望まない人気 2
「何からやるのがいいのでしょうか?」
「うーん、やりたいこととかってあるの?」
「私がでしょうか?」
「うん、天音は、動画を投稿しようって思ってたんでしょ?」
「それはそうなんですが…」
見知った二人ということもあってか、あれから帰ることもなく、すぐに事務所の中で働かされることになった私は、きっと社畜としての適性が高いんだろう。
そんなことを考えながらも、隠すこともなく天音と何かができるという状況はかなり嬉しいことだった。
ただ、早速やることというのが、動画投稿というのは、少しというよりもかなり驚きだった。
天音の可愛さと、最近の成長を見ていると、アイドルとしてユニットを組むか、七海さんのように一人でアイドルになるのではないのかと思っていたからだった。
だから、天音に聞いてみることにする。
「聞いてもいい?」
「なんでしょうか?」
「天音はよかったの?私なんかと一緒にアイドル活動をするってことになって…」
「どうしてでしょうか?」
「だって、私は病気をもってるよ。天音と一緒にアイドルをやるってなっても、足手まといになるかもしれないんだよ」
これは、本心だった。
天音と違って、ずっと全力で練習ができるとは限らない。
天音と同じ速度で同じ景色を見ることができないというのは、天音としてもかなりフラストレーションがたまるものなんじゃないのかと思ってしまう。
でも、天音自身はそのことに気づいていないのか、首を傾げて言う。
「足手まといになるのは、私ではありませんか?」
「え?」
「考えてもみてください。私は、花澄がいなければ、アイドルを辞めていましたから…できなかった私を花澄は救ってくれました。そんな花澄のことを足手まといなどと思うことは決してありえません」
「そっか…」
「はい」
満面の笑みでそう言われた私は、顔がにやけるのを辞められなかった。
だって仕方ないことだった。
病気になってから、これほどまでに私のことを真っすぐに見てくれる人というのがいなかったというのもあるけれど、私自身、病気になったこともあってか、誰かと接するということに消極的になってしまったということもあった。
もし、それが病気の関係でできなかったときに、その人たちが嫌な思いをしてしまったらどうしよう…
そんなことを考えてしまうこともあって、必要とされるということが、これだけ嬉しいということを今更ながらに思い出す。
「天音、ありがとう」
「?ありがとう?それは、私が言うべきことですよ」
不思議そうにしている天音に、私は笑顔である提案をする。
「天音、一つ考えていることがあって…」
「なんでしょうか?」
「えっと…」
そして、私は考えていたことを天音に話す。
話しを聞いた天音は嬉しそうに、頷く。
「いいと思います」
「天音もそう思う?」
「はい。早速撮りましょう!」
「さすがに、一回は合わせてからね」
「そ、そうでした」
嬉しさのあまり暴走気味な天音をなんとか抑えながらも、私たちは二人でダンスをする。
一度合わせて確認をした後に、動画を撮った。
初めてにしては、いい出来ではないだろうか?
そんなことを考えながらも、投稿の時間を考えて、マネージャーの人にも了解をもらうと投稿する。
公開されるのは明日。
天音は初めての動画を嬉しそうに見直す。
そんな天音を見ながらも、アイドルになれてよかったと思うのだった。
※
「なんで、あんな簡単にオーディションに受かるの?あり得ないでしょ…社長も社長よ。贔屓じゃない」
そんな言葉を発しながら、一人の女性は誰もいない喫煙室で携帯にかじりつく。
誰もいないということもあってか、女性は悪態をつきながらも、スケジュールを確認する。
仕事のストレスなのか、今の女性を見れば、誰もが落ち着きがないと考えてしまうだろう。
「そうだ」
そして、女性はあることを思いつく。
それは、普通では絶対に思いついてはいけないこと…
そして、思いついてもやってはいけないことだった。
でも、今の女性の近くにはダメだと言ってくれる人は誰もいない。
だから、感情のまま女性はあることをネットに書き込んでしまう。
ほんの少しのストレス発散のつもりだったそれは、すぐに問題になってしまうということを知らずに…




