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第十一話 空腹、満腹と甘味


 元奴隷少女のルリディアと名乗る亜人族を買い取った。

 この決断は俺が勇者アカデミアの設立と同等のものである。

 だが、後悔はしていない。

 元々はエンリィが助けて欲しいという願望に答えた形だったが、俺の成り行きが行動を加速させた。

 勿論、この後のことは全く考えていなかった。


「ナオユキ先生……。あの……」


 エンリィは奥歯を噛みしめるように呼びかけた。

 少し気まずさが場を沈める。

 だが、俺はそれを搔き消すように言い放つ。


「エンリィ。ありがとう」


「へ?」


「エンリィの思いやる気持ちがルリディアを解放させた。この出会いがルリディアを変えるきっかけに繋がったんだ」


「そんなこと言わないでください。私は自分勝手な行動をしました」


「いや、今回は俺だ。今までの俺はこんな行動はしなかっただろう。だが、気付かせてくれたエンリィのおかげで俺も変われたんだ」


「どういうことですか?」


「俺は本来、教える立場だ。だが、今回は生徒に教えられた。人を思いやる心ってやつを」


「は、はい」


「ふっ。随分、クサくて恥ずかしいセリフね」とカレンは場を乱す発言をしたことで真面目な雰囲気が一気に崩れた。


「もう! カレンちゃん。せっかくナオユキ先生がイイことを言ったのに台無しだよ!」


「わっ! ごめんって。痛い、痛いって」


 エンリィはポカポカとカレンに向けて軽く叩いた。

 まぁ、俺の柄ではなかったか。カレンの何気ないよこやり発言は悪くない。


 そんな時だ。


「…………うっ」


 ルリディアは突然、苦しみだすように片膝を付いた。


「ルリディア! どうした?」


 俺はすぐに駆け寄った。

 ルリディアは全く感情を表に出さない。

 それにより、体調が悪い場合は見た目では分からない。こうして本当に悪くなった時は既に遅い場合がある。


「……うっ」と声を漏らした瞬間である。


 ルリディアの腹の虫がとてつもない音色を上げたのだ。

 空腹を通り越した向こう側に入った音とも言える。


「とりあえず何か食べようか。ルリディア。お腹、空いたんじゃないのか?」


「いえ、空いていません。私への気遣いは不要ですのでお構いなく」


 見た目が空腹を通り越している。体調不良ではないことで安心した。


「俺からお前に言うことは一つ。正直になれ」


「正直に?」


 するとグウゥゥゥと腹の虫がルリディアから鳴り響くが、自分の腹を殴って無理やり音を誤魔化していた。

 それは相当無理している様子だ。一度鳴ってしまえば止まることを知らない。

 早いところ満腹にしてあげる必要がある。


 俺は適当な定食屋に入って席に着く。


「ナオユキ先生。私たちもご馳走になっていいんですか?」


「あぁ。ちゃんと課題を取り組んでくれたらな」


「うっ。ナオユキ先生も抜け目ないですね」


 カレンは不服そうな顔をする。

 俺は店員を呼ぶ。


「すみません。デラックスお子様ランチを三つと一番安い定食を一つ」


 店員が注文を受けて料理が運ばれる。

 ハンバーグやエビフライなど子供が喜びそうな品がてんこ盛りの料理である。

 それを前にエンリィとカレンは目を輝かせた。

 態度や振る舞いは大人ぶっているところはあるが、所詮、こいつらもまだまだお子ちゃまと言うわけだ。


「さぁ、遠慮せずに食べていいぞ」


「「いただきます!」」


 エンリィとカレンは勢いよく食べるが、ルリディアは手をつけようとしない。


「どうした? 食べていいんだぞ」


「でも、私……」


「ナオユキ先生がいいって言っているんだから食べなさいよ」


 カレンはドンとルリディアの背中を叩く。少し乱暴ではないかとヒヤヒヤする。

 するとルリディアはスプーンを手に取る。

 俺に目線を向けて確認を取り、頷いてやると一気に食べ物を口に掻き込んだ。

 お腹空いていないというのは嘘であることはお見通しだ。

 空腹で倒れそうで辛い思いをしていたことだろう。

 だが、ルリディアはイイ食べっぷりを見せる反面、俺たちは少し困り果てて見劣りしてしまう。


「……あ、ごめんなさい」


 ルリディアの食べ方は汚かった。

 食べ方が分かっていないのか、口元や服に食べカスを付けてテーブルはこぼし放題だ。正直、見るに堪えない食事と言える。


「まぁ、少しずつ直していけばいいさ。今は好きなように食べればいいさ」


「うぅ。ごめんなさい。ごめんなさい」


 何度も謝るルリディアを見かねたのか、エンリィが名乗り出た。


「私が食べさせてあげるよ。ルリディア。口を開けて」


 エンリィが世話役をしてくれるのであれば助かる。

 結局、デラックスお子様ランチ一食分では足りず、計三食分を平らげてしまった。見た目によらず大食いなのだろうか。

 食べた後も食べ過ぎてごめんなさいと平謝りしていたが、俺は笑顔で返した。

 出費がかさんだことに変わりないが、ポッカリと穴が空いた感覚ではなくむしろ欠けた部分が埋まったような暖かい感覚である。


「さて。食事が済んだら……」


「ナオユキせんせー! デザート頼んでいいですか?」


「あ、私もちょうど甘いものが欲しかったところです」


 エンリィとカレンは小動物のような目をする。


「お前ら。少しは遠慮というものをだな……」


「あ、すみません。デラックスパフェを三つお願いします」


 断りもなくカレンは既に注文を終えていた。


「ナオユキせんせー。もう頼んじゃいました。てへ」とカレンは舌を出す。


「可愛く言って許されると思うなよ。お前たちには課題を追加する」


「えー。そんな!」


「えーじゃない」


 注文をしてしまったなら食べないわけにはいかない。

 運ばれてきたデラックスパフェは三人の前に並べられた。


「どうした? ルリディアも食べていいんだぞ?」


「あ、分かった。食べ方が分からないんだね。私が食べさせてあげる」


 エンリィが手伝おうとスプーンで生クリームをすくった。


「あ、いや。私、甘いものは……」


「苦手だった?」


「そうじゃないのですが、生きてきて食べたことがなかったので口にしてもいいのか分からなくて……」


「ナオユキ先生。亜人族って甘い物を食べても平気ですか?」


「亜人族は雑食動物だから食べられるはずだぞ」


「本当ですか。ルリディアちゃん。食べてみな。美味しいから」


 エンリィは口元まで運んであげる。

 迷いながらもルリディアはパクリと食べた。


「どう? 美味しい?」


「……甘いってこんな感じなんですね。なんというか心に染みるような不思議な感じです。とっても美味しいです」


「いっぱい食べてね」


「はい! いただきます」


 ルリディアにとって初めて得た満腹と甘味は笑顔に変える素晴らしいものになった。


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「面白い!」

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