変わり始める 4
時間よりも少し早くついた私は、付近で時間を潰してから入る。
そのまま受付を通されて、部屋の方へと連れて行ってもらう。
「頑張ってください」
受付の女性に後ろから言われて、私は笑顔を見せると部屋をノックする。
「入ってください」
「失礼します」
緊張をなんとか抑えながらも部屋に入る。
「本日はよろしくお願いいたします」
「はい。まずは席に着席してください」
「はい、失礼します」
私は席に座る。
そこで、面接をしてくれる人を確認する。
中央に座っているのは、この会社の社長である山下七海さん。
その両隣に、今回の担当をしてくれるクローバーの信さんと望さん。
さらに隣に、一人はあのとき私に言ってきたマネージャーであろう人と、もう一人は知らない人がいて、合計五人の面接を行ってくれる方がいて、私が思っていたのと違い、全員が女性だった。
すぐに、真ん中に座っていた社長である七海さんから質問がくる。
「では、まずは、アイドルを目指したきっかけを教えてください」
「はい。アイドルを目指した理由というのは、私がアイドルが好きだからです」
「それだけですか?」
「はい。アイドルが好きで、そんなアイドルに私自身もなりたいと思いました」
「なるほど。次の質問ですが、アイドル事務所の中で、この会社を選んだ理由はどうしてでしょうか?」
「はい。それは私にアイドルを進めてくれた女性がいて、その女性が進めてくれたのが、この事務所だからです」
「そうですか…進めた友達がいらっしゃるということですね?」
「はい」
「では、その友達がいなければ、幸來さんはこの事務所に応募をしなかったということでいいのでしょうか?」
七海さんの言葉に、私はすぐに答えようとしてやめる。
このタイミングで、私がすぐに答えようとすれば、それは嘘を言ってしまうと考えたからだった。
自分をよくみせるというのは、確かに大事なことで、それをするということに対して悪く言う人はあまりいないのかもしれない。
でも、私はそれではよくないということをわかっていた。
アイドルになるのだからということではなく、私自身がアイドルになるということに対して、これまで嘘をついていて、その嘘をやめるために今、ここにいるのだから…
だったら、ここでの答えというのは決まっていた。
「はい。私は友達がいなかったら、応募すらしていなかったと思います」
「どうしてでしょうか?」
「それは、私には病気があるからです」
「病気ですか?」
「はい。病名については書かれている通りです」
「わかりました。では、今回はどうして病気を理由に応募をしないという選択ではなく、応募するという選択になったのでしょうか?」
「はい。私自身はアイドルになれると、思っていません。でも、それは私が思っているだけということを友達に教えてもらいました。できないじゃなくて、やっていないで諦めるのはよくないということに気づかせてもらいました。だから、挑戦をしようと思いました」
「そうなんですね。わかりましたが、一度応募して落ちたくらいで諦めるのですか?」
「いえ、諦められるというものでは確かにありません。でも、私は少しでもこれまでの自分を変えたいと思ったのです」
「そうですか。でも、この場は幸來さんの、わがままを聞くというために集まったのではありません。アイドルになれば、ある程度の露出も、やらないといけないこともたくさん増えます。それでもいいですか?」
「はい。憧れるだけはやめましたから」
「ふふ、そうですか」
私の言葉を聞いて、七海さんは笑顔を見せる。
思わずという感じだったのだろう、隣に座っていた信さんと望さんは七海さんが笑ったことに驚いた様子で思わず七海さんの方を見ている。
ただ、七海さんは私のことをしっかりと見ると言う。
「幸來ちゃん」
「はい」
「応募したこと、静香には言った?」
「いえ、まだ言っていません」
「そっか。静香がこのこと聞くと、心配するから?」
「それもありますけど。そうではありません」
「どうして?」
「きっと、挑戦をするとお姉ちゃんに言えば、私のことをかなり応援してくれると思います。いつかのように七海さんに無理を言ってでも」
「ふふ、確かにそうね。静香があなたを無理やり連れてきたのは、三年前になるのかしら?」
「はい。そうですね」
「あのときから、幸來ちゃんには可能性があったけど。ようやくね」
七海さんはそう言って、私に笑いかける。
私は思わずたじたじとしてしまうと、態度の悪かったマネージャーの人が、七海さんに話しかける。
「社長?どうして、そんなに馴れ馴れしく話しをするんですか?」
「馴れ馴れしいのは、仕方ないでしょ?幸來ちゃんのことは、静香がアイドルになったときにセットで知ってるもの」
「そうはいっても、こんな面接は…」
「ダメって言うの?社長である、このわたしが言ってるのに?」
「あ、いえ、その…」
七海さんの迫力に押されて、マネージャーの人は何も言えなくなる。
ただ、隣で聞いていた信さんは、そんな七海さんを窘めるように言う。
「七海さん。そういう言い方をすれば、言えなくなるのは、わかっていますよね」
「ふふ、ごめんね、信。でも、幸來ちゃんの実力を見れば、誰も納得すると思うのよ」
「どういうことですか?」
「幸來ちゃん」
「は、はい」
「踊ってくれる?」
「はい。そのつもりで、ここに来ましたから」
慌ててそう返事をする。
七海さんに言われた言葉で、私はかなり緊張といえばいいのか、プレッシャーというのを感じてしまったけれど、すぐに切り替える。
だって、どんな状況でもやるということに今更変わりはないのだから…




