14話 帰り道
俺は今、女の子と一緒に下校している。
相手はなっなんと!あの九条茜さんだ。
九条茜さんといえば俺が通う学校で5人存在する女神の1人で俺の所属するクラスの学級委員長をしている子だ…。
もっとも5人目の女神としては彼女が候補止まりで他の4人程の影響力を持たないため、影はぶっちゃけ薄い。
それでもずば抜けてかわいい子で、もし付き合えるなら男としてこれ以上の幸運はないだろうと断言出来る程の美少女だ。
そして彼女はあのハーレム主人公である宮藤の幼馴染でもある。
幼馴染といえばあらゆる恋愛を題材にした創作でヒロインに採用される頻度はすこぶる高い事でも有名だ。
そして負けヒロインとしてもまた有名だ。
近すぎるが故に家族の延長線と見なされ、恋愛の対象になり辛い。
一昔前の恋愛物ジャンルでは造語で滑り台行きなんて言葉まで生まれている。
幼馴染と滑り台はセットで報われない印象を負わされていた言葉と言っても過言では無いだろう。
宮藤も同じ様な理由で彼女を遠ざけて来たのだろう。
宮藤の為に作った弁当もただ捨てられるだけならオレの胃の中に収まっても問題あるまい。
「あの…」
「え?なに…?」
「さっき言いかけたんだけどね、もし良かったら…明日も足立君にお弁当作って来て上げようか?」
「え?マジで!?いいの?」
「うん…今までやって来た事を突然辞めちゃうのも何だか変な感じだし…足立君にはお弁当食べてもらいたいから…」
「そ…それって…」
「………。」
頬を赤らめて俯く九条さん。
ヤバい…可愛い過ぎる。
しかしいったい何故いきなりこんなにも好意的になってくれたのだろう…。
正直、心当たりがなさ過ぎて美人局的な怖さがある。
「ねえ…?お弁当はすごく嬉しいんだけどさ、どうしていきなり俺にそこまで親切にしてくれるのさ?俺、九条さんになんつーか…感謝?される様な事はなんもしてねーぞ? 」
「そうだね…たしかに些細な事かもしれないけど…私には十分過ぎる事だから…」
「?…えっと…」
「あはは…ごめんね…なんて言えば良いのかな…その…私…ちゃんと目を見て話してくれたのが嬉しかったの…それにお弁当を褒めてもらえたのも嬉れしくて…」
「え…?そんな事で…?」
もしかしたら九条さんは惚れやすいのか?
いや、彼女は候補と言えど女神の1人だ。
これまで告白された事など数え切れない程にあるのは間違いない。
その彼女がこれしきの事で俺なんかに絆されるなんてホントにあり得るのか?
「ぶっちゃけるとさ…悪いと思うけど少し疑ってる…九条さんみたいな可愛い子が俺みたいな特徴の無い奴にいきなり好意的になる理由がないしさ…」
「え!?……そ…っ…く………はぁ…そっか…」
「九条…さん?」
「本当はね…もっと親しくなって…勇気を持てる様になったら言うつもりだったんだ…」
「え?…う…うん…。」
「でもそれは私の独りよがりだよね…足立君の事を何も考えてない…それに言わないと伝わらない事が沢山あるって私解ってた筈なのに…私は馬鹿だ…本当に…ごめんなさい…。」
「え?いや、別に謝らなくても…」
「足立君はさ…詩羽ちゃんって知ってる…?」
「へ…?ああ!確か宮藤がお熱のVチューバだろ?」
「ふふ…流石だね…厳密にはアークスターの星乃詩羽…大手事務所、アークスターに所属するタレントVチューバでチャンネル登録者数は250万人以上の超大型タレントだよ、同時視聴数はどの動画も20万再生が平均で、う〜チューブ全体で見てもかなりの数値を記録している化け物みたいな子だよ。」
「くっ…詳しいな………てか…それがいったいなんの関係が…?」
「昔の私は確かに雅君の事が好きだった、私にとっては雅君は世界そのモノだったの…大袈裟なって馬鹿にしちゃうかもしれないけどそれが私の本心…。
でもね…人の気持ちは永遠じゃない…冷たくされたり……面倒くさそうにされたり、適当にあしらわれたりしたら…私の気持ちも冷めてくる…そうなってから彼を見ると思うの…どうして私はこの人にこんなに尽くさなきゃ駄目なのかなって…」
「………」
「それでも自分は雅君が好きだから頑張らないと駄目だって…そう自分に言い聞かせて…頑張ってきた…朝早くから起きて…、お弁当作って、迎えに行って…でも彼の周りにはいつも誰かしら女の人がいる。」
宮藤の推しの話をやたら詳しく話しだしたと思ったら今度は唐突に自分語りを始める九条さん。
なんとなく茶々を入れ辛い雰囲気だし、俺もそんなモノを入れるつもりは無い。
脈絡のない話だがきっと彼女には意味の有るものなのだろう。
「感謝されたいなんて烏滸がましい事を言いたいんじゃない……ただ…私の事を見てほしかった…、でも彼の目に私は映らない…いつも周りには可愛らしくて…カッコよくて…綺麗で…そんな色んな女の子達が群がる…でもそんな人達も私と変わらないんだ…雅君は結局誰も見てない…自分しかみてないんだよ…」
「でも詩羽ってVチューバにお熱だろ?アイツだって誰かに夢中になる事もあるんだろ?」
「あれも広い意味では独りよがりな自己陶酔だよ…何かにハマってる自分を自慢したいだけ…」
「そ…そうなのか…」
「うん…でもね…私はそんなモノにすら嫉妬したの…」
「嫉妬…?」
「うん、嫉妬…Vチューバに嫉妬して…もしかしたら私もさ…雅君にVチューバに私もなれたら見てもらえるのかなって…そう思ったの…」
「へ…?……、っ!!まさか?」
「そ…、私ね…両親にお願いしてVチューバになったのよ…」
「……………マジかよ…」
マジかよ…
凄い行動力だ…
なろうと思えばなれるのだろうけど、一介の高校生には狭き門だろ…。
親も凄いな…私Vチューバになりたい!
なんて言われて…よし!とゴーサインなんて普通出さない。
余程可愛がられているのか…あるいは親がその道の理解者のどちらかだろう。
「でも結局無駄だったの…雅君は私がVチューバになろうとならなかろうと何も変わらないんだ」
「へ?九条さんがVチューバやってるのを宮藤に話したのか?」
「直接は話してないよ…気付いてほしいから…間接的には言ったけど…」
「関節的?…それじゃ無理だろ…遠回しに言ったってアイツは相手なんてしてくれないぞ?」
「うん…でも直接言っても結果は変わらないと思うの…それが解ってるから…直接は…怖いんだ…」
「成る程…」
詩羽は250万人の登録者を抱えるVチューバだ。
それにお熱の宮藤。
大物Vのファンをやってるアイツは自分のその行動に満足している。
自分はこんな凄い人を応援しているんだという虚栄心…自己陶酔に酔っている。
そんなアイツに私もVチューバになったから応援してなんて言われた所でアイツは応援なんてしないだろう。
いいとこ良い事言ったつもりで残酷な追い打ちの言葉を投げかけるだろうな。
九条さんはそれを理解しているから自分からVチューバをやってると打ち明けれない。
間接的にやってると言うのが精一杯なんだ。
宮藤が詩羽から自分がやってるVチューバに推し変してくれるというミジンコ並の可能性に賭けるしか無かったんだ。
でも結局…。
「徒労に終わったよ…お弁当も…お世話も…Vチューバも全部意味は無かったの…彼は私のことなんて興味無い…それを確かめるだけの手段に終わったよ…私の中から恋心も未練も無くなった。」
「そっか…」
「でもね…悪い事ばかりじゃ無かったの…ううん…良い事…とても素敵な良い事があったの…。」
「………」
「雨白アテナ…」
「……へ……?…………マジ?」
ここ最近俺がハマってるVチューバの名前だ。
何故このタイミングで彼女がその名前を口にしたのか…
そんなのは勘の良いガキでなくとも察しがつく。
「もしかして…アテナの中の人って…」
「うん…私…」
マジかよ…
確かに思い返してみると声に何処か似てる所がある気がする。
アテナはやや高めのトーンで話してるから解らなかつたが言われると、あぁ…確かにと思う所は沢山ある。
落ち着いた話し方にも共通点があるし、な…成る程…。
「ビックリだよ…マジで…まさか知り合いにVチューバやってる子がいたなんて…」
「私もさ…こんな事になるなんて夢にも思わなかったよ…」
「でもきっかけは兎に角…ちゃんと続けてるのは凄いと思うわ」
「えへへ…足立君達のお蔭だよ…。最初はたしかに雅君に見てほしかったのがきっかけだけど、今はそんな事どうでもいいんだ…私みたいな人間のお話を聞いてくれて、楽しいよって言ってくれるリスナーさんの事を思うと続けたいって思うし…私も楽しいし…。」
「そっか。」
「それにね…」
「うん…?」
「それに…貴方は私を見つけてくれた。」
彼女は俺の顔を…目を真っ直ぐに見て言う。
「雅君には相手にされなくて…こんな事に意味なんてあるのかって思ってた私の配信を見つけてくれた。星の数程ある沢山の配信の中から私の配信を…こんなのさ…運命感じるなって言われても無理だよ…ね?」
九条さんの言葉に熱が籠もる。
「最初は嬉しさと驚きと…でもここしばらく足立君と一緒にいて…私の中の欠けてたモノが貴方のお蔭で満たされていくの…私の心が満たされていくの…。」
「九条…さん…」
「雅君にめちゃくちゃにされた私の心が貴方の一挙手一投足に救われていくの…最初は解らなかった…でも今なんてわかる…わかるの……!!」
彼女はひとまず息を飲んでから一気に言った。
「足立君…わたし…貴方の事が好き…好きになっちゃったみたいなの…」
俺は今…生まれて初めて女の子から告白された。
冬真の時は俺からダメ元で告白した。
しかし今度は女の子…九条さんの方から…。
俺には女の子と付き合う自信かない…。
また、フラれたら…裏切られたら…
俺は……
どうするべきなんだろ…?
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