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プロローグ「清楚(意味深)な趣味」

「また置いてあるよ……」


 学校の怪談……。それは、どこの学校にも付き物の話だろう。

 だが、そういったたぐいの話を信じない岡崎おかざき春輔しゅんすけでも、オカルトの存在を否定できないような奇怪な現象が、今、目の前で起こっている。

 放課後、忘れ物を取りに戻ろうと、もうすっかり無人になってしまった教室に、まるで当然のごとくソレはあった……。


「何だよこれ……。いくらなんでも、ハレンチすぎるだろ……」


 自分の机に上に置かれたPC用のゲームパッケージ。その表紙には、色っぽい存在感をイヤらしくアピールするキワドい美少女のイラストが……。

 頬を赤らめ、はだけた服装で胸元を強調するその美少女の上には「記憶がぶっ飛ぶほどの忘れられない快楽!」という一言で矛盾するような、センスの欠片かけらもない下劣な宣伝文句が書かれていた。

 春輔の頭を悩ませていた物……。それは、いわゆる"エロゲー"と呼ばれる物だった。


「毎回毎回、俺の机の上にこんなもんばっかり置きやがって……。一体誰なんだよ……?」


 まず、身近な存在として男友達を疑ったが、彼らはこんなタチの悪いイタズラをするようなやつらじゃないし、それ以前に性に対する価値観が厳格な友達が多かった。


 ――アイツらが違うなら、まさか先生か?


 そんな最悪なシナリオが頭を横切ったが、先生たちがこんなセクハラまがいのことをするメリットが思いつかないし、そんなことをすれば学園の存続が揺るぐほどの大問題だ。


 だとすると……。一体、どこの変態がこんな卑劣なことを――。


「やっと見てくれたね、岡崎君!」


 春輔の思考を遮るように、可愛らしい女の声が耳に入ってきた。

 予想外な展開に肩をすくめて驚きつつも、声がした方角を見ると、そこには――。


「ひ、緋之原ひのはら琴葉ことは……!?」


 教室の入口に、予想をはるかに超えるような人物が立っていた。

 その緋之原という少女は、黒いセミロングの髪に桜の花びらのかんざしを付けていて、色白の肌からのぞく瞳は、磨かれた宝玉のように美しい。

 彼女を一言で言い表すなら"清楚せいそ"という言葉が一番似合う。

 そんな、清楚な雰囲気を漂わせてニッコリと笑う緋之原は、春輔の机に置かれたエロゲーに目を向けると、さらに穏やかに微笑むのだった。


「えへへ、気に入ってくれたかな、それ?」


 そう口にしてから、緋之原という少女は穏やかな笑みを浮かべたまま、こちらの前までやって来る。

 そして、彼女は無防備にも手を後ろに組み、甘えるような上目遣いで見つめてくる。


 か、可愛すぎる……。こんな美少女が、あざとい少女の仕草をすると、さらに魔性の可愛さが増すな……。


 だが、そんなことなど打ち消すほど、今、自分の置かれている状況が異常だということに、すぐに気がつくのだった。


「気に入ってくれた……って、まさか、今までこんなことをやってたのって、緋之原だったのか……!?」


 信じたくないが、そう質問せざるを得ない。

 すると――。


「うん、そうだよ!」


 春輔の淡い希望は、緋之原の首肯しゅこうによって容易たやすく打ち砕かれた。


「ま、マジかよ……。な、なんで緋之原が……。あの"清楚せいそ"で通っていた緋之原が――」


 他人と壁を作らず誰にでも優しく、天使のような笑顔で接することで、学内屈指の人気者だった緋之原琴葉……。

 彼女が微笑むと、背後で花が咲き乱れたかのような錯覚をき起こし、彼女に話しかけられた男子生徒は、うれしさのあまり気を失ってしまうほどだと言われていた、あの"緋之原琴葉"なのに……。


「あの緋之原に、こんな卑猥ひわいな趣味があったなんて……」


 絶望したように口にすると、緋之原は頬を膨らませてねた顔をしてしまう。


「ちょっと! 私だったら何だって言うんだよー!? 私だったら、こんな趣味を持ってはいけないとでも言いたいわけ? そんなの、モラハラだよー!」

「アンタがやったのはセクハラだけどな……」


 そう言い返すと、緋之原はさらにムッとした表情になってしまう。


「セクハラじゃないもん! ただ、エロゲーの素晴らしさを岡崎君にも知ってほしかっただけだもん!」

「え、エロゲーの素晴らしさ……?」


 そんな突拍子もないことを言われても、どう反応していいのか分からない。

 清楚だと思っていた緋之原が、なんの恥じらいもなくイヤらしいゲームを他人に見せびらかすという事実……。その飲み込みきれない事実に、春輔はただ固まってしまう。

 すると――。


「岡崎君ってさ……。明日の放課後、ヒマ?」

「え、ヒマだけど、何だよ急に……?」


 春輔がそう答えると、緋之原はすごくうれしそうに笑った。


「じゃあさ――明日、私の家でエロゲーしよう!」

「……は?」

「エロゲーの素晴らしさ、その身にたたき込んであげる!」

「え……。ええええええ!?」


 緋之原のぶっ飛んだ提案により、教室中が春輔の間の抜けた声で埋め尽くされた。


 クラスの"清楚"を担っていた緋之原琴葉……。

 これは、そんな彼女とは正反対の存在である"エロゲー"から始まった、少し残念なラブコメディーである――。

 読んでいただきありがとうございます!

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