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私のアイドル  作者: 美海秋
一章 出会い編

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出会い 4

何もかもがうまくいかない。

それが今の私だった。


「どうしてうまくいかないのでしょうか…」


誰に聞かれることもなく、そう言葉を発する。

私はアイドルに憧れを抱いていた。

それはどうしてか?

テレビの中にいるアイドルを見たから、というわけではなかった。


「やっぱり、仮面様は素晴らしいです」


私は、パソコンに映し出された人物を見ていた。

仮面様。

そう名付けられた、画面の中に映し出された人は、仮面をかぶっていて見えるのは口元くらいだ。

これは、歌を歌うためにということで開けているって本人が言っていた。

それでも、私の憧れはやっぱり仮面様です。

口元だけでも笑っている、楽しんでいるのがわかるような表情の豊かさ、そして、ダンスのキレと歌にこめる感情。

確かに、歌であれば私の方がうまく歌えるという自信はあります。


「だけど、どうしてここまで胸をうたれるのでしょうか…」


それが疑問だった。

疑問に思ったのだから、どうしてなのかを確かめないといけない。

だからこそ、私はアイドルのオーディションを受けて、気づけば事務所に入ることになった。

ただ、すぐにレッスンで躓いてしまった。

歌はよかった、パソコンで流れている音楽を一緒になって歌っていたから…

でも、ダンスになるとわけが違った。

どれだけ踊ろうとしても、手と足が一緒にでてしまったり、動かさなくてもいいところで体が動いたりと、うまくいかない。

アイドルとして、事務所に所属できたのに、すでに四か月は無駄にしてしまった。

事務所の人には、半年以内にできるようになってと、言われていたからこそ、私は頑張って練習をした。

でも、やればやるほどわからなくなる。

一応、芸能科がある学校に進学をしたのは、まだ頑張ると決めたからでもあった。


「何もうまくいきませんね」


先輩である、クローバーさんたちのダンスを見ても感じるのは、自分自身とどれほどの差があるのかということくらい。

私にはそれを見て、劣等感しか生まなかった。

だから、自分を少し落ち着かせるためにも、いつものように練習をして、帰ろうとしたときだった。

校内には誰もいない、だからこそ少しだけ音楽が鳴っているのが聞こえた。


「この曲は…」


私でも当たり前のように知っている曲。

誰がそんなことをしているのだろうか?

もしかして、ライブを見たからそれで…

私自身はあれを見ても劣等感しか感じなかったけど、やっぱり他の人は違うということですよね。

そんなことを考えながらも、気になった私は少しだけでもと思ってそれを見ることにした。

そこにいたのは、予想はしていたけれどアイドルではなかった。

この学校では、芸能科と普通進学科とではネクタイの色が違う。

これによって、簡単にわけているのだけれど、確かに踊っているその女性は普通科の制服だった。

ただ、近づいたらすぐにわかる。

誰も見ていないというのに、顔いっぱいに笑みを浮かべて、体は、その喜びを表現するかのように跳ねている。

すごい、すごい!

その踊りを見ていた私は、興奮して窓を開けて彼女に飛びついた。

そして、踊りを見てもらった。

私のダメダメのダンスを…

ただ、案の定というべきか、彼女は途中で帰ってしまった。


「なんで…」


私は、一人残されながらも、そんな言葉しか言えなかった。

できないながらも、頑張ってやっていた。

それが伝わらなかったのかな?

だからダメだった?

わからないまま、教室に戻ると荷物をとる。

教室では一人見知った顔がいた。


「なんだ、いたんだ?」

「あの、はい…」

「あと少しで半年、顔が可愛いからって、受かっても活動してないんじゃ意味ないのにね?」

「そんなことはないですけど…」

「ふーん、そうなんだ」


そういう彼女は、同じ芸能科に通う高南梅(こうみうめ)

私が入っている事務所のオーディションで一緒になり、私は受かり、彼女は落ちた。

その後、彼女はどうやら違う事務所に入ったようで、先月にはデビューしてステージに立ったということを、彼女本人から聞いた。

所属事務所のことをしっかり調べているからこそ、私が入所してから半年で遅くても何かしらのデビューを果たすということもわかるのだろう。

すでにステージに立っている彼女と比べると、私は全然ダメなのはわかりきっていた。

何も言い返すこともなく、彼女が教室を出ていくのを見る。

そこから遅れて、私も帰路についた。

入学式ということで、今日だけは事務所に行ってレッスンしなくてもいいということもあって、ゆっくりと家に帰る。

でも、普通だったら、速く帰れる今日みたいな日はレッスンをするのが一般的だろう。

それを提案されないということは、私は見放されてきているんだ。

事務所に入ったころにはたくさんあった、ダンスレッスンは、徐々に少なくなってきている。

逆にボイストレーニングが増えて、このままでは、私がなりたいはずの歌って踊るアイドルじゃなくて、ただの歌手になってしまう。


「あーあ、こういうときは仮面様の動画でも見るしかないよね」


そう一人でつぶやくと、気分を変えるためにと動画サイトを起動する。

何度も見ているおかげか、そのせいなのか、仮面様の動画はすぐに表示される。


「これって、新しい動画…」


私はすぐに、新しく投稿されていた動画をクリックして視聴する。

いつもより力強いダンス、そして声もいつもより強めといえばいいのか、私には表現がうまくできないくらいには素敵なものだった。

まるで、そこで諦めない。

ここから、進んでいくんだと言わんばかりのダンスと歌。


「そうだよね…」


そこで、私は気づいた。


「今日のダンスもそうだ。私は、ずっとここまでしかできないと思ってしかしてなかった。でも、それは私が勝手に決めたことで、他の人から見ればそうじゃないのよね。今日初めてあった、あの子だって、私が急に下手なダンスを見せて、教えてって…普通に考えれば、何様ってなるところだものね。うん、明日はちゃんとして再チャレンジしよう」


そうして心にちゃんと決めた私は、下手くそでも明日には明日の全力をぶつけることにしようと決めた時間、ダンスにいそしんだのだった。

そして、翌日には戸惑う彼女になんとかダンスを教えてもらうことになったのだった。


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