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第二十四話 地獄、没落勇者の課題


四人の没落勇者たちが編入してから五日目。

今日も朝から廊下の掃除に勤しんでいた。


「くそ。何で俺たちがこんな雑用みたいなことをしているんだ」


「はぁ。目が痛い。大体、僕はハウスダストアレルギーなので掃除に向いていないんですが」


「筋トレにはいいが、強くなった気がしないな」


「私、汚れ仕事は嫌だ。ただでさえ倉庫で生活していたのに最悪!」


 既に四人からは文句の嵐だ。


「お前ら。それが終わったら次は各教室の掃除だ。口よりも手を動かせ。いつまで経っても終わらないぞ」


「おい。ナオユキ。ここ数日、素直に掃除をしてきたが、もう我慢の限界だ。俺たちは仮にもここの生徒になったんだ。それなのに何故、こんな雑用みたいなことを永遠とさせられているんだ。大体、指導するって約束なのに話が違うじゃないか。詐欺だ!」


 ダイガはついにキレたと言わんばかりに俺に突っかかる。

 そろそろ来るだろうと構えていたので驚きはしない。文句を言われるのは時間の問題だと思っていた。


「生徒だから掃除をしないなんてことはない。俺のアカデミアは生徒も率先して掃除をするんだ。おかしなことではないだろ」


「だとしても一日中ずっと掃除をさせられているのはおかしいだろ」


「それはお前らの心が汚れているからだ。まずは己の心を磨くと言う意味で掃除が一番効率的なんだよ」


「バカにするのもいい加減にしろ。掃除なんて誰がやっても同じだ。こんなことで強くなれるはずはない。今すぐ俺たちにスキルを教えろ」


 ダイガは先走るように怒りを俺にぶつける。

 相変わらず単細胞だと俺は溜息を吐く。


「誰がやっても同じだと? お前らは掃除もまともにできない無能だって言うことを理解したらどうだ?」


「何だと? 俺たちが無能?」


「あぁ、その通りだ。お前たちは無能だ。俺が無意味に永遠と掃除をやらせていると思ったら大間違いだ。一回で完璧に出来たら俺もそこまでさせない。だが、お前たちは掃除を雑用がやるものだと舐めて掛かっている。その証拠に見ろ! 拭き残しやゴミの回収漏れ。これだったらやらない方がまだマシとも言える掃除の仕方。お前らの掃除はただのやっつけ仕事だ。普通は心を込めて塵一つ残さない。俺がお前らに掃除を命じているのはこれらが完璧にこなせないから言っているんだ」


「ぐっ……」


 誰も反論はなかった。

 自分からやっていると言うよりやらされている感覚が大きいことでこのような雑な仕事になっていることを実感させた。


「ここまで言われないと気付かないお前たちにも落ち度はある。俺がお前らにキチンと指導するにはこれらが出来るまではするつもりはない。以上だ」


「くそ。またナオユキに言い包められるとは……」


「仕方がありませんよ。リーダー。僕たちが悪いんです」


「掃除一つも油断大敵だな」


「私、心が綺麗ありたいから頑張る」


 四人は掃除に対しての意識が変わった。

 誰も文句を言うことなくせっせと取り組んだ。

 一方、壁の向こう側で覗き込む影がチラリと四人に向けられる。

 エンリィとカレンだ。


「エンリィ。誰? あのおじさんたち? 生徒にしては老けているよね?」


「なんかナオユキ先生の元仲間って話だよ?」


「ナオユキ先生の? じゃ、凄い人なの?」


「見ている感じ、そうでも無さそう。どちらかと言えば弱そう?」


「確かに。偉そうにしている人、なんか自己主張が激しいって感じ」


「分かる。でも何で掃除なんかしているんだろ」


「ナオユキ先生がやらせているみたいだけど、なんか惨め」


「カレンちゃん。言い過ぎ! 聞こえちゃうよ」


「えぇ、でもエンリィもそう思うでしょ?」


「わ、私は人それぞれだと思うよ?」


「私はあぁはなりたくないな。歳を取るとそうなるのかな?」


「カレンちゃんは後輩とかには厳しそう。そして目上の先輩にはヘコヘコする感じ?」


「あ、エンリィ。私をそんな風に見ていたのか!」


「痛い、痛い。カレンちゃん。ぶたないでよ」


 二人の声は大きくなり丸聞こえだ。


「おい。お前たち。何をやっているんだ」


「げっ! ナオユキ先生」


「違うんですよ。ナオユキ先生。少し通り掛かっただけです」


「お前ら。課題は終わったのか?」


「いえ、まだです。それよりナオユキ先生。あのおじさんたち誰ですか。何でおじさんが生徒をしているんですか?」


 カレンの興味は止まらない。


「色々訳ありでな。しばらくの間、ここで厄介になる」


「年齢的にも訳ありそうだもんね」


「人のことはいいからお前らはお前らのやるべきことをやれ」


「はーい。エンリィ。行こ?」


「う、うん。それじゃ、ナオユキ先生。私たちはこれで」


「おう! そう言えばルリディアはどうした? いつも一緒じゃないのか?」


「あぁ、ルリディアは他の生徒たちとゴミ出しに行っていますよ。さっき見ました」


「ふーん。そうか。ありがとう」


 エンリィとカレンがその場を離れたタイミングで俺はダイガたちに声をかけられる。


「ナオユキ! 終わったぞ。見てくれ」


「そうか。どれ」


 俺はダイガたちが掃除を施した廊下を確認する。

 指でサッと撫でてホコリが付着するか確かめた。


「うん。八十点ってところだな」


「何だと!? 俺たちは真面目にやったぞ。何が足りないって言うんだ」


「真面目の意味が違う。お前ら、さては掃除をしたことがないな? ただ力任せにすればいいってものじゃない。力を抜くところは抜く。掃除っていうのはそういう気持ちが大事なんだ」


「何を言っているのかさっぱり分からん」


「まぁ、言葉で言うよりも実際に見せた方が早いか。えーと、お! お前たち。ちょっといいか?」


 俺は近くを歩いていた生徒四人に声をかけた。


「ナオユキ先生。どうかしましたか?」


「悪いが、ちょっと手を貸して欲しいんだが、頼めるか?」


「勿論です。何をすればいいですか?」


「実はこのおじさんたちが掃除のやり方を知らないらしいんだ。悪いが実際にやって見せてくれないか?」


「それくらいならお安い御用です。掃除を教えるって言うのもおかしな話ですけど、ナオユキ先生の頼みとあれば断れませんね」


 生徒は小馬鹿にするようにダイガを罵った。

 自分たちよりも数段年下に掃除の仕方を教えられると言う屈辱はこの上ないだろう。だが、こいつらはこのレベルなのだから仕方がない。


「くそ。覚えていろよ。ナオユキ」とダイガは吐き捨てるように言い放ったが、俺は気にも留めなかった。



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