第一章3「出会いはエロゲーよりも運命的……?」
「ここからクライマックスだよ……!」
「お、おう……! 良い感じに盛り上がってきたな……!」
緋之原琴葉の部屋へお邪魔すること数時間……。
最初は乗り気じゃなかった春輔だったが、彼女が選んだエロゲーのストーリーに魅入ってしまい、気がつけば時間を忘れるほど、緋之原とエロゲーの鑑賞をしていた。
緋之原と春輔の視線は、ずっとパソコン画面の一点に集中していた。
「一気にシリアスになってきたな……。このまま、無事にヒロインの夢が叶うといいけど……」
「まあ、見てて……」
緋之原の言われた通り、先の展開を静かに見守ることにした春輔。
――大まかな粗筋は、こうだ。
エロゲーに登場するヒロインの夢は、漫画家だった。
しかし、彼女は絵がお世辞にも上手いとはいえず、そのことが学内のクラスメイトにバレてしまい、結果、彼女は描いた漫画をバカにされ、イジメを受けてしまうのだった。
もう、漫画家の夢を諦めて、世界にも絶望して、学校の屋上から身投げしようとしていたヒロイン……。
そこで、今作の主人公に助けられ、色々あって恋に落ちていく……という導入部分だった。
「頼む……。夢が叶ってくれ……」
そして、紆余曲折あって、なんとか漫画の新人賞に応募できるほどの実力をつけたヒロイン。
だが、そこで、ヒロインに悲劇が訪れる――。
「まさか、ここで攻略ヒロインが病気になるなんてね……」
緋之原の言う通り、これからが本番という場面で、ヒロインは病気で倒れてしまう。
しかも、彼女が患ったのは、結構重い病気らしく、助かる見込みが半分も無い、と医師から告げられてしまうのだ。
再び絶望の底に突き落とされたヒロイン。
――だが、冒頭のときとは違い、ヒロインは完全には希望を捨てていなかった。
なぜなら、彼女には"主人公"という大きな存在がいるからだ。
その主人公に支えられつつ、病室という狭い空間ではあるが、新人賞に向けての作品を描き続けるヒロイン。
そして、その結果が今、発表されようとしていた――。
「……ど、どうなるんだ?」
先の展開にドキドキしてしまい、パソコンから目が離せない。
メッセージを進めるキーボードの音が、やけに大きく聞こえる。……まるで、攻略ヒロインの命運を一つずつ噛みしめるのように。
そして、ゲームは次のシーンを映す――。
「よ、良かった……!」
緋之原と春輔の明るい反応で、話のオチは決まっていた。
漫画家の夢を持ち、何度も挫折を味わいながらも、主人公と支えあって、最後には自分の夢が叶う……。
さらには、病気からも復帰し、ヒロインと主人公たちのその後の生活が映し出された。
――すごく王道な展開ではあるが、エロゲーに興味が無かった春輔ですら心に響いた良い作品だった。
画面はスタッフロールを映し出し、エンディングテーマの美しいピアノの旋律が流れ始める。
「どう、だった……?」
緋之原が恐る恐る感想を訊いてくる。
その答えはもちろん――。
「すごく感動したよ……」
その返答を聞いた緋之原は、心の底から嬉しそうな顔をした。
「良かった……! この作品……。私、エロゲーの中で一番好きなんだよね……!」
「まだこれしか見てないけど、分かる気がするな……。なんか、エロゲーというより、映画を一本見終わった気分になるけど……」
「でしょ! ストーリーも文章の書き方も巧妙で、引き込まれるでしょ!?」
緋之原が興奮気味に言ってくるが、実際その通りだった。
「主人公とヒロインの掛け合いがすごく好きだな。周りはヒロインの漫画家の夢を否定しまくるのに、主人公だけは否定しないって……。そんなの、もう運命の出会いじゃないか?」
春輔がそう言うと、緋之原は何度も頷いた。
「そうそう! そこがこの作品の売りだからね! だからね――」
そこで、緋之原は話に区切りを打つ。
「この作品のヒロインと自分を、どうしても重ね合わせてしまうんだよね……」
「緋之原……」
彼女の言葉を聞いて、何となくだが、彼女がこの作品を見せたがっていた理由が分かった気がした。
確かに、緋之原とあのゲームのヒロインには、自分の趣味を否定されているという共通点がある。
ということは、もしかして――。
「もしかしてだけど、あのとき、俺がエロゲーの主人公に似ているって言っていたのって――」
――私を攻略してくれる主人公君が。
緋之原のアパートに来る前に、下校中で彼女からそう聞いた。
あのときは何のことかハッキリとは分からなかったが、ここに来てようやく理解できた。
「……そうだよ。私、岡崎君のこと、このエロゲーの主人公と重ね合わせていたの」
「だから、俺に一番見せたいエロゲーって言ってたのか……」
「そうだよ。だからね――」
緋之原がそこまで言ったところで、不意に背中から柔らかい感触がした。
「私。岡崎君に、ずっと、ずーっと攻略してほしかったんだ……。今まで、自分の趣味を否定されてきて、すごくツラかったから……」
「ひ、緋之原……!?」
緋之原はなんと、イスに座るこちらの背後から手を回し、ガッシリと抱きついてきたのだ。
女の子から抱きつかれるなんて、人生で経験したことがないので、その魔性の魅力に心を奪われそうになる。
――落ち着け、落ち着け! こういうときは、素数を数えると良いって某神父も言ってたしな!
理性を保つのに必死な春輔。
しかし、その必死の抵抗に追い討ちをかけるかのように、緋之原からとんでもない一言が飛び出す――。
「……今夜、私の家に泊まってほしいな」
彼女の色っぽい吐息とともに感じる危険な提案……。
その提案に、春輔は――。




