第一章8「ルート分岐イベントは突然に」
「どんな女の子がタイプなんですか!? 好きな食べ物は!? 趣味は!?」
「あ、あの……。できれば質問は一つにしてくれると嬉しいんだが……」
今朝は色々とありすぎたが、結局、三谷時音と緋之原琴葉の二人と登校することになった春輔。
右に三谷、左に緋之原……。まさに両手に花の状態であるが、花を感じるとは決して言い難い異質な状況だった。
「あ、アタシ。一目惚れって生まれて初めてで……。岡崎さんを一目見たときから、胸がキュンとしてしまって……!」
「岡崎君、顔がイヤらしいよ……?」
緋之原の友達だという三谷は、さっきから羨望の眼差ししか向けてこないし……。緋之原本人に至っては、普段の清楚らしさが感じられないほど不機嫌そうだった。
――これ、色々とマズいんじゃ。
その証拠を裏付けるかのように、通学路を通る学園の生徒たちから、ヒソヒソと何かを言われる。
そう。とんでもなく湿っぽい視線で……。
「あれ、緋之原さんだよな……。その横のやつ、まさか彼氏か……?」
「ウソだろ……。我らが清楚の緋之原さんが、あんなパッとしない男と歩いているなんて……」
「しかも、三谷さんまで一緒にいるぞ……。あの"イケメンにしか興味の無い、難攻不落の三谷さん"が……」
周囲のヒソヒソは、次第に春輔に対する嫉妬へと変わっていく――。
「「「あいつ、一回爆発しやがれ……」」」
主に男子生徒たちからの負のオーラが濁流のように流れてくるのを感じながら、学園の門へと到着する。
すると――。
「岡崎さん! ここはアタシと手を繋いで、二人で教室に行きましょう!」
「え、ちょ――」
三谷に強引に手を引っ張られ、春輔は彼女に引きずられるように校舎へと入った。
そして――。
「ちょっと、待ってよ! 二人とも、私を置いていかないでよ!」
こちらの後を、緋之原が慌てて追いかけてくる。
いつもの彼女からは想像ができないほど、その表情は焦りに包まれていた。
「ひ、緋之原……?」
春輔が彼女の名前を呼ぶと、緋之原は「ふんっ!」と拗ねた子どものようにそっぽを向いてしまった。
ヤバい。緋之原のやつ、何かかなりご立腹なさってるぞ……。いつもなら、笑顔で誤魔化すのに……。
普段の緋之原と、今の緋之原のギャップが乖離しすぎて、姿が同じだけの別人なのでは……と思ってしまう春輔だった。
――――――
春輔が三谷に手を引かれて教室へ入ると、クラスの話題が一瞬にして、春輔のことで染まりきった。
「おい、岡崎のやつ、あの三谷さんと手を繋いでるぞ……!?」
「しかも、緋之原さんまで一緒にいるよ……。あれってもしかして、二股ってやつなんじゃ……」
「クソッ……。岡崎のやつ、いつの間にあんなリア充になりやがったんだ……」
数え切れないほどの湿っぽい視線を向けられたまま、春輔は席へと着く。
すると、三谷が席の前までやって来て、春輔の机の上で腕枕を作った。
「アタシ、実は隣のクラスなんですが、ホームルームが始まるまで、一緒にお話しませんか?」
「そ、それは別にいいんだが、その……。場所、変えなくていいのか?」
そう訊くと、三谷は不思議そうに小首を傾げた。
「場所を変える、ですか……?」
「いや、教室の空気がなんというか……。俺が二股したみたいな空気になってるんだよ……。正直、居心地悪い……」
春輔がそう口にすると、三谷はこちらの意図を察したようで、納得したように何度も頷いた。
「まあ、今は移動するのはやめたほうがいいですね。……ホームルームまでもうすぐですし、アタシも長居はしませんので」
「そ、そうだよな……」
「……むしろ、ここは発想を変えて、アタシたちのラブラブっぷりを見せつけてやりましょうよ!」
「そ、それは、さすがに……。なあ、緋之原?」
「……」
隣に佇む緋之原に確認をすると、彼女からの返答は一切無かった。
「ひ、緋之原……?」
緋之原の顔を見ると、彼女はさっきから仏頂面のままだった。
「別にいいんじゃないかな。……良かったね、時音ちゃんと"ラブラブ"で」
ラブラブという部分を嫌に強調してくる緋之原。
「な、なあ、緋之原……。何か、性格変わった?」
「そうかな? これでも、私は普通だけど?」
――いや、絶対怒ってるだろ、これ。
言い方に全く感情を感じられない緋之原。
何だか、会話の仕方に抑揚が無く、彼女から感情が抜けてしまったのではないかと思うくらいだ。
すると――。
「ねえ、岡崎君」
急に、緋之原に淡々と名前を呼ばれる。
「な、何だ……?」
春輔が返事をすると、緋之原は――。
「……私のこと、もう攻略してくれないの?」
「え……」
不機嫌そうに腕を組んだまま、緋之原はそう零す。
――そういえば、これ、昨日やったエロゲーと展開が似てるぞ。
昨日、緋之原と鑑賞したエロゲーの中に、ヒロインたちから嫉妬されて"ルート分岐"と呼ばれるイベントが起こっていた気がする……。
まさか、今、この目の前で、リアルのルート分岐が起こっているというのか……。
――もしそうだとしたら、俺は緋之原か三谷かを、今ここで選ばないといけないってことになるのか?
突然のルート分岐イベントに、春輔は頭を抱えるのだった。




