第十話 解放、奴隷少女
「…………。どうした? エンリィ。帰るぞ」
「ナオユキ先生。ごめんさない。迎えに来てくれて申し訳ないですが、私はあの子を置いて帰れません」
「あの子? 何を言っているんだ?」
「あの奥の扉にいる子です」
更に最下層に繋がる奥の扉にエンリィは目を向ける。
「おや? それはレアモノのことですかな?」
「レアモノ?」
「お客様。あなたも運がいい。どうですか? 一目見ていかれますか? きっと喉から手が出るほど欲しい商品だと思いますが?」
きっとエンリィはそのレアモノと呼ばれる奴隷が気になっている様子だ。
本来、不必要な目的に首を突っ込む義理はないのだが、エンリィの気持ちを無視することはできない。
このまま帰ってしまえばエンリィの心残りが続いていくことになる。
「見せてもらおうか。そのレアモノというやつを」
それを言った途端、奴隷商人がニヤリとする。
「どうぞ。こちらになります。呉々も御内密にお願いしますよ」
奥の部屋へ案内される。
そこには四方全てが鉄越しに入れられた少女が力なく膝を折って座っていた。
薄暗い部屋に明かりが点灯した瞬間、俺は「あっ……」と声を漏らしていた。
白髪のロングに頭に耳があるみすぼらしい女の子だ。
生気が全く感じられず、鉄越しの中で死ぬのを待っているような状態だ。
年齢はエンリィたちと同じくらいの子供。
だが、少し違和感を覚える。人間ではないと直感した。
「クックックッ。どうですか? お客さん。その子はうちで最もこ希少価値が高い亜人族の奴隷です。珍しいでしょ?」
「亜人族だと!?」
亜人族は絶滅危惧種に指定されているほど希少価値の高い種族だ。
年々その数は減少しており、見ることすら珍しくなっている。
ここまで数を減らしている理由は奴隷商人たちによる乱獲だと言われている。
「ナオユキ先生。この子を助けてあげられないかな? 凄く苦しそうだし、助けてあげたいの」
エンリィは訴えるように言う。
ここまでエンリィが必死になって発言するのは珍しいことである。
だが、一時の感情で行動するのは危険であることは知っている。
「エンリィの気持ちは分かる。俺だって同じ気持ちさ。でも、出来ることと出来ないことをしっかり把握することも大事だ。俺の言いたいこと、分かるよな?」
「分からないよ。どうして助けられないの?」
泣きながら訴えるエンリィに俺は言葉が詰まった。
例え、助けたとしてもその先のことだってある。
助けておしまいというわけにもいかないのだ。
それは十分、理解しているつもりだ。理解しているんだが。
「ふふふ。お悩みのようですな。安心してください。奴隷とは大切な商品なのです。売れるまでの間は傷を付けたり、餓死をさせるような健康に危害を及ぼすマネをすることはしません。そこは商人としてプライドを持っています。ただ、売れた後のことに関しては一切関与しませんけどね」
「ほう。ならどうしてこの子は不健康そうに見えるんだ? 食べ物だってロクに与えていないんじゃないのか? 奴隷商人さんよ」
「言ったでしょ? その奴隷は本日入荷したばかりの商品なのです。入荷前に何があったか存じませんよ」
この奴隷商人の言っていることに嘘は無さそうだ。
見た目が嘘くさいだけで中身は善意なのかもしれない。
とはいえ、売れた後のことを考えるとこの亜人族の女の子は何をされるか分からないのも事実。下手に見捨てるわけにはいかなかった。
「商品の説明をしますとこの亜人族、ほとんど喋りません。感情がないのでしょう。おそらく前のオーナーに酷い扱いをされたのは容易に判断できます。よって仕事をさせるとなれば難しく拷問をするとなれば感情がないので面白みに欠けるでしょう。まぁ、読み書きくらいは出来ますが、それ以上は期待できません。コレクションとするなんてどうでしょう? 今ならお買い得です。もし、お客様がお買い上げにならないのであれば闇市場でオーディションに賭けられる流れになっております」
「なるほど。いくらだ?」
「そうですね。まだ設定していませんが、金貨三十枚といったところが妥当かと」
金貨三十枚。それだけあれば数年は遊べる金額である。
スライムをいくら倒してもその金額に届くには程遠い。
亜人族というブランドがその金額の全てではないだろうか。
「もっと近くで見てもいいか?」
「どうぞ。好きなだけ」
鉄越しを開けてもらい、近くで亜人族の奴隷をみる。
俺、というより人間に対して酷い恐怖心がある。
その証拠に狭い鉄越しの奥まで後退するほどだ。
「大丈夫か?」
声をかけるも、反応はない。
それでも俺はどうでもいい話題で声をかけ続けた。
感情がないと言っているが、それは嘘だ。
こいつは自分を守るために感情を押し殺しているに違いない。
何人もの生徒を見てきた俺だから分かる。
こいつはどんな酷い目に遭ってきたか分からないが、生きる野望は少なからず消えていない。どこかで希望を待ち望んでいるんだ。
「さて。そろそろ決断してもらいましょうか。お客様。買いますか? 辞めておきますか?」
「決めた。買い取らせてくれ」
だったら賭けてみようじゃないか。こいつの人生の価値がどんなものなのか。
「ナオユキ先生。いいんですか?」
カレンは俺の決断に疑問を抱く。
「俺が出来ることはこれくらいだ。少し大きな出費だが、問題ない」
「ナオユキ先生。ありがとう」
エンリィは俺の腰に手を回す。
「別にお前のためじゃない。俺がそうしたかっただけだ」
「ナオユキ先生。嘘が下手です」とカレンはよこやりをする。
「お客様。ではお支払いの方をお願いします」
「ちっ。分かっているよ」
俺は奴隷商人に金貨三十枚を支払った。
「毎度あり。では今日からこの奴隷のオーナーはあなた様です。奴隷の刻印をしますか?」
「奴隷の刻印?」
「奴隷とオーナーの契約ですよ。刻印を押された奴隷はいかなる命令もオーナーの命令には逆らえなくなります。つまり死ぬまでその奴隷はオーナーから逃げることが出来なくなるという訳です」
「必要ないよ。俺に奴隷を縛り付ける趣味はない」
「いいんですか? 大金を叩いて手に入れた奴隷に逃げられたり、反抗されたら元も子もありません。ましてや亜人族は奴隷の刻印なしで縛り付けられるほど甘くない。隙があればあなたを殺そうともする。あなたほどの方であれば亜人族の恐ろしさを知っているでしょ? 保険をかけるという意味でも損ではないかと」
確かに何かあった時のことを考えれば契約するべきだろう。
人間に恐怖心を抱いている間は何をするか分からない。
生徒に危害を及ぼしてからでは遅い。ならここは契約を結ぶべきか。
「奴隷の刻印は一度、契約したら解除できないのか?」
「いえ。オーナーの意思であればいつでも解除はできます」
「分かった。なら契約してくれ」
「承知致しました。では奴隷印を刻印します」
奴隷商人は亜人族のつむじ部分に刻印を打ち込んだ。
一瞬、電流が走ったのか苦しい表情を見せる。だが、これで契約を結んだことになる。
「辛い思いをさせてすまなかった。さぁ、行こうか。名前はなんて言う?」
俺は亜人族の少女に手を差し出した。するとその少女はゆっくりと手を握り返す。
「………………ルリディア」
ーー作者からの大切なお願いーー
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