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第23章 「星」の噂話

武漢ウーハン自経団は、漢陽ハンヤン漢口ハンコウ武昌ウーチャンの3つの地区からなり、それぞれに自経団の支団が組織されている。武漢自経団の責任者たる書記と副書記2名は、原則として支団の責任者である支団書記を兼務している。


主な登場人物


ミヤマ・ヒカリ:本作のメイン・ヒロイン、ネオ・トウキョウでターミナルケアを生き延びた。大陸の武昌に辿り着き、コンピュータ修理の仕事をしつつ、武昌支団の非常勤の幹部を務めている

張子涵:(チャン・ズーハン)本作のサブ・ヒロインの一人、武漢で物流業者を営むとともに武昌支団の非常勤の幹部などを務めている

ミヤマ・ダイチ:ヒカリの従兄、中国名は楊大地 (ヤン・ダーディ)、武漢副書記兼武昌支団書記

高儷:(ガオ・リー)本作のサブ・ヒロインの一人、ネオ・シャンハイのターミナルケア生き残り、今は武昌支団に勤務する

陳春鈴:(チェン・チュンリン)本作のサブ・ヒロインの一人、武昌支団幹部の一人、ダイチ、カオル、張子涵とは幼馴染

孫強:(スン・ジアン)武昌支団副書記、ダイチを補佐し、公安系を統括する

ヤマモト・カオル:中国名は李薫 (リー・シュン)武昌支団副書記、ダイチを補佐し、民生系を統括する

王義衛:(ワン・イーウェイ)武漢副書記兼漢口支団書記

林昆生:(リン・クンション)漢口支団副書記 公安系を統括

羅静麗:(ルオ・ジンリー)漢口支団副書記 民生系を統括

アルバート・アーネスト・アーウィン:国際連邦統治委員会情報通信局情報支援部長、ヒカリの連邦職員時代の上司

マモル(オガワ・マモル):ヒカリの一人息子、選抜されて火星へ行った

ミユキ:選抜されて火星へ行った天才ピアニストの少女、マモルと仲良くなる

 支団民政局と財務局からの連絡事項、技術局員によるインフラ補修の進め方に同意を求める案件についての内容説明、これらが終わったところで、オブザーバーのダイチとカオルは、班定例会の会場から退出した。技術局からの案件について満場一致で同意の決議を採ったあと、話は雑談に移った。用事のあるものは一人、二人と退出していく。


 やはり話の中心は「星」に関するものだった。昨日の幹部会でも出たように、一般住民の間にもいろいろな噂が流れていることを、ヒカリは肌身で感じることとなった。

[メッセージが届いて見てみたら、「星」をやり過ごせるシェルターの権利を1000万塊(元)で買わないか、ってものでした。なんでも「星」が海にぶつかると、とてつもない津波が起こって、武漢ではまだ危なくて、安全な重慶郊外のシェルターに入れる権利だとか]

[私のところに来たのは、3ヶ月間朝・昼・晩と服用すれば、「星」がぶつかっても影響を受けない体質になるという薬の売り込み]

[ああ、たしかそれは1錠の単価が1塊に満たない栄養剤を1錠1000塊で売りつけようってやつらしい。まあ体に毒にはならんだろうが]

 いずれもマオ委員会で聞いていた件だが、体験談として聞くと生々しいものがある。

[噂ばかりが広がる中で、上から確かな情報が下りてこない。だからこんなとんでもない商法がはびこるんじゃないか?]

[MATESにも最近、不満をぶちまけるような書き込みが増えているみたいですよ]

[で、その辺はどうなんですか?班長]

 みなの眼が張子涵に注がれる。

[あたしは非常勤の下級幹部だから、詳しいことは…正直なところ、まだお話しできる段階になっていないらしい。中途半端な段階で話をすると、混乱を起こさないとも限らないでしょう。正確な情報を手に入れて、それに基づいて立てられた全員の安全を確保できる方策と、進める体制を楊大地がいま、みんなにお話しできる形にしようと動いているところです]

 張子涵がみんなの視線に応える。

[幼馴染のあたしが言うのもなんだけれど、楊大地は誠実で実行力のある男です。彼を信じて、変な噂に惑わされずに待っていてほしい]

[そうだな、ここは楊守の孫を信じるしかないか]

[シカリさん、あなたのいとこから、いいお話がなるだけ早く聞けることを期待しているよ]

「みなさんのお気持ちは、わたしからも楊書記に伝えたいと思います」とヒカリ。

[じゃあ、今日はこれで閉会、ってことでよろしいですか?]と張子涵が一同に聞く。

[OK][異議なし][お疲れ様]

 残っていたメンバーが、三々五々と会場を後にする。

[どうだったい?]と張子涵が、最後まで残ったヒカリと高儷に聞く。

「いい人たちばかりのようね」とヒカリ。

[紳士的で友好的な方たちでした]と高儷

[まあ、武昌は、大体お行儀のいい人が住んでて、第15区はその中でもとびきりのエリアなんで、区長助理もやりやすくて助かってる。漢陽あたりは大変のようだね。うちの会社の従業員で、漢陽の区長助理の人の話とか聞くと、難物揃いで、ほんと苦労しているらしい]

「それにしても、お疲れ様でした」とヒカリ。

[よろしければお夕飯作りますわよ] と高儷

[そいつは嬉しい。高儷さんの料理は格別だってジョンから聞いてるから]

 時計は20時近くを指していた。


 漢陽の街区は、武昌から武漢長江大橋を渡ったかつてテレビ塔(湖北亀山広播電視塔)があった地点から、500mほど南へ下った辺りから始まる。第四次大戦後国際連邦が設置した仮設居住区のエリアは、長江に沿って南西方向に幅約1km、長さ約4Kmに広がっているが、現在の街区はそのうち北側の、一辺が約1Kmのほぼ正方形の区画となっている。

 漢陽の街区をかすめるように右に曲がり、北上して漢江を渡ると漢口の街区へと向かうことになる。幹部会の翌日、ダイチは漢口の書記王義衛にビデオ通話で面談を申入れ、翌々日14日の15時のアポがとれた。面談に赴くべくダイチは、副書記の孫強とカオル、それにヒカリを伴って、漢口支団のオフィスへエアカーで向かった。

 漢口の仮設居住区エリアは、漢江が長江に合流する地点付近から始まり、漢陽と同じく長江に沿って北東に幅約1km、長さ4kmに広がる。そのうち南側、長江沿いに幅約500m、長さ2kmの部分が現在の街区となっている。漢口支団の支団オフィスは、南西から北東に向けて街区の中央を走るメインストリートを、南西端から500mほど行ったところ、例によって地下のシェルター跡のスペースに設けられていた。

 「秘書處」のMATESグループに、陳春鈴から「着いた?」とメッセージがちょうど入ったとき、エアカーはオフィス上の駐車場に着いた。ダイチがPITで王義衛に連絡し到着したことを告げると、エレベーターの地上側入口まで行って待つようにと言われた。ヒカリが陳春鈴にひとこと「着いたよ」とメッセージを返し、一同エレベーターの入口に向かう。かんかん照りの中、熱風でも空気が動くと幾分凌ぎやすい。

 ほどなく女性がエレベーターで上がってきた。

[楊書記ですね。ご案内します]

 王義衛漢口書記のアシスタントに従い、4人はエレベーターに乗り込んだ。

 例によって重たそうな扉の向こうのオフィスを通り過ぎて、奥の来客用のミーティングルームに通された。ちょうど8人の席があるテーブルの、入口に近い側に奥からカオル、ヒカリ、ダイチ、孫強の順に座った。冷えた茶が運ばれ、ほどなく漢口側の3人が入ってきた。書記の王義衛を先頭に、副書記で公安局局長を兼ねる林昆生リン・クンション、そして同じく副書記で民生局局長を兼ねる羅静麗ルオ・ジンリー。林昆生は男性で40代、羅静麗は女性で30代か。ダイチの正面に王義衛が座り、その両脇に二人の副書記が座る。まだ面識のないヒカリをダイチがその3人に紹介し、漢口側の3人がヒカリに自己紹介した。

 皆が冷たい茶を一口啜り、喉を潤すと、ダイチが話し始めた。

[王書記、林副書記、羅副書記。本日はお時間をいただき、ありがとうございます]

[いやいや、礼を言うのは、我々のほうです]と王義衛が穏やかな口調で言う。

[「星」のことについて、上海方面からあれこれ噂が広がるにつれ、漢口の人心が乱れてきました。悪事をたくらむ連中も出てきて、どうしたものかと頭を悩ましていたところです]

[やはり、そうですか]とダイチ。

[武昌も同様の兆しがあります]と孫強。

[こちらのヒカリさんに、正確な情報を教えていただけるということ、恩に着ます]

[さっそく、ヒカリから「星」に関する現時点でわかっている正確な情報をお話しさせます]

ダイチの言葉を受けて、ヒカリは幾度となく繰り返してきた「マオのインパクト」に関する事柄を漢口の3人に対して話して聞かせた。

 ヒカリの話が終わると、しばらく沈黙が流れたのち王義衛が口を開いた。

[そのインパクトの時点にこのままの場所にいると、インパクトの地点にかかわらず、生き延びるのは難しいということですね]

[そうです。そこで武昌では幹部を中心としたメンバーによる「マオ委員会」を設け、ネオ・シャンハイへの避難を軸とする対策の検討を始めています]とダイチ。

[わかりました]王義衛が語気を強めて言う。

[漢口は「マオのインパクト」の対策について、武昌で決めた事項を受け入れることとします。そちらの「マオ委員会」の会合には、毎回、副書記2名のうち1名が参加させて頂くこととしたいのですが、いかがでしょうか?]

[ぜひ、そうして下さい。毎週月曜の17時頃から開きます。いろいろと漢口側のご意見もいただければと思います]とダイチ。

 そのあと、ヒカリの話題を中心に一同しばらく雑談し、面談は16時30分ごろに終了した。エレベーターを上がってエアカーに乗り込もうとしたちょうどそのとき、MATESグループに陳春鈴から「終わった?」とのメッセージ。「終わりました。高儷。リンリンはちゃんと仕事してる?」とヒカリがメッセージを送る。すぐに陳春鈴から「涙」のスタンプが返ってくる。「マオ委員会秘書處」のMATESグループに高儷も加わっていた。

 4人が乗車し、エアカーは武昌への帰途についた。


 その日の夜、アーウィン部長からテキストメッセージが届いた。

「ヒカリ君と話した後、ほどなく火星のマモルにテキストメッセージを送ったが、すぐには、返信は来なかった。たぶん気持ちの整理に時間が必要だったのだろう。今日、つい先ほどメッセージが届いた。ヒカリ君からコンタクトを取っても大丈夫のようだ」との話。

 さっそくヒカリはマモルに「元気ですか? ママはいまウーハンというところにいます。元気です」という短いテキストメッセージを送った。小一時間ほどして、ファイルを添付した「ボクたちも元気だよ!」というメッセージが返ってきた。添付ファイルを開くと、ミユキと一緒に斜めに写ったマモルの写真だった。ネオ・トウキョウで最後に見たときから、マモルはかなり大人びたようだ。

 ヒカリはダイチと高儷に来てもらい、三人一緒に映ったビデオメッセージを作った。

「ママもこちらで仲良しができました。そのうちの二人、女の人はママのお料理の先生の高儷さん、男の人はママのいとこのダイチさんです」


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