第三話 留年、二人の問題児
勇者アカデミア設立から三年の月日が流れた。
その間、生徒は着々と入学。そして卒業まで見送った。
軌道にも乗り始めて多くの卒業生が活躍の場を広げていた。
勇者アカデミアは基本的に三ヶ月程度のカリキュラムで卒業するのが一般的だが、俺の設立したアカデミアは倍の半年のカリキュラムを組んでいる。
ただ無駄に長いと言う訳でもなく、それにも理由があり、三ヶ月で教えることはあくまで基礎中の基礎範囲。だが、それでは実践には使えない。
よって俺の勇者アカデミアでは実践にも使えるように三ヶ月の実務教育を取り入れている。その期間を得て卒業試験に合格すれば晴れて卒業となる。
基本となるのが半年のコースだが、生徒によってその振り分けにばらつきがある。半年、一年、二年、三年と最大で三年のカリキュラムを取り揃えている。
卒業したらイロハちゃんが所属する冒険者ギルドに紹介する形をとっており、職業を与えられたのちに旅立っていくスタイルだ。
まさに入学から卒業。そしてその先のことまで組み込まれているとして安定的に就職先が用意されている訳だ。
噂が広がって連日、俺の勇者アカデミアの入学希望者が絶えない。
そのお陰もあり、借りていたお金ももう時期完済する見込みだ。
全てがうまくいっていると思いきや一つ、問題に直面していた。
「行くよ! エンリィ!」
「は、はい。いつでもお願いします。カレンちゃん」
「やああああああああああ!」
「わっ! わっ! やっぱ無理。ストップ! ストップってばぁ!」
ピタリと寸前のところで木刀が止まる。
「もう! また? これで何回目よ!」
「だって向かってくるカレンちゃんの顔が怖くて……」
今、まさに実務教育の最中のこの二人。
エンリィ・ソハラ。
青髪ショートで笑顔が可愛い小柄の女の子。白い帽子をよく被っている。
筆記試験はトップを誇り、頭の回転が早い。頭脳明晰で優秀の生徒だ。
カレン・ソルケット。
茶髪ロングで少し癖っ毛が特徴の女の子。
勝気でいつも堂々としており、咄嗟の判断力が優れた生徒だ。
「怖いって私、そんな怖くないし」
「怖いよ。鬼の形相だったもん」
「誰が鬼の形相だ!」
「カレンちゃん。乱暴はやめて」
俺の抱えている問題の一つ。
勇者アカデミア設立して以来、この二人は唯一、卒業試験を不合格になった経緯がある。
この二人以外は俺の教えで卒業していったが、何故かこの二人は卒業できず留年となってしまったのだ。これは初めての事態であり、俺を悩ませる原因でもあった。
「ナオユキせんせー。助けて下さい。カレンちゃんが虐めてくる」
「はぁ? 虐めてないし! これ授業だし!」
「分かった。分かった。エンリィ。少しはそのビビリ体質を何とかならないのか?」
「だって怖いんだもん」
エンリィは涙声になりながら訴える。
「怖いって私のことか。そうなの?」
「それもあるけど、怪我するかもしれないって考えたら怖くて」
エンリィはかなりのビビリ体質だ。
筆記では難なくこなすが、実技になれば一変して何も出来なくなる。
頭では分かっていても身体が言うことを聞かないので卒業試験としては合格には出来ない。それが卒業できない最大の理由だ。
「全く。エンリィが相手だと話にならない。暴れ足りないよ」
そしてそんなカレンにも卒業できない欠点がある。
筆記、実技と普段の授業内容は特に問題はない。
ただ、一番の問題は試験にある。
カレンは練習では問題が見られないのだが、試験になった途端に一変する。
練習通りに行えば何も問題はないはずだが、いつも試験になれば酷い成績を叩きつけてしまうのだ。
俺の中で原因を考えた結果、カレンは本番にかなり弱いタイプだったことが判明する。
普段の勝気な性格が嘘のように試験ではポンコツと化すのだ。
これでは合格を出すことはできない。
以上のことからこの二人は留年生であり、俺の最大の課題でもあった。
オマケで合格にしてやることも可能だが、それでは二人のためにならないし、今後が心配だ。卒業するなら実践で活躍できると見越してからではないと卒業を認められない。
「よし! 今日の実務教育はこの辺にしておこう。続きは明日だ」
俺は使った武器を二人に片付けさせる。
「ナオユキせんせー。私たち本当に勇者になれますか?」
エンリィは不安を漏らす。
本人たちも卒業試験に落ちたことに対して悔やんでいる様子である。
その悔しさを忘れなければ必ず次は合格できるだろう。
「安心しろ。俺が必ず卒業させてやる。だからしっかり俺の教えを守るんだぞ」
「「はい! ナオユキ先生! 私たち頑張ります!」」
返事だけは一丁前だ。とは言ってもどうやってこの二人を卒業させてやるか、明確な方法は分かっていなかった。
まずは色々試してみて最善の方法を見出す必要がある。
二人の性格は正反対だが、それがまたイイ味を出していると俺はペアを組ませている訳だが、この選択自体は間違っていないと思う。
まずエンリィはビビリなところがあるが、自信がないだけだと俺は推測する。
逆にカレンは自信に満ち溢れているのでエンリィにイイ影響を与えている。
そしてカレンは本番に弱いため、本番を想定した練習の積み重ねを与えることで本番に打ち勝てると予想していた。
だが、いきなり完璧にこなせるとは思っていない。
全ては日々の積み重ねだ。
「エンリィ。カレン。お前らに課題を与える」
「課題?」と二人は目を輝かせる。
俺は二人にどっさりと分厚い参考書を数冊手渡した。
「まずはこの参考書に目を通してくれ」
「げっ。ナオユキ先生の鬼!」
カレンは嫌がっているが、エンリィは嬉しそうな顔をする。
「私はこっちの方が好きですね」
「まぁ、好き嫌いはあると思うが大事なことだ。後日、お前ら二人には課外授業をする。それは前段階の知識としてしっかり身につけておけ」
「は、はーい」
カレンは嫌がるが、俺の言うことは素直に受け入れてくれる。
後はやるかやらないか、それだけだ。
まぁ、鞭ばかり打っても仕方がない。ここは少し飴をあげることにしよう。
「課外授業でイイ成果を出した者にはご褒美を与えるぞ」
「ご褒美!?」
エンリィとカレンは目を輝かせる。
「ふふふ。有名店のアップルパイを提供してやる」
「「アップルパイ? 本当ですか?」」
女の子は甘いものに目がない。この近辺では食べられないことから特別な日ではないと食べられないのだ。
「あぁ。本当だ。だからしっかり課題を取り組むんだぞ」
「「はい! 頑張ります。アップルパイのためなら!」」
「お前らな。それ抜きにしても頑張れよ」
「はーい! 肝に命じておきます」
「だから返事だけは……。まぁ、いいや。よし。じゃ、今日は解散だ」
「「ありがとうございました! ナオユキ先生!」」
エンリィとカレンに飴を与えることで授業へのモチベーションを上げる。
俺に掛かればこいつらは単純で扱いやすい。そういう意味では簡単なのだが、卒業させるとなれば話は別のようだ。
さて、職員室で資料の作成を始めるとしようか。生徒によって資料を変えている分、やることは山積みだ。今日も遅くなりそうだ。
ーー作者からの大切なお願いーー
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