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第一章9「バッドエンドルート」

 緋之原ひのはら琴葉ことはの機嫌は、一日分の授業を終えて放課後になっても、微塵みじんも治る気配は無かった。

 むしろ、前よりも悪化しているような……。


「ひ、緋之原」

「……何?」


 廊下で緋之原を見かけたので声をかけると、彼女は何の曇りのない無表情を向けてきた。


 ――ヤバい。これ、完全に根に持たれてるタイプだ。


 とりあえず、緋之原のご機嫌を取るワケではないが、前に約束していた一件について切り出す。


「あの、お皿を買う場所なんだが、どこがいい?」


 今朝、手が滑って彼女の食器を割ってしまったので、今日の放課後に緋之原と食器を買う約束をしていたのだ。


 ――じゃあさ、一緒にお皿買いに行こうよ!


 今思い出すと、あんなにまぶしいくらいの笑顔を向けてきた緋之原が懐かしく思えてしまう。

 すると、緋之原は――。


「それだけど、今日は一人で買いに行かせてほしいな」

「え……?」


 まさかのドタキャン……。いや、拒絶と言ったほうが正しいのか……。


「だから、岡崎おかざき君は、もう家に帰ってもいいよ」


 緋之原はそう言い残すと、春輔しゅんすけの横を通ってその場を去ろうとする。


「ま、待ってくれよ。お皿を割ったのは俺だから、そのお代だけは――」

「うるさいから黙ってて!」

「ひ、緋之原……」


 明らかな拒絶……。

 それは、清楚せいそと呼ばれ続けた緋之原の、人間らしい部分がむき出しになった瞬間だった。

 感情を爆発させた緋之原に呆然ぼうぜんとする春輔。

 すると――。


「もう、私に関わらないで」


 攻略不可ヒロイン……。

 彼女の小さくなっていく背中を見つめていると、ふと、そんな単語が思い浮かんだ。

 昨日、緋之原とプレイしたエロゲーの中に、いわゆるサブキャラと呼ばれるキャラクターたちが数多く登場した。

 そのサブキャラの中には、登場頻度が多いにも関わらず、恋愛キャラとしての攻略が不可能なヒロインがいたのだ。


 ――今の緋之原って、まさにそんな感じだよな。


 そんなことを思いながら、彼女が向かった方角に再び目を向ける。

 すると――。


「……岡崎さんは、どっちのヒロインを攻略したいんですか?」

「み、三谷みたに……!?」


 いつの間にか、緋之原が向かった先には彼女の姿が無くなっていて、代わりに三谷みたに時音ときねの姿があった。

 時音は人懐っこい笑顔を浮かべながら、こちらの顔をのぞき込んでいる。


「どっちのヒロインを攻略したいって……。それ、どういうことだ、三谷?」


 春輔がそうくと、なぜか、三谷はニヤリと笑った。


「このままだと、バッドエンドルート直行ですよ、岡崎さん……?」

「ば、バッドエンドルート……?」


 その不穏な単語に、思わず息をんでしまう春輔。

 さっきまでの三谷の雰囲気とは違う……。まるで、こちらのことを全て見透かしているような、得体の知れないオーラを彼女から感じる……。

 すると――。


「ここだと話しづらそうですから、場所を変えましょう。……ついてきてくれますよね、岡崎さん?」

「あ、ああ……」


 三谷の言われるがままに、春輔は彼女の背中を追いかけていく。

 その途中――。


「ちなみに、琴葉っちにエロゲーを勧めたの――アタシですから」

「え……」


 唐突に、三谷から予想外のことを告げられた。

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