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こんにちは異世界

「……ふう」


 静かな水面を眺めながら一息つく。

 なんというか、こんな大自然で、こんな神秘的な場所に来る機会があるとは思ってもみなかったが、……凄く良い。


 ちゅんちゅんと鳥がさえずっているし、暑すぎない優しい日の光も木々の間から射し込む。心が洗われるようだ。


 都会よりも田舎での暮らしを望む人はこういうものに惹かれてしまうのだろう。確かにこれはなんともかえがたい優雅さがある。


 そういえば、こうして草の上で座るというのは意外に幼少期にもやった覚えがない。小さい頃から地面に座るのは汚ならしいとか、行儀が良くないとかであまりする機会が無かったのだろうな。

 教育制度が整った国で育った影響なのか?


 ならば、もっと自然に寄り添った授業を受けてたら今の視点もまた別ベクトルになったりとか……。


「もしもーし」

「あっ、はい!?」

「ミシュが用意できたって」

「あー、OKです」

「何で敬語?」


 完全に呆けてしまって、それこそ学校でいきなり先生に指された時みたいになってしまった。これで相手がソフィアだったからまだ耐えたが、あいつだったら終わってたな。


「いや、何でも。というか、別に離れてるわけでもないんだからソフィアが伝える必要はない気がするんだけど」


 因みに、ミシュとアナザーは振り替えれば目視できる程の距離に集まっている。


「私のメインタスクはこれなのよ? それを必要ないなんて酷いわね」

「事前の話の通りなら、結構なメインは他にもある様な……」

「他のメインがないでしょ」


 この人(AI)の辞書からサブって消されているらしい。開発者は今すぐアップデートしてくれ。

 

 修正求む。


「私達三人しか居ないんだから頑張らなくちゃ。サブメンにはなりたくないし」

「どうしてもツッコまないといけないのか」


 これから本館とやりあうので少しは休ませて欲しい。


「冗談冗談。今の内にエンジンは掛けといた方が良いかなって」

「素敵ないい迷惑ありがとうございます」


 べらべら喋りながら腰を浮かせ、巨大な人型と小さな人影に近づく。


「……はぁ、やっと来ましたか」

「いやいや、そんなため息つかれる程は待たせてないぞ」

「五分も待たせたくせに」

「え? 俺そんなにぼーっとしてたのか?」

「私が呼ぶの頼まれたの一分くらい前よ」

「ナチュラルに嘘をつくな! ちょっと自覚あったような気がしちゃったじゃないか!」

「嘘じゃないですよ。私が言っているのは実際でなく体感の時間です」

「屁理屈だ」

「事実です」

「気持ちの問題を事実にするなよ」

「じゃああなたは気持ちの問題だからとパワハラセクハラを看過するんですか?」

「勿論それは顔面蹴り倒してでも許していけない事だが、一緒にできるもんだと思うな。お前のはただの言い訳だ」

「その話はいいですから、早く行きますよ」

「……分かった」


 彼女の十八番、形勢が悪いとお話チェンジを見せられてしまったが、俺もこのまま駄弁っててはいけないと思ったので次の言葉を喉に引っ込めた。

 いや、ここは鞘に納めたというべきだろう。良かったなミシュよ。


「それじゃ、乗って乗って」


 ソフィアに誘導されるような形でアナザーに乗る。体に浮遊感を覚える。

 この感覚はまだ二回目で慣れていないので、少し心臓が絞められたような気持ちになる。


「怖い?」

「少し」

「まあ、市郎くんは怖がりだものね」

「待て待て。誰でもビビるでしょこれは」

「私はそうでもないですけどね」

「ミシュは俺より経験多いじゃないか」

「言っても三回目ですよ。市郎と乗っていないのはNW(ノーマルワールド)に来る時の一回ぐらいです」


 ……マジか。もっとやってるもんだと思っていた。俺が慣れるのが遅いのか?


「言っちゃえば、ぶっつけ本番のフライトしか出来なかったのよね」

「それは私が優秀だから大丈夫でしたけど」

「なんで自慢っぽくなってるんだよ。――あ、そういえばこれって何処に向かってるんだ?」

「あー、それはね」


 突如視界に広がる視界。

 意味が分からない表現をしたが、ちゃんと言えば、少し前に撮ったらしい鳥瞰映像を網膜下に投射された。


 見えたのは立派なお城を中心に、放射状をなして多くの建物が立ち並ぶ土地。


 それに、城と同じかそれ以上の高さのある壁がその全てを隠さんとしている。


 上からの眺めなので隠れてはいないのだが。とにかく、それを一単語でまとめるなら、"王国"と呼ぶのが綺麗だ。


「ここに向かってるのか?」

「この周辺では一番大きい集落のようです」

「随分と立派な所だな」

「そうかしら。市郎のいた町ほど、発展はしてない様に見えるけど」

「俺の世界、NWやミシュ達の世界ほど時間がたってないんだろ。それに、俺の知っている街の風景にこんなに豪華な城は建ってない」


 立派だというのは、その点だ。するとソフィアが不思議そうに言う。


「すごく大きな城のあるテーマパークって市郎くんの所になかったっけ? 名前は、えーと」

「あれはハリボテ。 中身は行ったことが無いからあまり詳しくないけど、ガラスの靴を履いたりしか出来ないはず」

「へえ。結構NWは調べ尽くしたと思っていたけど、まだまだ未知はあるものね。ありがとう」

「どうも」


 ここで感謝を述べられるのがソフィアの魅力の一つだ。誠実さをすごく感じる。


「でも、こういうのを見ると異世界に来た! って感じがするな」

「それは私も思います。最近の網目でもよくありましたしね」

「アニメと網目を間違えるほど違う言語は使ってないって話だったろ」

「すいません、噛みました」

「迷子の少女の十八番に似せるな。これ以上は続けんぞ」

「そうですか。何回も読み返してたので好きなシーンなのかと」

「大好きだけど他の人にされるのは気に入らないし、何より使っていい権利がない」

「面倒くさいオタク思考ですねえ。ほぼほぼ信仰じゃないですか」


 うるせえやい。


「国民的な作品だったら良かったんですか?」

「まず自分の言葉で伝えられるようになってくれ」

他人(ひと)の袖に我が腕通らずってことね」

「ごめん伝わる言葉でお願い」

「お、見えてきたわよ」


 あんたも無視するのかい。泣きたくなる。


 ――冗談はさておき、目的地へと辿り着いたようだ。実際に来てみると、やはりおしゃれでど派手な城が断然トップで目に入る。


 こう見ると、周りにある建物も俺からしたら古めかしいものだ。


 木枠でできたレンガ造りの壁に、切妻屋根が載っかった家屋は中世ヨーロッパを彷彿とさせる。

 これまたレンガ造りの広い大道が十字に延びていて一種の芸術的な美しさを持っている気がした。


 さっきは気付かなかったが、城の形に少し違和感を感じる。


「歪じゃないか? あの城」

「私にはそうは見えませんよ。むしろ美的センスをこれでもかというほど刺激されます」

「いや、確かにきれいなんだけど、えぇっと、歪って言うのが違うな。何というか、腑に落ちないというか、ごちゃごちゃというか」

「世界が違うから、自分の感覚と合わない部分があるんじゃないかしら」

「……そういうことなのか」

「それか、市郎には理解できない領域にあるかですね」

「真面目な顔で言うな」


 違和感の話を続けても煽られるだけなので、再び国へ目を向けた。 


「あそこで調査するのか」

「そうですね。色んな言語を聞けたり、データベースがあればこの世界の歴史も辿れます」

「データベース……、このぐらいの発展具合だと図書館、とかかしらね」

「少なくともインターネット上のものは無さそうだ」

「はい」


 アナザーはそのまま空を進み、何事もなく中に入る。






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