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私のアイドル  作者: 美海秋
一章 出会い編

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お泊り特訓 5

「花澄さん、私はおかしいのでしょうか?」

「どうして?」

「アイドルとして、ステージに立つのは嬉しくて、そこに向けて練習をしてきました」

「そうだね」

「でも、練習すればするほど、私が求めているものが難しいというのがわかってるんです。それでも、うまくできていない。それがわかっているのに、私はどうしても諦められないんです」


天音の言いたいことというのは、わかる。

でも、だからこそ、私は言いたかった。


「天音」

「はい」

「私が少し前に言ったこと覚えてる?」

「えっと…」

「天音はどうしてアイドルになりたかったんだっけ?」

「それは、私はアイドルになって憧れていたアイドルと同じように、誰かを笑顔にしたくて…」

「そうだよね。じゃあ、今の天音のままでいいと思う?」

「よくないです。でも、納得いくようにしないと、私は…」

「天音はそれでいいよね。でも、それは天音のためで、天音の言う、誰かのためだと思う?」

「!」

「どう?」

「違います」


天音は、私の言いたいことに気づいてくれた。

アイドルは確かに、わがままでいなくちゃいけない。

でも、それは誰かのために必要なことであって、自分のためにわがままになるのではないと、勝手に私は考えている。

誰かに届ける。

そして、笑顔で楽しんでもらったり、泣いて感動してもらったりする。

アイドルは、それを押し付けるものだと私は思っている。

だからこそ、天音に私は言う。


「天音の歌声を私は好きだよ。だから、ダンスにこだわりすぎて、歌声がぶれてしまうのは嫌かな」

「そうですよね…」


天音も、自分の歌声がレッスンのときでも褒められていることから、歌声に力があるというのは理解している。

それでも、ダンスもよくなっているからこそ、今のうまくいっていない状況が納得していないということは、私も納得している。

私だって、両方がうまくいきそうでいかないのであれば、どちらもうまくいくように努力をするべきだと思うし、それをできるまで努力を繰り返すのが必要だと思う。

でも、それと同じくらいに考えることは、見てくれている人だと思っている。

アイドルが好きな私は、ライブにだってそれなりには足を運んでいた。

ライブということもあって、アイドルの人たちは、その場その場で完璧を求めてパフォーマンスをするけれど、それが全部うまくいくとは限らない。

それでも、うまくいかなかったとしても、私たち観客と一緒にライブを楽しむということだけは忘れてない。

だから、私が今言うことは決まっている。


「天音」

「はい」

「天音は、ダンスと歌が完璧だと、ステージはうまくいくと思う?」

「はい。それだけのパフォーマンスができれば、うまくいくと思っています」

「でも、それって、天音の勝手だよね?」

「それは、そうです」

「ねえ、天音を見てくれる人ってどういう人だと思う?」

「え…わからないです」

「そうだよね。普段の天音のことなんかわからないもんね」

「はい。私としても、初めてのステージですから…」

「だったらさ、完璧にこなすのが正解なの?」

「わかりません。花澄さんは、何が正解だと思うんですか?」

「それはね、観客にあると思うよ」

「どういうことですか?」

「これは、説明するよりも見た方が速いかな…」


言ってることがわからないという天音に、私は用意していた動画を見せる。

どちらも、ライブ映像のもの。

それも、同じ曲を流していく。

一つ目のステージでは、静まりかえった会場からの、完璧な歌からの完璧なダンス。

それによって、熱狂に包まれ始めるもの。

もう一つは、すでにある程度曲をこなした後なのか、会場には熱狂が包まれているもので、今度はダンスの動きは少なくなりながらもわかるものとしながら、観客と一緒に盛り上がるために歌を歌っているというもの。

二つを見終わった天音は、驚いている。


「どう?」

「同じ曲なのに、これほど違うのですか?」

「そうだね。曲にもよるけど、天音がやろうとしている曲はこれだけ違うよ」


そう、シノのデビュー曲である始まりという曲は、最初であれば、盛り上がり始める曲。

途中であれば、そこからさらに上げていくような曲という二つのことができるもので、アイドルによってはそんな曲がいくつかあったりもするグループもある。

特に人数が多ければ、より曲の使い方というのが重要になったりする。

天音は、初めてのステージということもあって、そのことに気づいていない。

確かに完璧にやることは、大事なことではあるけれど、それだけでは、一人よがりにすぎなくて、もしかすれば観客が置き去りになってしまう可能性だってある。


「それでは、やっぱりどうするのが正解なのでしょうか?」

「それはね、これだよ!」


再度聞いてくる天音に、私は再度動画を見せる。

同じものではあるけれど、ある場所を拡大する。


「これは…」

「そう、笑顔!」

「花澄さん、これにどんな意味があるのでしょうか?」

「えっと、わからない?」

「はい…」

「だったら、笑えばわかるよ」


私の強引な言葉とともに、その後の練習が始まる。

ただ、天音はどこか戸惑っているように感じる。

意味は、天音自身が気づくしかない。

そう、楽しむというのは、自分で勝手にやらないといけないものだから…

そんなことを考えながらも、その日の練習を遅くまでするのだった。


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