34話 失う時
「ど…どうして…?」
「私…言ったよね?もう遅いって…」
「そ…そんな…どうして…」
「今の私には私を必要としてくれる人がいるの!」
「はっ!はは!足立君だろ!?あんな奴より僕が!僕の方が茜を理解してる!幼馴染の僕の方が!」
「雅君は何もわかってないよ…」
「何がさ!?僕は茜の事をわかってる!!わかってるんだ!」
「雅君は可哀想な人だよね?そうやって人の事を解った気でいたら楽なんだろうね…」
「な…っ?……あ……あかね……茜ぇ!!」
茜は僕を拒絶した。
今の僕からは女の子を引き付けるブランド力が溢れ出てるはずだ…今までの茜なら…それでまた僕の虜になって戻って来るはずだろ…なのに…どうして…?
あんな…あんななんの力も無い普通の男に…足立君なんかに負けるわけ無いのに…
でも普通なら僕なんかには茜は高嶺の花だ…
手の届かない存在…本来なら幼馴染のよしみで知り合いとしての立場をギリギリキープ出来てるかどうか程度の遥か高みの存在にだったんだろう。
でも僕にはこのブランド力がある。
これがあれば女の子はどんな気位が高い子でも僕の事を好きになるんだ…そのはずだろ?
でもこの力がないと僕は……
あかねは僕の相手なんてしてくれない…
なら…その茜を手元に置いておこうなんて考えは傲慢だったのかな?
茜の言う通り…人の事を理解しようとしない僕の傲慢が彼女を遠ざけたのかな?
そんなの関係ない…
茜は僕の幼馴染なんだ…一緒にいる義務が…あるんだ!
じゃなかったらどうして…茜は…足立君を選ぶんだ…
わからない…わからない…よぉ……。
僕はフラフラしながら学校に向かった。
義妹や先輩達がいつかのように途中から合流してワイワイ楽しそうに談笑していたけど僕の耳には入ってなかった。
彼女達も僕にとっては霧の様に消えて無くなる蜃気楼みたいな存在だ。
気を抜けば掻き消えてしまう。
結局、ブランド力が無くても一緒にいてくれる茜みたいな存在が僕にとって最も大切な存在だったんだ。
そう思うと女の子達の囀りが遠い出来事の様に感じる、
僕はもしかしたら取り返しのつかない事を仕出かしてしまったのかも知れない…そんな事を考えながら夢遊病の如く僕は学校に向かった。
そうして義妹や先輩達と別れ僕は教室に向かう。
教室には唯一の友達である大地君がいる。
彼に相談してみるのも良いかも知れない。
しかし彼は僕ではなく、足立君と茜の所にいた。
「よ!今日もアツアツだな?イチャイチャしやがって!」
「はは!良いだろう!良いだろう?お前も悔しかったら彼女の一人でも作ってみろよ?」
「このぉ!言わせておけばこのリア充がよぉ!」
「もう!智君、そういう事を言わないの!めっ!だよ?」
「めっ!されちまったよ…茜は可愛いなぁ…癒やしだわ〜」
「かわっ!?もっ…もお!バカ!」
「くそぉ!リア充オーラで焼き殺されるぅ!!」
「はははは」
「ふふ、」
何してんだよ…
なんで大地君はそんな奴等と楽しそうにしてるんだよ!
おかしいよ!
おかしいよ!!
悩みを聞いてほしいのに…
僕は変わらずひとりなのに…
アイツ等は…
頭の中でバン!と勢い良く立ち上がり足立君をぶん殴り、茜を引っ叩き、大地君を睨みつけながらこの鬱憤を言葉にして怒鳴りつける自分のビジョンが再生される。
でも現実の僕は机の上に伏しながらあの3人を盗み見て…悔しさに震える事しか出来なかった。
それからいつもの様に時間は流れる。
1時間目…2時間目の休憩時間に義妹や先輩達は来てくれていたけど3時間目からは3人とも来なかった。
4時間目の昼休憩で冬真さんとすれ違ったけど何も言われない…それどころかあからさまに眼中に無かった様に感じた。
それからただ無為に時間は過ぎる…。
変だ…大地君が一度も僕に話しかけてこないんだ…
大地君をまた盗み見る。
今日は彼の事ばかり目で追っている。
まるでホモと勘違いされるかもなんて余計な心配をする。
大地くんと…、
へ……?
仁ノ崎杏朱……?
どうして杏朱と大地君が…
2人がどうしていっしょにいる?
何故?
接点なんて無い筈なのに…?
その時は疑問に思ったが気にしてもしょうがない。
陽気な大地君の事だ。
軽くナンパ感覚で声をかけたとかそんな所だろうし気にする程でもない。
そして…それからも時間は流れる。
流れ流れてとうとう放課後となった。
生徒は皆思い思いに帰路につく。
友達と談笑してる者や我先にと教室から駆け出して行く者、これから何処に遊びに行くかと放課後の時間の潰し方に楽しげに笑顔を咲かせている。
僕にはそんなモノない。
義妹も先輩もとうとう来なくなった。
でもそんなモノどうでも良い。
茜…
あかね…
茜……
茜は…笑顔で足立智春と一緒に教室から出て行った。
僕に一瞥もくれることなく…。
「はは……はは……なんなんだよ…、」
苛立ちが僕の中でピークに達する
昨日まではあんなに晴れやかな気持ちだったのに…全て台無しにされた気分だ…
「よぉ…宮藤」
「……大地…君?」
何なんだよ…今更…
今日は一度も話かけて来てくれなかったクセに今更僕になんの用があるってんだ…。
悩み事を聞いて欲しい時には来ないクセにこんな時に話しかけられてもイライラするだけなのに。
「はは、何そんなイライラしてんだよ?カルシウム足りてないのか?」
「君には関係ないだろ!」
「おいおい、仮にもダチに向かってそれは無いだろ?」
「うっ……ご…ごめん……でも…今少しイライラしてるから後にしてもらえない?…」
「はは、そんなに智春に幼馴染を掠め取られたのが気に食わないか?」
「え…?」
「こう言うのNTRって言うんだろ?まぁあいつ等まだお互い初物同士だろうから厳密には違うんだろうけどな?」
「へ、…な…何を…」
「ははは、なに馬鹿面晒してるんだよ?智春に愛しの幼馴染を取られてイラついてるんだろ?わかる!わかるよ~その気持ち?」
「な……わ…解るわけない!君なんかに僕の…僕の気持ちがわかるものか!友達だと思ってたのに!僕の事を馬鹿にしやがって!君なんかに茜を取られた僕「仁ノ崎杏朱」の気持ちが……へ?」
「仁ノ崎杏朱…俺にとって初めて出来た彼女…恋人だった… 」
「へ…?彼女…」
「中学のころ、俺から告って付き合いだして…ダチからもお似合いのカップルって言われる程に好きあってた…お前が出てくるまではな…」
「は………?」
「あの女はお前に惚れたとか好きになっただ何だと抜かし、恋人の筈の俺をあっさりと捨てた…智樹と一緒にいると私の本当の恋が実らないとかなんとか抜かしてな…」
「……、」
「な?俺も他人……に恋人を取られた過去がある訳よ、だからお前の今の気持ち…痛いほど解るぜ〜?悔しいよな?ムカつくよな?腹立つよな?ぶっ殺してやりたくなるよな?」
「は……あは…あはは…そ…そんなの…そんなの僕しらない……しらない……よぉ!!」
「だよなぁ〜お前はそーゆぅ奴だよなぁ?」
「だって…仕方ないじゃないか!皆僕のブランド力に群がってくるんだ!僕が好きでやってるんじゃない!僕は悪くない!」
「ブランド力かあ…うまい事言ったもんだな…俺と、ある人はお前のそれ、呪いって言ってるぜ?」
「の……呪い?」
「だってそうだろ?人の気持ちを捻じ曲げて自分の事を好きにさせる力…そんなんさぁ…もう呪いじゃん…マジでさ…?」
「そんなの…知らないよぉ!僕は…僕は悪くない…僕は悪くない…」
「知らないでは済まないんじゃね〜か?現に俺みたいな犠牲者は実在してる訳だし、俺みたいにお前に復讐とか考えてる奴はいるだろ?
そーいやさ、お前さ?智春と冬真さんが付き合ってたの知ってるか?」
「え…?」
「半年くらい付き合ってたらしいけど俺等と同じでフラれたんだとよ?理由はまぁ…察しがつくよな?」
「や……止めてよ……もうやめてよ…」
「お前が智春から冬真さんを取らなけりゃ智春が九条さんの魅力に気付く事も無かったわけだ?馬鹿な事したなぁお前?え?今どんな気分だ?え?」
「やめろぉ……もう嫌だぁ…聞ぎだぐない嫌だぁ……みん…な…みんだぁ……だずげでよぉ…、…」
「……はぁ………、しょーもな……お前はそーゆー奴だよな…はあ…ホント…しょーもな…」
大地君はそう言って何処かに歩き去っていった。
もう僕に用はないと…そう言わんばかりに…。
僕はただそこにくすぶってるしかなかった…。
もう何もしたく無かった…。
したいと思えなかった…。




