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第一章2「君の攻略するヒロイン」

「ごめんね。散らかってるけど、ゆっくりしてね」

「お、お邪魔、します……」


 学園の清楚せいそこと、緋之原ひのはら琴葉ことはの住むアパートへとやって来た岡崎おかざき春輔しゅんすけ

 年頃の女の子の部屋へと上がる緊張感は半端ではなく、室温が高くはないのに変な冷や汗が吹き出るほどだった。


 ――しかし、それを差し置いても、彼女の部屋は、もう"凄い"の一言に尽きる。


「よくこんなに集めたな……」

「えへへ。どれも国宝レベルの収穫品だよ」


 部屋の壁一面に貼られた美少女キャラのポスター。さらには、部屋の隅に積まれたエロゲーとおぼしきゲームパッケージの山……。

 アクリルの展示台には、美少女系のフィギュアが所狭しと並べられており、それぞれが喜怒哀楽の表情とともに飾られている。

 フィギュアの中には、塗料で塗り直した形跡があるものもあり、少し油性インクのニオイが緋之原の部屋には残っていた。


 ――オタクと緋之原には失礼だが、予想以上にオタクらしさが全面に出ている部屋だと思ってしまった。


 ただ、ここまで自分の趣味に没頭できるのは、素直にすごいことだと思う。


「あ、今さらだけど、親に連絡しなくてもいい?」

「え、ああ。俺もアパートで一人暮らしだからさ」


 そう答えると、緋之原は何だかうれしそうな顔をした。


「そうなんだ! じゃあ、今日はエロゲーやり放題だね!」

「エロゲーやり放題って……。一つだけやったら、俺は帰るからな? 明日も学校あるし……」


 さすがに、いくら誘われた美少女の部屋とはいえ、長居するのは悪いし、相手が慣れない美少女とエロゲーのセット、だからな……。

 そう思って緋之原の顔を見ると、彼女は少しだけ寂しそうに笑っていた。


「そうだね……。さすがに、岡崎おかざき君を長居させるのは駄目だよね……」

「ひ、緋之原?」

「あ……。えーっと、何でもないよ……! それよりも、早くエロゲーやろう!」


 何かを誤魔化ごまかすように慌てる緋之原。

 そんな彼女は、机の上にあるノートパソコンを起動させると、ゲームパッケージの山から何個かエロゲーを取り出す。


「パッケージ版とダウンロード版、ケータイ版もあるんだけど、どれがいい?」

「そ、そんなに持ってるのか……。その中でオススメは?」

「全部!!」

「は、はあ……」


 そんなに自信を持って、こちらが迷うようなことを言わないでくれ……。

 そう思っていると――。


「……じゃあ、私が一番、岡崎君に見てほしい作品をやるね」

「お、おう……」


 緋之原はゲームパッケージの中でも、パソコンのすぐ横に置いてあるエロゲーを読み込んだ。

 何か特別な想い入れが緋之原にはあるのか、そのゲームパッケージだけは、唯一無二の存在のようにも見える……。


 しばらくしてから、キワドいポーズをしている美少女キャラたちとともに、タイトル画面とおぼしき画面がパソコン一面に表示される。

 が、春輔にとって、こういったゲームは初めてなので、どう操作していいのか分からない……。

 すると、それを見かねた緋之原は――。


「ここをこうして……。ほら、始まったよ!」


 彼女は、慣れた手つきでキーボードとマウスを操作し、ゲームをスタートさせた。


「お、おう……。これ、よく見かけるメッセージ枠の出るやつだな……」

「そうそう! コンフィグで音楽の有無やボイスの音量も調節できるからね」

「まあ、せっかくだし、デフォルトでやらせてもらうよ」


 こうして、ついに"学園の清楚"である緋之原と、エロゲー巡りの旅が始まった。


 ――と、思ったら。


「え……? な、なななな、何かいきなりキワドいシーンから始まったぞ!? なんだコレェ!?」

「わ、わわわわ!! ごめん!! 間違えて、私がセーブしたとこからスタートしちゃった!! わわ、もうすでに出来上がってるよ、この二人……!!」

「実況してないで、早くスタート画面に戻してくれえええ!! こっちの精神が持たねぇんだよー!!」


 女の子と……。しかも、学園内屈指の美少女と"そういうシーン"を同時視聴してしまい、二人とも顔をリンゴのように赤くしながら、パニックになってしまう。

 カオスとエロスを極めたゴチャ混ぜな空気の中、着々とエクスタシーへ向かおうとする画面……。

 それを一刻も早く戻そうと、春輔はマウスに手を伸ばす。

 すると――。


「あっ……」「はうっ……!?」


 緋之原も同じことを考えていたようで、彼女の手と春輔の手がマウスの上で重なってしまう。

 その甲斐かいもあってか、タイトル画面には戻ったが、今度は手の甲に直接感じる緋之原の体温に、春輔は頭が真っ白になってしまう。


「ご、ごめん……!」

「わ、私こそ、ごめん……!」


 お互いに顔を見合わせて、お互いに赤くなりながら、お互いに謝った。

 しかし、マウスの上で重なる二人の手だけは、そのままの状態だった。


「わ、悪い……。い、今すぐ手をどけるから……」


 そう言って、春輔は慌てて手を退けようとするが――。


「ご、ごめん。こ、このままで、いさせて……」

「え、ええ……?」


 顔を赤らめながらこちらの手を離さまいと、手を強く握ってくる緋之原に、春輔の頭はパンク寸前だった。

 すると――。


「こ、こういうの、エロゲーの中の世界でしか見たことなくて……。その、ずっと憧れてたから――」


 そう口にする緋之原。すると、続けて――。


「それに……。相手が岡崎君だったら、なおさら……」

「な……」


 緋之原から、甘味要素の強すぎる言葉が飛び出した。

 ヤバい……。な、何で緋之原は俺のことを、こんなにも褒め倒すんだよ……。


「……お、俺を褒めても、何も出ないぞ?」


 思わずそう口にするが、緋之原は手の力を微塵みじんも緩めてはくれなかった。

 いや、むしろ少し強くなっているような――。


「何も出なくてもいいよ。私、エロゲーの主人公みたいに優柔不断で優しい岡崎君のこと、これから離すつもりはないから。トゥルーエンドまで、ずっと――」


 緋之原はそう言うと、少しイタズラっぽく笑った。


「……だから、私のこと"攻略ヒロイン"として、見てくれるかな?」


 緋之原の言葉は、春輔に対する宣戦布告のようにも聞こえた。

 これ……。もしかして、緋之原って俺のこと――。


「と、とりあえず、その答えは"緋之原が俺に一番見せたいエロゲー"をやってからにしてくれないか?」


 そう答えると、緋之原は――。


「うふふ、素直じゃないなー。……まあ、そういうところ、嫌いじゃないけどね」


 まるで、ギャルゲーやエロゲーのヒロインのように、春輔の優柔不断さを茶化してくるのだった。

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