35話 慎ましやかに
宮藤雅人が引き籠もりになったらしい。
所謂登校拒否…ヒッキーという奴だ。
いつからかはハッキリと覚えていない
気がついたら学校でアイツを見かけなくなっていた。
きっかけは恐らくあの日…アイツが茜に掴みかかり暴力を振るおうとした日だと茜は考えている。
恋愛感情はとっくの昔に無くなってると本人は言ってるが、それでも幼馴染の情だけは捨てきれないらしく何度か奴の家に行こうとしていたがそれを俺は必死に止めていた。
当然だろ?
彼女が別の男の家に単身で行こうと言うのだ。
止めて然るべきだし、今のアイツの精神状態では何があってもおかしくはない。
彼氏として断固拒否した。
軽蔑されるかも知れないが、1人の男の人生よりも俺は茜の安否…なんて言えば聞こえはいいが、単純に茜を俺以外の男と二人きりにさせたくないだけなんだ。
そう馬鹿正直に茜に伝えたところ
「も…もう…ズルいよ…そんな事を言われたら行けるわけないじゃん…智君はホントにもう…」
と、なんだかんだモジモジしながらも行く事をやめてくれた。
彼女の中で葛藤があるのは理解しているが引き籠もりの道を選んだのは宮藤の意志だ。
アイツがこの先このまま駄目になろうと立ち直ろうとそれは俺達には関係ない。
全てアイツが決める事で俺達がとやかく言う事では無いのだ。
ぶっちゃけそんな義理もないしな…。
それにアイツのメンタル次第で呪いが復活したら流石の茜も拒みきれなく成る可能性だってある。
非常識この上ないファンタジーな話だがアイツの呪いが本物だと思うのだったら警戒するのが当然の備えなんだから…。
いろいろとそれらしい言葉をならべたが…要は単純にあの2人を一緒にしたくないだけなのだ。
しかしメンタル次第でモテたりモテなかったりとか、ふざけた体質?だな…。
もうここまで来たら魔法みたいだな…
誰かから客観的に聞いただけならまず信じないだろうし非現実めいてる。
もはやファンタジーだ。
それでも俺はアイツの力が夢や幻なんて思わないし思えない。
実際に俺はアイツの力をこの目で何度も見てきたしそのせいで酷い目にもあった。
まぁ…そのおかげで茜に出会えたのは嬉しいけど…それとこれとは別の話だ。
正直俺達人間の常識なんて通用しないのだから俺はアイツをナメる事なんて絶対に出来ないし、してはならないのだ。
まぁアイツには一応は同情する。
あんなふざけた力を何処で拾って来たのか知らないがあの力のせいでアイツの人間性が破綻したのは明らかなんだろうし…
もし、あのふざけた呪いが無ければアイツももう少し普通のありふれた日常を送れていたかもしれないな。
「何考えてるのぉ?」
「うわっ!茜」
と、真剣に色々と考えてると茜が背後から抱きついて来た。
今は俺の家で勉強中だ。
もうじきテストが近くソレの為の予習、復習をしようとここ最近は互いの家に行き来している。
茜は俺の背中に全体重を乗せる勢いで抱きついているようで彼女の胸元の柔らかい2つの饅頭がグニュっと押し付けられているのがわかる。
彼女の胸は姉みたいにやたらめったらデカい訳では無いが年頃の少女にしては普通以上の大きさを保有している。
つまり、平均より大きい立派な胸部装甲を持っていらっしゃる訳だ。
それが今は俺の背中に押し付けられグニュって潰れて押し当てられている。
男の子としては大変な事態だ。
主に俺の体の極一部が大変な事になる。
「あ…あの…あたってるんですが…?」
「えへへ~智君成分を抽出してるんだよ〜」
「智君成分?」
「そうだよ?落ち込んだ時や悲しい時、元気がない時は智君成分を取れば元気になれるの!」
そう言うと彼女は更に力を強めてギュ〜と抱き着いて来た、おかげで背中の柔かい感触が更に強くなる。
男の子としての本能が解き放たれそうになるからこういの本当にやめていただきたい。
いや、やめないで欲しい。
もっとプリーズだ。
しかし俺の鋼の理性もそろそろ限界かもしれないな。
可愛くって美人の彼女にこんな事をされて平気な男などこの世界にどれだけいるって話だしそう思うと俺って本当にジェントルマンだ。
「じゃ次は智君のばん!」
「へ?」
そう言うと彼女は背後から抱きつくのをやめる、背中にあった温もりが消えてすこしの寂しさを感じたのも束の間、今度は俺の膝にドカっと彼女は腰を下ろしてきた。
つまり俺の股間に茜が座っている状態なワケだ。
イヤこれは流石にヤバい。
何がって俺の一部……つーかあそこが固く大きくなってるのがバレてしまう。
なんならもっと大きくなってしまう…。
茜の肉付きのよいお尻の感触が俺の下半身全体に広がっているのだ。
大きくなるのはもはや不可避だ。
「あっ、もう、智君のエッチ〜」
「し、仕方ないだろ…こんな事されたら男は誰でもこーなるよ…」
「ふふ、別に怒ってないよ?これは智君か私の事を好きだって証拠だしね、じゃ私の事、ぎゅ~と抱きしめて?」
「い…いいの?」
「私は沢山智君成分もらったから茜成分のおすそ分けだよ。」
彼女の細い腰に手を回し、背後から抱きしめる。
しなやかで華奢な体は否が応でも彼女が女の子である事を実感させる。
体温から来る温もり…あたたかさ…
心も体も落ち着く…これが本当の彼女か…。
冬真と付き合ってた頃には絶対に体験出来なかった安心感、心の充足がここにはある。
こんなモノを体験してしまってはもう二度と手放したく無いと切に思ってしまう。
「雅君の事は好きだった…でも今となってはあの気持ちが本当に誰かを好きって気持ちなのか解らなくなるの…」
「茜…」
「お酒とか飲んだこと無いけど多分そんな感じなんだと思う…雅君を好きになると頭も体もフワフワして…何も考えられなくなる…夢を見てるみたいで…気持ちよくなってもっとフワフワしたい…そんな気持ちに酔いしれたいって……」
「……、」
「でも今はフワフワしたのは無い…えっとね…心はフワフワしてるんだけど夢の中みたいな現実感が無いのじゃなくて…ちゃんと現実で…智君と一緒にいると人を好きになるってこういう事なのかなって…心の奥がね…ずっと温かいの…こうして智君と一緒にいると…こうして体を密着させてると凄い安心するの…」
「俺も同じだ…茜の体温を感じてると凄い安心する…もっと近づきたいって思う…充足感とか安心感が茜の体から流れ込んでくる…その…離したく無くなる…」
「えへへ~ふふ…智君大好きだよ…」
「ああ…俺も好きだ…茜」
この温もりをずっと手放したくない。
依存に近い感覚なのかも知れないが…
それでも構わない。
彼女がいない生活になんてもう戻れないし、戻りたいとも思えない。
その為にも彼女は俺が守っていかないと駄目だ。
宮藤からもそうだが他の連中からも…。
何せ彼女は可愛い上に美人だ。
五大女神のなかでは一番弱小で候補止まりでも可愛いのは否定のしようのない事実だし、その敷居の低さが付け込まれる所になるなんて十分に考えられるんだから…警戒してないとな…。
なんにしてもこうして2人になると勉強どころでは無くなってしまうので困ったものだが全く苦に思わないのが更に困りものだ。
我ながらのリア充ぶりに少しビビってしまう。
爆発しないように慎ましやかに生きていこう…。
そんな事を思うのだった。




