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幸福な三分


 キッチンで洗い物をしていたら、リビングでいちごを食べていた夫と娘が、突然「いちご星人あらわる」「いちごしぇーじん!」と言い出した。


 見るとふたりとも左目を瞑り、親指と人差し指で挟んだ大粒のいちごを、こちらに向けていた。

 どうやら遠近法により、今わたしの頭はいちごらしい。


「いちご星人あわらる」

「いちごしぇーじんあらわる!」


 ついこの間までパパ嫌期だった娘も、最近は進んで夫の足の間に座り、一緒に絵本を読んだりおやつを食べたり、夫の発言を真似したりするようになった。微笑ましくもあるけれど、娘がなんでも真似するのをいいことに、一昨日は「墾田永年私財法」と「東海道中膝栗毛」を覚えさせようとしていた。



「変な遊び教えないでよ」


 笑いながらも夫に抗議すると、彼は「普通に食べても詰まらないだろ」とあっけらかんとして言う。


「詰まる詰まらないの話じゃなくてね、普通に食べてもいちごはおいしい」

「じゃあ詰まったらもっとおいしくなるな」

「屁理屈夫」

「はい、パパ、あーん」


 屁理屈夫の次の屁理屈は、愛娘のあーんによって阻止されて、次に娘はわたしにも「はい、ママ、あーん」とこちらにいちごを差し出す。


 濡れた手を布巾で拭きながらリビングに行って、彼女の手からいちごを食べた。


 夫が仕事帰りに買ってきた県内産のいちごは、大粒で、糖度と酸度のバランスがとてもいい。酸っぱいけど、甘い。すっきりしているけれど、優しい。果実は硬めで、噛み応えがある。ただでさえ美味しいいちごが、娘の手ずから、というだけでさらに美味しく感じる。


「おいしいね」

 言うと娘は、まるでいちごの生産者のように自慢げに「でしょう?」と返し、パパとママにもう一粒ずつ、差し出したのだった。

 夫とわたしは顔を見合わせ微笑んだ。


 そのあと娘は、残りのいちごを三分ほどでたいらげた。わたしたち夫婦にとっても、それはそれは、幸福な三分だった。




(了)

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