3話 五大女神の1人 冬真静留
「私…言ったわよね?お昼は開けておいてって」
友人との昼飯時にアイツはやって来た。
冬真静留
この学校に実際に存在する5人の女神とまで呼ばれている美少女の内の1人に数えられている少女がコイツだ。
図書室を根城とするコイツは昼飯時や放課後なんかは基本的に図書室にいる。
そのためついたあだ名が女神以外だと図書室の天使なんてたいそうなものだ。
流れる様に綺麗な黒髪に知的な印象をもつ鋭い瞳。
薄く主張しない程度に施したメイクもコイツには十分なのかほぼスッピンでもその顔面偏差値はこの学校で女神なんて呼ばれるレベルに届く程に整っている。
スタイルも当然良好で着崩す事なくしっかりと着用した制服も彼女が着れば一流メーカーのブランドモノの様だ。
それでいて彼女の体付きの良さが浮き出ている。
そんな感じで当人は自分の美貌に無沈着ながら持って生まれた見た目の良さは周囲の男達を魅了し、持ち上げ、天使等と称賛している様だ。
とはいえ、彼女自身は静かな場所と時間を好むため、人に纏わり付かれるのを良しとしない。
だから普段は図書室に籠城し、私に近づくなオーラを周囲に放っているのだがどういう訳か、そんな女がこの昼時はほぼ半数以上の生徒が集まるこの騒がしい食堂にやって来たものだから俺の友人どころか、周りの食堂を利用している生徒達も彼女の登場に驚きを隠せないでいた。
「珍しいな、冬真さんが食堂に来るなんて、」
「貴方のせいでしょ?
私だってこんな騒がしい所に来たくはなかったわ、それもこれも貴方が私との約束を反故にしたからよ」
「約束した覚えはないんだけど?」
「はあ…昔から貴方はそうね、もういいわ、行くわよ?」
「行くってどこに?」
「察しが悪いわね?決まってるでしょ?」
勿論分かっている。
コイツの自身のテリトリーである図書室に退去したいのだ、そしてコイツが来たくもないこの場所に来た理由も察している。
本当に面倒くさいがこれ以上駄々を捏ねても俺に得する要素は無い。
既に図書室の天使、女神である冬真静留からの誘いを蔑ろにしたであろう俺に対する敵意がそこかしこから発せられている。
いかないと後で怖そうだ。
「悪い、ちょっと行くわ」
「いや…良いけどさ…え?どういう関係?」
「お付き合いな仲?関係…?」
「え?マジで?同盟を。関係の裏切り的な?」
「ちげーよ、お前等の思ってるよう甘ったるい関係じゃねーよ、」
「それでも女神と仲良しとか羨まけしからん!」
「制裁が必要だな!な?」
「そ~だそ~だ!」
なにやら勝手に盛り上がる男友達の面々。
まぁ…気持ちがわからないこともないのだが勝手にこっちの事情も知らずに盛り上がられるのも面白くない。
なんか言ってやろうと思ったのだがそこで助け舟…では絶対に無いのだろうけど冬真静留が割り込んで来た。
「彼の言ってる通り私と彼に色恋の関係はないわ、彼には個人的な頼み事をしていただけよ、そういう事だから要らぬ詮索は止めてくれるかしら…それじゃ行くわよ?」
「はぁ…」
言うことだけ言うと冬真静留は食堂を出て行こうとするがそこに立ちはだかる様な形で1人の男子生徒が前に出てきた。
「やぁ、静留、そんな奴に頼まなくても俺を頼ってくれたら良いだろ?」
「貴方に?何故?」
「俺なら静留の悩みに絶対応える事が出来るからさ」
「ふーん…そうなの…じゃお願いしようかしら」
おお〜という歓声が周囲から上がる
辞めておけば良いのに…、彼女がどういった悩み事を俺に持ち掛けてきているかも知らずに横槍を入れてきたこのチャラ男はマジで可哀想だ。
どうやら相当の陽キャ力を持っている様だが冬真静留からは眼中に収められてはいないのは明白なのだから。
「雅人君…宮藤雅人君と個人的に仲良くなりたいの…えっと…その…別に恋人とかになりたいなんて烏滸がましい事はまだ考えてないわ…今は仲良くなりたいだけなの…でも色々と問題があって…貴方は宮藤君と個人的な交流はあるかしら?もしあるなら私と宮藤君が仲良くなるための橋渡し的な役をしてくれると助かるの…、どうかしら?できる?」
これまでのツンケンした態度は何処えやら、ほほを赤らめ恋する乙女なムーブをこれでもかと披露する冬真静留の愛らしさは学食に集まった生徒達に強い印象を焼き付ける。
それと同時に襲来するのはまたか!という絶望の念。4人の女神がすべて宮藤雅人にぞっこんな中で唯一そういった噂の無かった冬真静留までもが結局は同じだった。
この絶望たるや計り知れないだろう。
「はあ?マジでふざけんなよ!どいつもこいつも宮藤!宮藤!あんなカスの何処がいいんだよ!」
チャラ男は今までのヘラヘラした態度を一転させ、今度は不機嫌そうに冬真静留に乱暴な言葉を投げ掛ける。
それは冬真静留…ひいては彼女を含めた5女神にとっての禁句だ。
「今なんて言ったの?誰がカスですって?もしかして宮藤君の事をカスと貴方は蔑んでいるのかしら?」
「はぁ…?どっからどう見てもカスだろ?大した能力も無いクソ人間の分際で美人侍らせてヘラヘラしてさ?見てて不愉快極まりないてーの!」
「それは貴方の価値基準の話でしょ?そんなモノを私に押し付けないでくれる?反吐が出るわ、後、彼は素晴らしい人間よ?貴方には理解出来ないでしょうけどね?彼は誰に対しても別け隔てなく接する事の出来る人間なの、彼の表面的な所しかみてないからヘラヘラしてるなんてお門違いな評価がでてくるのよ?理解できるかしらそもそも……」
そこから宮藤がいかに素晴しい人間かをくどくどと冬真静留は語りだす。
そのさまは正にオタクが自分の好きなモノにたいして早口になる所謂限界化に酷似した姿だった。
チャラ男は逃げ出したそうな顔をしているが冬真静留はそれを許さない。
宮藤の何処がいかに素晴しいかを熱弁して止まらなくなっている。
正直チャラ男の登場に俺は色々助けられている。
図書室に連行され貴重な昼休みを宮藤のここがすばらしいってクソ程どうでもいい話で潰されていたのは俺だったかも知れないからだ。
それをあのチャラ男は代わってくれたのだ、感謝しか無い。
加えて図書室の天使とか女神とか言われてる女子に名指しで相談事を頼まれるなんて他の男子の嫉妬を招く可能性のある状況から抜け出せたのだ。
マジで感謝しかない。
「今の内に行こう…」
「え?あっおう、」
友人達といそいそと食堂から退散する。
智樹から後で説明しろよ?と言われ、ああ、後でなと雑に返す。
今はこの面倒な空間から一刻も早く逃げ出したかった。
しかし…、
「何処に行くのかしら?足立君」
彼女は俺を見逃してはくれなかった。
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