第十三話 日常、勇者アカデミア紹介
亜人族のルリディアを新たな新入生として迎えた俺はカリキュラムや授業方法に頭を悩ませていた。
生徒一人一人に対して授業や課題の出し方が変わってくるが、その中でルリディアは一般の生徒と大きく違う。
まず、勇者を学ぶ前に人としての生活を習う必要がある。勇者の知識を教え込むのはその後だ。
「ナオユキ先生! 大変です」
教員室に慌てた様子でカレンは入ってきた。
「何事だ? カレン」
「とにかく今すぐ寮に来て下さい! ルリディアが大変なんです」
「何?」
業務を投げ出して俺はカレンに連れられて寮へ向かう。
「エンリィ。ナオユキ先生を連れてきたよ」
「どうした! ルリディア」
俺が目撃した光景は洗濯物の中に埋もれているルリディアの姿だった。
床は水浸しになっており、洗濯物は洗い直しレベルの状態だ。
何をしたらそこまで荒れているのか、ルリディアは呆然としている。
「ナオユキ先生……。ごめんなさい」
「何があった。ルリディア」
「その……皆の洗濯物を洗おうとしたらいつの間にかこんなことになってしまって」
「お前、洗濯物の洗い方とか干し方は知っているのか?」
「……いえ。皆に喜んでもらおうと勝手に」
まぁ、やり方を知らなければこうなるわな。
それにしても派手に余計な仕事を生み出したな。
「ナオユキ先生。ルリディアちゃんを責めないで下さい。私がちゃんと見張っていなかったのが悪いので」とエンリィは庇うように言う。
「ナオユキ先生。私を拷問して痛めつけて下さい」
「バカか。そんなことをして何の意味がある? ルリディア。お前は自分が拷問を受けたら相手が許してくれるって勘違いしているだろ」
「えっと、違うんですか? 私は拷問を受けたらオーナーたちは皆、許してくれますよ」
少し考え方がズレているが、この間違った感覚を少しずつ正してやらなければならない。
「俺は拷問で許すようなことはしない。何故、間違えたのか。何をすれば正しいのか。それが俺の教育方針だ」
「は、はい。ごめんなさい」
「謝ることは悪いとは言わないが、何故、そうなってしまったのか考えて理解することが大事だと思う。今回の例で言えばこっそり家事をして皆に喜んでもらおうとする心掛けは素晴らしい。だが、よく知らずに進めてしまうことは反省するべきだ。まずは誰かにやり方を教わることが足りなかったんじゃないのかな?」
「はい。そうですね。私の判断が間違っていました」
「よし。じゃ、次はその失敗を繰り返さないためにやり方をちゃんと学ぶんだ」
「はい! 頑張ります」
「だが、まずは今のこの状況を片付けることから始めようか」
「はい」
「あ、私たちも手伝います」
「わ、私も!」
エンリィとカレンは率先して手伝う。
ルリディアにしっかり理解してもらったところで俺も何かできないかとモップを手に取った。
「あの、私のミスなので一人でやります。エンリィ、カレン。それにナオユキ先生は業務に戻って下さい」
「これも俺の業務の一つだ。気にするな」
「私たちだって嫌、嫌でやっているわけじゃないよ」
「みんなでやればすぐ終わるし」
「ナオユキ先生……。エンリィ。カレン」
乱雑した状態を片付けた俺たち。
そして俺はルリディアにある教えを伝えた。
「ルリディア。家事の分担は当番制なんだ。だから新人だろうと先輩だろうと関係ない。皆のアカデミアだ。ルールを守って皆で学ぶ。それが俺の作り上げたアカデミアの方針だ。一人で抱え込まず、皆で協力、共有して取り組む。それをしっかり覚えてほしい」
「それは素晴らしい方針ですね」
「俺が何のためにルリディアにエンリィとカレンに世話役を付けたか、その意図をしっかり理解してくれ。まぁ、慣れない環境で戸惑うことはあると思うが、俺はいつでも相談に乗るから遠慮せずに話してくれ。お前は俺の大事な生徒なんだから」
「ナオユキ先生。私、ナオユキ先生の生徒で凄く嬉しいです」
「あぁ、俺もだ。さて、片付いたことだし、一通りの案内をしなくちゃな。ルリディアに教えることは山のようにあるんだから」
「はい。頑張って覚えます」
片付けを済ませた後、俺はエンリィとカレンに頼んだ。
「すまないが、二人でルリディアに校内の案内をしてくれないか?」
「はい。ナオユキ先生の頼みとあれば喜んで!」
「まぁ、ここは大先輩として可愛い後輩のために仕方がないですね」
カレンは大先輩と上手いこと言うが、ただの留年生である。
こんなところで先輩気取りしている暇があるなら早く卒業できるように努力をしてほしいものだ。
本当にこの二人が卒業できない理由が分からない。
それは置いといてこの三人はルームメイトでもあるので他の生徒より仲の良さは群を抜いている。これも親睦を更に深めるイイ機会だと俺は手を回していた。
ルリディアに人間味を取り戻すにはあの二人の関わりがイイ味になるだろう。
そして俺はどのような教育をするか、頭を捻らなければならない。
亜人族とは本来、希少価値の高い種族で万能な身体能力を秘めたことが特徴である。そして理性が足りていない亜人族は昨日のルリディアのように暴走することだってある。
それにはいくつか理由があり、物覚えが悪く同じ失敗をよく繰り返すことでも知られる。人間にとってそれは使い倒す対象として好都合なことから奴隷商人に捕まり、高値で売り買いされるほどだ。
不遇な種族であることは俺としてもよく知っている。だから一人でも生きていける強さをルリディアには身につけてほしいと願っている。
「ダラダラと座学で知識を吹き込ませるより、実戦で身体に染み込ませる方が効果的だな」と俺は結論を出してプランを考えた。
エンリィ、カレン、ルリディア。
この三人に言えることは知識よりも実戦不足が言える。
だったらまとめて実践を叩き込んでみるか。
慣れるより慣れろ。
「ナオユキ先生! 案内、終わりましたよ」
「おう。助かったよ。じゃ、ついでに悪いが、エンリィ。ルリディアに家事を教えてやってくれないか。一気に教えるのではなく少しずつだ」
「お安い御用です。行こう! ルリディア」
「う、うん」
生徒同士、交流が深いようで何よりだ。
さて、次の課題に進むか。
ルリディアという新たな問題児を請け負った俺は次なる段階へ手を打つ。
ーー作者からの大切なお願いーー
「面白い!」
「続きが気になる!」
「早く次を更新希望!」
少しでも思ってくれた読者の皆様。
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