4話 図書室での頼み事
俺は今…図書室にいる。
目の前には綺麗な黒髪を腰まで伸ばした色白の美少女が静かに席に腰を落としている。
その清楚なたたずまいと図書室という空間がいやがおうにも青春の1ページが開かれるのではないかと期待させてしまう。
しかしそんな物が開かれる可能性は1ミリもない。
何故ならばの眼前にいるのはハーレム主人公に心奪われた恋愛ジャンキーの冬真静留だからだ。
「全く…お昼休みは酷い目に遭ったわ。」
「……。」
勝手に酷い目に遭いに来ておいて何を被害者ぶってやがるんだこのクソ女は…
などと思ってる事はこの女の前では一切出さず平静を装い黙ってこの女の出方を伺う。
「でもよかったわ、また私との約束をすっ飛ばそうなんて思ってたら今度は教室に迎えに行こうと思ってたから無駄な手間が省けて本当に良かったわね。」
「嘘いうなよ、お前は俺の教室になんか来れないだろ?」
「…?何を根拠にそんな事が言えるのかしら?」
「だって俺のクラスには宮藤がいるんだし、お前は来れないだろ…」
「……来れないんじゃ無い!行かないの!」
「同じだろ?宮藤の前では猫かぶってたいもんな?お前は?」
「貴方…」
「いつもの調子で俺と話してたら宮藤に幻滅されるかも知れない…だからお前は俺の教室には来れないんだよ…」
「……分かってるなら……分かってるなら私を助けてよ…私の気持ち…貴方は知ってるでしょ?私は宮藤君が好き…大好きなの!彼と恋人になりたいなんて贅沢はいわない…せめて友達に…いえ…認知して欲しい…でもあいつ等がいつも邪魔する…ねえ!私どうしたらいい?ねえ?ねぇ!!」
しらんがな…とは言えない…。
いや、本心ではあるのだがしらんがななんて言ってコイツの逆鱗には触れたくない。
面倒くさい事にしかならないのだから…。
そんな事で開放されるならこんなに苦労はしない。
この恋愛ジャンキーにそれなりなアドバイスをしないと俺はいつまでもこのクソ女のお悩み相談に乗り続けなければならなくなる。
そんなの御免だ。
俺と付き合っていながら、俺の心が傷つくとか一切の配慮も心配もなくバッサリと切り捨てられた恨み辛みはある。
しかしいつまでもそれに引っ張られて生きて行くのはしんどいのだ。
「まぁ…お前も女神なんて言われる程のルックスなんだからあの4人に気後れする必要は無いだろ?」
「貴方達が勝手に呼んでるだけでしょ…そんな肩書なんてなんの意味もないわ…むしろその肩書のせいで下らない男達が群がってきて迷惑なくらいよ…そんなことより、宮藤君とどうすれば私は仲良く出来るの?」
「…そうだなぁ…アイツの趣味に合わせるのが一番てっとり早いんじゃないか?ソシャゲとかアニメとかラノベとか」
「そんなの分からないわよ…全部同じに見えるのに…」
「とりあえず宮藤がやり込んでるのをやるのが良いんじゃないか?ある程度やればだいたい分かって来るだろうし、少し噛った程度の知識でもアイツなら嬉々として乗って来ると思うぞ?」
「本当かしら?そんなに簡単なら苦労しないのだけど?」
「文句言ってる時間があるならとりまインストールだけでもやれよ、案ずるより産むが易しっていうだろ?何事も始めて見なきゃ結果はわからん」
「そ…そうね…わかったわ、その…ありがとう…やはり貴方に相談してよかったわ…」
冬真静留は簡単な礼をして図書室を後にした。
しかし驚いたものだ…あの女は所謂オタク文化に対して拒否的、いや、はっきりと偏見の目を向けていた。
付き合っていた頃に何度か勧めて見たことがあるが見向きもされなかったので早々に諦めたくらいだ。
まぁ…偏見の目を向けていても露骨に非難したりはしてなかったから純粋に興味が無かっただけなのかも知れないが…。
それが宮藤が絡むとこうもあっさりとダウンロードしてインストールするまで漕ぎ着けたのだから凄い。
宮藤はマジで催眠電波かなにかを美少女限定で飛ばしているのではないか?
そんなバカみたいな事を考えながら俺は自分の教室に向かう。
今は放課後でクラスメイトもみんな帰っている。
だから誰かがいる理由はないのだが…
「なにしてんのお前等…」
「よっ!待ってたぜ智春!」
「どうだったんよ?な?な?」
「放課後の図書室に男女が二人きり…何も起こらない筈はなく…ごくり…」
「………はぁ…何も起きねーよ…」
どうやら昼に一緒に学食にいった友人達が事の顛末を聞く為だけに学生にとって貴重な放課後の後の時間を浪費してまで俺と冬真静留の話の内容を聞きたいらしい。
「残念だけどお前等の求めてる内容にはならないから安心してくれ。」
「宮藤の件なのは理解してるがあの堅物美少女の冬真さんがあれだけ砕けた態度取ってるのも意外なんだよな」
「そうそう、3年で書道部やってるイケメンの先輩が告っても貴方と付き合う気はないわって一蹴してたくらいだし…」
「図書室の天使様は男子に対して基本的に塩だからなぁ!」
「なのにお前に対してはある程度フランクだし、そこは気になるわ」
「話ても良いけどマジで期待するなよ?人に話して面白い話じゃないからな…」
そう前置きして俺は冬真静留との関係を話した。
この学校で五大女神と呼ばれている内の1人と恋人だった事。
宮藤に一目惚れしたから別れて欲しいと一方的に言われた事。
それからは話しかけるなと突き放され付き合っていた事実なんて無かったかの様に扱われ、踏ん切りが付いて来たところで今回の橋渡し役を押し付けられた事の全てを………。
「マジかよ…お前あの冬真と付き合っていたなんて…」
「でもおかしくね?学園の五大女神の1人で図書室の天使、冬真静留とつき合っててそれが広まってないとか奇跡なんだが?」
「お前もしかして…」
「嘘なんてついてねーよ、口止めされてたんだ…冬真も自分の立場は弁えてるからつき合ってるのが広まるのはお互いに良いこと無いから黙ってよってさ…」
「逆にいつ別れても良いように広めなかったって可能性もでてくるな…今となっては…」
「それは……そうかもな…」
「つーか、また宮藤か…アイツいったいなんなんだろーな…女神5人でハーレムとか…死ねばいいのに…」
「だな…本当腹立つよな…」
「足立はよくアイツの友達やってられるよな?」
「俺だって宮藤なんかに友情なんて感じてないさ…ただ…」
「ただ…?」
「下手なドラマ見てるより面白いんだぜ?アイツを見てるのはさ」
「かぁ〜わからん!」
「俺なら嫉妬で気が狂う自信があるわ!」
そう…面白いと感じないならあんな自己中の思い上がり男となど、友達ごっこに興じたりしない。
アイツの周りは常にギスギスしているのだ。
ピーク時など昼ドラを軽く凌駕するギスり具合だ。
人同士が無自覚に織りなす喜劇は人が用意した台本通りの下手な催しより見る価値があると俺は思ってる。
実に見ていて飽きない。
しかし今の何も起きていない段階も捨てがたい。
喜劇に向けて一つ一つ段階を組み上げていく。
それを肌で実感出来るから俺は今の段階が好きだ。
いや…大好きなのかもしれない。
これは遠足に遊びにいく前の日のソワソワした感じに似てるのかもしれない。
もう体も精神もそれなりに大きくなり、大抵の事に楽しみを感じなくなった俺みたいな捻くれ者にとっては…これは最高の娯楽たり得るのだ。
だから冬真静留…
俺をフッてくれた事…
今では感謝してるんだ。
あの頃の俺ではきっと今の考えには辿り着けなかったろうから…。
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