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私のアイドル  作者: 美海秋
第三章 私のアイドル

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前に進むとき 1

「由紀さん、ありがとうございました」

「いえ、仕事ですから…」


一通りの処置が終わった私は由紀さんと二人で、病室にいた。

お姉ちゃんと天音はというと、倒れそうになった私を心配するまではよかったけれど、心配のしすぎで邪魔になってしまったようで、追い出されてしまった。

中に入ることは由紀さんから禁止されてしまったので、由紀さんがいる以上は入ってくるということはないだろう。

ただ、少し気まずい時間だった。

というのも、何を話していいのかわからないでいたからだった。

何を言っていいのかわからなくなっていた私は、由紀さんのほうをチラチラと見る。

そんな私の視線に由紀さんは気づいたようで、話しかけてくれる。


「幸來さん、お疲れ様でした」

「そ、そんな…思った通りにはできませんでしたから…」

「はい、それに関してはその通りですね」

「ですよね」


嘘をつかないであろう由紀さんにそう言われて、ほんの少し悲しくなる。

ただ、すぐに由紀さんは言葉をつなぐ。


「ですが、今の幸來さんの全力を見せられたのではないでしょうか?」

「はい、それは間違いなく!」

「それなら、こちらも納得して幸來さんのしたいことをさせた意味がありますよ。だから大丈夫です。幸來さんが頑張ったというのは、最低限でも三人…社長を入れて四人には届いているはずですので」

「確かに、そうですね」


由紀さんの励ましに嬉しくなる。

確かに頑張ったと思ってくれている人はもしかすれば少ないのかもしれない。

それでも、やりたいと決めてしたことには変わりはないのだから、後悔はしていなかった。

そう思っていたときだった、病室の扉が開く。


「お母さん」

「幸來ちゃん!」


まさかの人物の登場に、私は驚いていると、そのままの勢いで抱き着かれる。


「よかった、頑張ったね…」

「お母さん…」


こういう状況に慣れていなくて、泣いているような感じのお母さんに、どう反応を返していいのかわからなくなった私はお母さんの頭をゆっくりと撫でる。

当たり前のことではあったけれど、心配をかけてしまったみたいだった。

由紀さんは、気を使ってくれたのか、少ししてゆっくりと病室から出ていく。

出て行ったのを確認した私は、お母さんに声をかける。


「来てくれたんだ」

「当たり前でしょ、頑張った娘を労うのは母親として当たり前だから」

「そっか、ありがとう」

「ありがとうじゃないよ。幸來ちゃんはもう少しお母さんに頼ってくれていいんだよ」

「お母さんが頑張ってくれてるのは知ってるから、頼ってないわけじゃないよ」

「でも、お母さんはもう少しお母さんらしいこともしたいよ」

「仕事頑張ってくれてるじゃん」

「そんなのは当たり前のことだよ」

「すぐにこうやって、駆け付けてくれるしね」

「そうだけど…」

「まあ、もう少し今みたいな感じでいつもいてくれると、私は嬉しいけど」

「お母さんをからかってますか?」

「そんなことないけど」


私はそう言葉にしながらも、お母さんと顔を見合わせて笑いあう。

そんなお母さんの姿は、私によく似ていると思う。

ただ、性格に関してはお姉ちゃんと同じで、少し不器用な感じで、先ほどのように感情が高ぶるようなことがあると、娘の私から見ても可愛いと思うほど甘い感じになる。

今は戻って少しキツイ感じになってはいるけれど、照れ隠しだということは最初からわかっているので、気にしてはなかった。

そんなお母さんは、ゆっくりと離れると、ベッドの隣にある椅子に座りなおすと、咳払いをする。


「幸來」

「どうしたの?」

「幸來は、アイドルをこれからも続けたいってことでいいんだよね?」

「うん、できることならできるところまではやりたいかな」

「だったら、これは見ておかないといけないわね」


お母さんはそう言葉にすると、携帯の画面を見せてくれる。

そこにはお金なのだろう、金額が表示されている。


「これってなあに?」


わけがわからず聞くと、お母さんはゆっくりと話してくれる。


「幸來を応援したいって、みんなの言葉だよ」

「え?えええええええええ!」


私は驚きながらも、再度それを確認するのだった。


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