第一章10「時音のお願い」
三谷時音の背中を追うこと数十分……。
春輔がたどり着いたのは、学園からそう遠くない場所にある、パソコン用のゲームが多く並ぶゲームショップだった。
所狭しと並べられたゲームパッケージに、春輔は目を奪われてしまう。
「ここ、アタシがよく来るとこなんですが、主にエロゲーの仕入れ先はここなんですよねー」
法に触れそうなことを、さも当たり前のように三谷は言う。
「いや、普通に考えて、未成年がエロゲー買ってたら補導されるだろ……」
そうツッコむと、三谷は悪びれる様子もなく、クスクスと笑うだけだった。
「あれ? 今まで不思議に思いませんでした?」
「な、何がだよ……?」
そう訊くと、三谷は妖艶に目を細めた。
「琴葉っちが、何であんなにエロゲーを大量に買えたのか……」
「あ、そういえば……」
緋之原の部屋は、確かにエロゲーで埋め尽くされていたが、今になって考えてみると、エロゲーが彼女の部屋にあること自体がおかしいことなのだ。
となると……。なぜ、緋之原はエロゲーを買えたのか……。
その疑問に答えたのは、三谷だった――。
「琴葉っちにエロゲーを渡したのも、アタシなんですよ」
「え、ええ……!?」
三谷の言葉に、変な声が出てしまった。
じゃあ、緋之原がエロゲーにハマった一番の要因って、三谷だったのか……?
だとすると、緋之原と三谷の関係って……。
そんな疑問を浮かべる春輔のことなどお構いなしに、三谷は当たり前のようにアダルトコーナーに入っていく。
「おい……! それはさすがにマズイだろ……!」
アダルトコーナーを隔てる暖簾越しに、三谷に忠告する春輔。
すると、彼女は特に気にすることなく「来てくださいよ」と手招きする。
「……し、仕方ないな」
これ以上、彼女に何を言っても無駄だと悟った春輔は、アダルトコーナーの暖簾をくぐる。
――俺は悪くない。俺は悪くない。俺は悪くない。
そんな言葉を、まるで念仏のように頭で反芻させながら、暖簾の先に広がる禁断の領域へと入り込む。
すると――。
「ふふ、入っちゃいましたね、岡崎さん……?」
妖艶な表情を浮かべながら、三谷はそう言う。
「み、三谷が入れって言ったから、入ったんだぞ……。もう知らないからな……?」
「あはは! まあ、何かあったら、アタシのせいにしてください。責任はちゃんと取りますから……」
「み、三谷……」
彼女の表情は、いつになく真剣そうだった。
なぜ、三谷がこんな場所まで案内したのか、それが分からないままついてきてしまったが、一体……。
すると――。
「これ、実は琴葉っちが欲しがってたやつなんですが……」
「え……?」
三谷が示す方向に目を向けると、そこには――。
「これって、確か……」
見覚えのあるゲームパッケージが、プレミアム品置き場に置いてあった。
そのエロゲーは今朝、緋之原の部屋に置いてあった、ゲームディスクを失くしてパッケージだけになってしまった、あのエロゲーと同じものだった。
「もしかして、岡崎さんって、このゲーム見たことあります……?」
三谷にそう訊かれたので、今朝あったことを彼女に詳しく話した。
すると――。
「ふーん……。琴葉っちがそんなことを、ですねぇ……」
何やら、三谷はニヤリと笑う。
「あのゲーム、緋之原がエロゲーにハマるきっかけになった思い出の作品らしいんだ」
「ふむふむ……。で、岡崎さんは、どうしたいんですか?」
「え? どうしたいって……?」
三谷に唐突な質問をされるが、春輔は何のことか分からなかった。
――そのため、返す言葉が思いつかない。
すると、それを見かねた三谷はクスリと笑って、あのゲームがあるプレミアム品置き場に目を向けた。
「岡崎さんのその顔……。琴葉っちと、仲直りしたいんでしょ?」
図星だった……。
なので、恥ずかしくて思わず三谷から顔を背けてしまう。
「そ、それが、どうしたんだよ……?」
拗ねた子どものように春輔が訊き返すと、三谷は――。
「あのエロゲー、琴葉っちにプレゼントしたらどうですか?」
「ぷ、プレゼント……!?」
その考えは、実は薄っすらと頭の中に浮かんではいたのだが、いざ口に出されて言われると、顔に熱がこもってしまう。
「えへへ。琴葉っちに、思い出の品をプレゼントして仲直り……。何か、すっごくドラマチックじゃありませんか?」
「それがエロゲーじゃなければな……」
そうツッコむと、三谷は「あはは!」と楽しそうに笑った。
「……で、どうするんです? 仲直り、したいんでしょ?」
「それはそうだが、値段のこともあるし、何より学生でエロゲーなんか買えんだろ……」
春輔たちが目をつけたエロゲーは、プレミアム品ということもあり、学生にはとても買えないような数字が、値札には並んでいた。
さすがに、あの値段は学生の経済的には無理があるし、年齢的にも大きな壁があるので、諦めるしかない……。
すると――。
「……お金、出してあげますよ?」
「え? あの金額をか……?」
正直、三谷の今後を心配するレベルの出費だ。
しかも、今さらながら、学生の身分でエロゲーを買うなんてどうかしている。
すると、三谷はこちらの考えを見透かしたのか、ニヤリと笑った。
「ふっふっふ。……年齢に関しては、ご心配なく」
「な、何でそんなに自信があるんだよ……」
「ここ、アタシの店だから」
「……へ?」
彼女は、何を言っているんだろう……。
あまりに突然のことに、春輔は頭が真っ白になってしまう。
「いやー、まあ……。厳密には、アタシのお父さんの店、なんですがね」
「は、はあ……」
「だから、こっそりエロゲーを拝借して、琴葉っちに……」
「それ、普通に犯罪だから!」
待て、同じ学園で逮捕者は出したくないぞ……!?
そう焦る春輔だが、三谷は気にすることなく大笑いしている。
「あはははは! 冗談ですよ、冗談! 本当は、お父さんに相談して譲ってもらってるだけです!」
「そ、それもそれで、どうかと思うけど……」
どちらにしろ、グレーゾーンなのは確かだ……。
「……で、どうするんです? あのエロゲー、琴葉っちにプレゼントするんですか?」
「そ、そうだな……。お願いしても、いいか……?」
そう懇願すると、三谷は妖しく笑った。
「じゃあ、アタシからのお願いも一つ、聞いてもらってもいいですか……?」
「お願い?」
「まあ、大したお願いじゃないので。……聞いてくれますよね?」
三谷は念を押すように言うと、小悪魔っぽくウィンクをした。




