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私のアイドル  作者: 美海秋
二章 挑戦編

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一歩前に進むなら 2

「ここが部屋ね」

「はい」

「何をそんなに緊張してるの?」

「それはその…私が、友達の部屋に入るというのが初めてのことでしたので…」

「そうなの?」

「はい」


まさかの情報に驚きながらも、私はそんな天音を部屋に招き入れる。

入る瞬間も、一瞬の躊躇をしているようで、どこか覚悟を決めるようにして入っていく。

何をそんなにと躊躇うことがあるのだろうかと、私は考えてしまったけれど、天音の後に続くようにして、私も部屋に入る。


「そんなに、そわそわして落ち着かない?」

「いえ、それはその…お家に入れてもらえるとは思ってなかったので、緊張してしまうといいますか…」

「そういうものなの?天音の部屋には入ったことがあるし、そんなに緊張するものでもないと思うけど」

「そうは言いましてもですね。こうなると思っていなかったので、心の準備もありますから」

「友達の部屋に入るだけで、そんな準備なんか、いらないと思うけど」


天音にそう言ったものの、天音の反応を見ると、準備が必要なのかもと思ってしまう。

どうしようかと悩んだ結果、私は少しだけ天音を一人にしてみることに…


「天音、少し飲み物を取りにいくね」

「そ、そんな!こ、これを渡したらすぐ帰るつもりでしたので」


天音はそう言葉にすると、ビニール袋を渡してくる。

中身は、予想はしていたけれど、スポーツドリンクだったり、オデコに張る冷やすものだったりとバリエーションはそれなりにある。


「ありがとう」

「いえ、そんなこと…私のせいでもありますから…」

「どういうこと?」


天音の言葉に意味がわからなかった私は聞き返す。

すると天音は少し考えてから話しを始める。


「花澄が、そうなったのは私がダンスを教えてほしいとお願いしたからだと思っています。だから、私がしつこくダンスを教えてほしいとお願いしていなければ、こんなことにならなかったと思っています」


下を向いて、そう言葉にした天音に、私はからかいたくなってしまう。


「確かに、そうかもね」

「!」

「でも、ああやって誰かがいる前で踊れたことは、かなり嬉しいことだったよ。だから、天音は気にしなくても大丈夫だよ」

「そうだといいのですが…」


まだ自信なさげにしている天音の頭を私は気づけば撫でていた。


「あの…」

「どうしたの?」

「メール見てもらいましたか?」

「見たよ」

「花澄は、どうしてアイドルにならないのでしょうか?」

「そうだね。そのことを、天音にはちゃんと話していなかったよね」

「はい」


天音のステージに乱入したときから、こんなときがくるというのは私だってわかっていた。

私は、自分のことを天音に話す。

といっても、私が話すことは、主に自分の病気についてだった。

心臓の病気によって激しい運動ができないこと。

天音にダンスを教えていたときも、休み休みだったのでできたことだったけれど、アイドルになってしまえば、何曲も踊らないといけないことはわかっていて、それができないということ。

私はそんなことを天音にゆっくりと伝えた。


「そうなんですね…」

「天音、どうしてあなたが泣くのよ」

「わかりません。でも、やりたいことができないというのは、辛いということだけはわかりますから…」

「仕方ないことだっていうのは、わかってるから、別に今更気にしてないよ。天音に教えることもできたしね」


そう、これは私が思っていたことだった。

天音と出会ってから、私はやりたかったことができるようになった。

それが、アイドルに会うことと、アイドルと同じステージに立つことだったりする。

その二つができたのだから、私にアイドルというものに後悔はなかった。

後は、普通のファンとして、新人アイドルとして、これから活躍していくであろう天音のことを見ていければと思っていた。


「だからね。天音はこれからもアイドルとして頑張って!そして、私のことをアイドルパワーで元気づけて」

「は、はい」


私の言葉に、天音は慌てて頷きながらそう言ってくれる。

これで、天音に言うことは終わったし、時間もそれなりに立っている。

アイドル事務所の募集についても、さっきの話で難しいということはわかってくれただろう。

後は、天音を送っていけばいいだけだね。

私は、そう言葉にして立とうとしたときだった。

天音は机に置いてあった紙を見つける。


「これは、なんでしょうか?」

「ああ、それは気にしないで。私のちょっとした趣味みたいものだから…」


置いていたのは、天音が来る前まで行っていた、信さんのダンスを真似するためにまとめたものだった。

気にしないでとは言ったものの、天音はそれを手に取ると食い入るように見る。

そして、私に向かってきていうのだった。


「花澄、やっぱり花澄はアイドルになってください…」


絞りだすような声で言われて、私はただ困った顔を浮かべるしかできないのだった。


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