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56.春が来るまで 2


 久しぶりのリンク。

 スケート靴に足を通すと、靴が少し固くなってしまっているように感じた。

 三ヶ月前の感覚を思い出そうと、エッジケースをはめたまま何度かその場で足踏みした。それから氷に乗ってみる。エッジが氷に食い込む感覚が、靴の底から伝わってきた。

 平日の午前中。人はほとんどいない。リンクの中央では、先生が大人のレッスンをしていた。みんなはまだ学校にいる時間なのだ。卒業式を終え、早めに春休みに突入した僕みたいなのを除けば。


 しばらく味わえなかった風を楽しむ。足を動かす度に、自分自身がこのスピードを出しているんだということを、久しぶりに実感した。

 ただ、頭の中でイメージする進み具合に、体が今一つ追いついてこない。エッジにどう乗るのが一番しっかり氷を押せるのか、体が忘れてしまっているような気がした。

 ターンもいくつか試してみる。回る瞬間に変に体が浮く。自分で制御しきれていないのだ。

 早く元の感覚を取り戻さなくてはと夢中になっていると、レッスンの合間に先生が「ひざ、ひざ!」などとアドバイスをくれた。


「高校合格おめでとう。また一緒に滑れることになって、本当によかったわ」

 陽向さんは僕から進路の報告を聞くと、安心したように笑った。黒いニットを着た胸の前で、祈るように両手を組み合わせて。


「ところで、今朝の世界ジュニア見た?」

 僕の復帰が叶った日は、流斗たちの出場する世界ジュニアが開かれた日だった。

 平常心がどこかへ行きそうになるのを抑えながら、「見ました」と答えた。


 流斗たちはこの三ヶ月で演技の完成度をますます高めたのはもちろん、エレメンツのレベルも上げ、今朝のリズムダンスでは全日本ジュニアを上回る49・23という点数を出した。

 しかし世界各国から集まった三十組の出場カップルの中で、その順位は二十三位というものだった。上位三分の二から外れた彼らは、翌日のフリーに進出できないことが決まった。


 ネット配信の画面を見ながら、予選落ちだなんて流斗も大したことないなと心の中で小馬鹿にしたのも(つか)の間、すぐにそんなことを言っている場合ではないことに気がついた。

 流斗がフリーに出られなかったということは、僕だって今のままでは到底世界に及ばないということ――。

 高い高い壁がそびえているのが見えるようだった。

 リズムダンスで一位となったカップルの得点は70・13。

 これが世界なのか。


 あまりにショックで、僕は練習に来る直前までボーっと時間を過ごした。未だに世界ジュニアのことを考えると、気が遠くなる。


「制覇君? どうかした?」

「いえ、大丈夫です。練習しましょう」


 僕は前を向いて滑り出した。

 とにかく、受験で休んだブランクを早く取り戻そう。

 それからもっともっと気合いを入れていかないと。


 世界の厳しい舞台を生で経験してきたあいつも、これからますます強くなっていくはずだから。



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