで虚しいと思い込ませる。

 

「わっ」

「あ、すいません」

 

 歩いている方向から来ていた人に気付けなかった。あれだけ前を見ていたのにも関わらず。

 

 ……ちょっとばかし感傷的になり過ぎたな。一度自分の頬を叩き、弱気になった心に活を入れる。

 

「よし」

 

 改めて前を向いたものの、用具店の看板は既に横にあった。


          ◆◆◆◆

  

 僕の装備は昨日今日で直せる程の劣化で済んではいなかったようで、修理はまだ終わらなそうだった。

 

「悪いな。思ったよりも頑固な奴でもう少しかかりそうだ」

「大丈夫ですよ。それにはかなり無茶させましたし」

「無茶ねえ。一体何をしたらこうなるんだい」

 

 店主が弄っているそれに目を落とす。


 全長は八十センチ程、その八割を占める諸刃は軸が真っ直ぐ通っており少しのしなりもない。


 装飾はほぼ付けられおらず青いラインが軸上に引かれているのみ。

 

 グリップに滑り止めの布が巻かれている剣が僕の唯一の武器、グラディウスだ。

 

「盗賊団の鎮圧でもしたのか? 最近は増えてきてるからねえ。この辺りだと"銀の鷲"か」

「作戦に参加したことはありますけど、鎮圧したのは"神屑"ですね」

「神屑、って確か東の方で被害を出してたとこだろ。結構遠いところまで旅してんだな」

「そうですね。剣はその時に壊したわけではないんですが」

「違うのか」

「はい。……すみません、無駄話をしてしまって」

「いいよいいよ、無駄ぐらいしか生きる楽しみはないんだから」

 

 言い切った。

 

「色々あるとは思いますけど、楽しみって」

「それは全部無駄からだ。趣味にしたって食事の摂り方にしたってそうだろう?」

「食事はどちらかいえば不可欠、必要のように思いますけど」

「だから、摂り方だよ。食事、ではなく食事の、だ」

「一緒のように思えます」

「栄養たっぷりな食材を細切りにしたものを口にしても食事だが、俺らはそれを選ばない。俺だったら、……そうだな、野菜スープにするな。いかんせん年をえらい食っちまったもんで肉はヘビーなんだ」

 

 これだと食材も選んじまってるか、とも言った。

 

 つまるところそこが摂り方で、無駄。

 

「人生の楽しみは無駄……か」

 

 確かにそうかもしれないけど、実際事実なのかもしれないけれど、それはあまりにも人生を虚しくさせるような考え方だな、と思った。


 店主はため息のようなものを吐くと。

 

「これも年だな、変な話をしちまった。まあ、明日のこのくらいに来てくれ。その頃には直せそうだ。――あぁ、追加料金は要らないよ」

「分かりました」

 

 付け加えられたそれも含めた返事をして、次の目的地に向かうことにした。






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