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分岐性のアルゴリズム2

 いつもは微塵も通る気のない様な道なき道を進み、廃ホテルへと向かう。道中の草木は生い茂り、道は凸凹でかなり古くから使われていない事が分かる。長らく人が通った形跡は無く、獣達の痕跡しか見当たらない。

 適当に選んだ筈の場所だが、本当に曰く付きの場所の可能性があると思わせる様な雰囲気だ。

 ちょっと怖い。ってかちびりそう。


「しかし、それにしてもすげぇ道だな。割と近所な所にこんな良い場所があったなんてな。しかも、それがお前のおすすめスポットだなんて、全くもって驚天動地だ。」


「別に俺だって完全に興味がない訳じゃないさ。年頃の高校生なんだから少しぐらいはそういうスポットも知ってるさ。霊の出る廃墟のひとつやふたつやさ。」


「確かに意外だよね。かいなくんってそういうのが苦手なイメージがあったからさ。」


 ささみやには俺が心霊系が苦手な事がバレてるだと!?コイツには伝えて無いはずなのに。やはり、鋭い。


「まぁ、怖すぎてちびっちゃうんじゃないかしら?」


「チビらねぇよ。何歳だと思ってるんだよ」


「えっ?永遠の高校生でしょ」


「留年してるじゃねーかよ。おいおい、勘弁してくれよ。

最近成績不振で本当に留年しそうなのに。縁起が悪いぞ」


 すると高見は俺の肩をポンと叩きこう言う。


「まあ、留年してもギリ友達だからな。後輩にはなるけど。」


 どの口が言ってるんだと思ったけどその件に関してはスルーしておこう。


「高見の後輩だけは、マジで勘弁ものだ」


 道なき道も、他愛もない世間話をしているうちに抜け、その目的の廃ホテルへとやってきた。そのホテルには数々の蔦が張り巡られていて、いかにもな雰囲気をその外壁から物語っていた。

 しかし、この場所には奴はいない。つまり、安全地帯なのである。

 幽霊云々よりも人の方が怖いのだ。幽霊はあまり干渉してくる事はなかろうが、人間はこちら側に干渉してくる為、怖くてたまらない。

 何故なら、人を殺すのは、基本的にヒトなのだから。


「うわ、スッゲー不気味だな。思ったよりもガチっててやばいな」


「へぇーー。こんなにもしっかりとした心霊スポットなんて初めてですー。めちゃくちゃ気になりますー。」


「おっ、お前もテンションぶち上げて来たか!!」


 何も知らない二人は無邪気に飛び跳ねはしゃいでいるが、俺と玲は謎の不安感に駆られていた。


「俺が来たのは心霊ホテル、お前が来るのはラブホテル!!」


「おい、その下手くそで何にも韻の踏めてない聞くに耐えないラップをするのはやめてくれ。」


「不快ね」


「耳が腐りますー」


 俺、玲、佐々宮が口々に高見のラップもどきを酷評する。恐らく高見のラップは点数にすると2点ぐらいのクオリティだろう。


「おいおい、そこまで言わなくてもいいだろう?」


 高見は目と口を点にしながらショックを受けていた。


「まあ、高見だしな。」


 ただ一言結論が出た。

 そんなくだらないくだりを終えた後、高見は俺に疑問を投げかける。


「そういえば、此処はなんで廃墟になったんだ?見るからには別に大きいホテルだし、なんでだ?」


 勿論この問いに対しては対策済みだ。俺は嘘の経歴を話し始める。


「此処はどうやら高度経済成長期に建てられたそうだけど、バブル崩壊後に経営不振になり、潰れた。そして、今となっては破産した経営者の霊が徘徊している、というのがもっぱらの噂だ。」


 と、いう建前なのである。

 勿論の事だが、この解説は先程思いついただけの嘘並べだ。この物語はフィクションですって奴だ。この話を真に受けるだけ無駄だという事だ。取り敢えずホテル系の廃墟は高度経済成長期がー、とかバブル崩壊がー、とかそれっぽい事を言えば充分に納得してしまうほどの理由へとなるからな。正直なところ、俺だって高見の立場であれば普通に心霊スポットだと思って、震え上がるであろう。

 ちなみに調べた所、本当はただの廃墟でネットの地元掲示板などを確認したが、全くの心霊現象も目撃されていないし、何か曰く付きの事件が起きたわけでもない。いわば何も無い健全スポットなのだ。


「へぇー、ガチだ。」


 だが、高見はバカなのですぐに信じてくれた。俺も色々と偽るのは心痛いものなのだが、しょうがないのだ。


「正面玄関から入ろうぜ。」


「いや、正面玄関潰れてね?ほら、なんか崩れた跡がある。」


「ほんとだわ。まあ、裏口から入る方法があるでしょう」


「裏口なら此処ですよー」


 俺たちはゾロゾロと裏へと回る。

 その時であった。聞き覚えのある悲鳴が後ろから聞こえた。その瞬間汗と動悸、それどころか震えが止まらなかった。

 アイツだ。

 こんな所にまでもついてきやがったんだ。そして、信じたくはないのだが恐らくあの悲鳴はささみやのものであろう。

 俺は後ろを恐ろしくて振り返る事ができなかった。


「やっ、あっ」


 冷や汗が止まらない。それと同時に身体中から震えが止まらなくなってしまった。

 恐怖、恐怖、恐怖。

 その言葉が頭の中の事をグルグル渦巻かせる。それと同時に最も気にすべき疑問が浮かんでくる。

 

ー何故、ヤツが此処にまで居るんだ?


「どうした?かいな。さっきから震えて。つか、さっきの悲鳴は、、、」


「走れ!!お前ら!!」


「え、なんだよ急に。つか、ささみやは?」


「良いから早く走りなさい!」


 俺たち三人は死に物狂いで走り出す。しかし、四人目の足音が後ろから無慈悲にも聞こえてくる。

 さっき来た道へと戻り、草木を掻き分けながら俺たちは逃げる。


「なんなんだよ、アイツは」


「分からないけど、恐らく、俺たちを殺しに来ている殺人鬼だ。」


「な、なんだって」


「ほんとよ!冗談でも、ドッキリでもない、リアルなの。とにかく、アイツに捕まれば殺される事になるわ。」


「あれが霊なのか?」


「わかんない。」


 勿論こんな状況に鉢合わせたらドッキリとかを疑うのも無理はない。なんなら俺自身もこれがドッキリだと思いたいよ。

 そして逃げている時、玲が木のツルに足を引っ掛けて身体を地面に擦りながら、滑っていく。


「玲!!」


「か、かず!!私の事は気にしないで。取り敢えず、高見とふたりで逃げるのよ」


「えっ、えっ?」


 状況を殆ど知らないのでかなり戸惑っている高見。無理もない。俺も高見の立場であれば恐らくパニック状態に陥ってなにをしたら良いのかわからなくなるからな。しかし、説明している時間はない。


「......分かった。」


「大丈夫、また今日の日に会いましょう。今日も生きなさい」


「すまないッ、今日必ずまた会おう。玲っ!!」


 俺たちは奇しくも玲を見捨てて走り続ける事にした。合理的判断ではあるのか。


「お、おい、、、玲を見捨てて大丈夫なのかよ?」


「心配するな。アイツならなんとかなる筈だ。とにかく今は自分達の心配をしろ」


「あ、ああ」


 逃げ初めて3分頃が経った頃。すっかり見知らぬ道へと出てきて、俺たちは相変わらず死に物狂いで逃げまだしていた。しかし、気づいた。正面には崖がある。

 落ちれば命失くす程の高さであるが、俺たちは止まる事が出来なかった。

「「うぁぁぁ」」

 お互いに絶叫しながら、俺たちふたりは崖から落ちた。

 恐らくまあまあの高さであろう所から落ちたのだ。


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