信じる者はやっぱり最強…。その3
私には、忘れてはいけない友がいた。
いつも私の後をついて、何をするにも一緒だった。
今では、何処で暮らしているのか、元気にしているのかさえも分からない…。
その子の事を皆は「のぶちゃん。」と呼んでいた。
のぶちゃんは、同じ社宅に住む男の子。
私の後ろをついて歩く、YESマンだった。
前回、前々回に書いた話の中にも登場しており、私が神なる力を披露した際に、大袈裟なくらい驚いて目を輝かせてくれるのが、のぶちゃんだった。
のぶちゃんは、きっと純粋な子供だったから、私が何をしても疑う事なく驚き褒め称えてくれたのだと思う。
今思えば、のぶちゃんの「凄い。」につられて、周りにいた他の子も、これって凄いのかと驚いてくれたのだと思う。
のぶちゃんは最高の友だった。
私は魔法の道具だった三輪車を失ってから(私が壊してしまっただけだが…)
何故か、黄金蜘蛛(黄色と黒の縞模様の蜘蛛)を虫取り網で沢山集めるという、遊びにハマっていた。
ゾッとする遊びだけど、私が虫取り網に黄金蜘蛛を沢山集めているのを、周りにいた友達は止める事もせずに、遠目で見て楽しんでくれていた。と思う…。
その時も、のぶちゃんだけは一緒に黄金蜘蛛をせっせこと集めてくれていた。
そんな奇怪な遊びをしていた時、ふっと社宅前の坂道をダンプカーが走っているのを見て閃いてしまった。
私は一緒に遊んでいた友達に向かって「車を止めてあげようか。」とだけ言って、一目散に道路へ飛び出して行った。
当時の私は、頭のネジが一本二本外れていると思われても仕方がない子供だった。
でも、その時の私は至って真面目、何故なら神から与えられている力があるから。
一緒にいた友達が私を止める間もなく、私は道路の真ん中に立っていた。
この時も、私なら出来る。と確信していた。
そして右手をかざした時、ダンプカーがやって来た。
私は怖くなかった。
よく聞く、車に跳ねられたり、ビルから飛び降りた時、スローモーションのように見えた。と、まさしくゆっくりとダンプカーが私に近づいて来くる、そして目の前で止まった。
私は、やった!やっぱり特別な力があった!と心の中で喜んだ。
ダンプカーを運転していたおじさんは、真っ赤な顔をして、車の窓を開け、私に向かって何か叫んでいたけど、おじさんの声は聞こえてこなかった。
そしてダンプカーのおじさんは、散々何かを叫んで気が済んだのか去って行った。
私は友達がいる方へ振り向き「ほら、車を止めたよ。」と満足気に笑ってみせた。
その時の友達の顔は皆、青ざめていたけど、私は、やっとの思いで、発揮する事ができた力の余韻に浸っていた。
しかし、その余韻も、そう長くは続かなかった。
何故なら、友達の中の誰かが、私の母親を呼びに行っており、母親もこの光景を目の当たりにしていたのだ。
私は、満足気な表情を浮かべ笑顔を見せていたが、友達の中に自分の母親がいるのを見つけた時、全身が凍りつき、友達と同じく青ざめた。
そして、生まれて初めて私は恐怖というものを感じた。
母親が血相を変え「この子は何て事をしてるの。」と叫びながら飛んで来て、私は、母親に抱え上げられ、あっという間に家へと連れて帰られた。
この時、友達は二度目の恐怖を味わったに違いない。
家へ連れて帰れた私は、ダンプカーを止めた時には感じなかった死を感じた。
この日、私は幼くして恐怖と死を一度に覚える事になった。
そして二度とこのようなバカな事はしません。と誓いを立てさせられた。
次の日、あの光景を見ていた友達からは、ダンプカーを止められる子供なんてそうそういる訳がないので、「凄いね。」「カッコよかった。」と英雄扱いをされる事になり、悪い気はしなかった。
以前から、私は他の子とは何か違っている事を感じていた。
そして私はついに自分の力を試す事が出来たのだ。
それからの私は、母親との約束を守り続け、二度とおバカな事はしなかった。
あの頃、私が感じた不思議な力は、私の頭の中の空想の世界だったかもしれない。
でも自分には神から与えられた力が宿っていると思い込んだ事で、命を落とす事なくダンプカーを止める事が出来たのなら、
信じる者はやっぱり最強!って事になりますよね。
ホント、恐ろしい幼少期でした。