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悪役令嬢に百合営業をしかけたら本気にされてペットにされました  作者: らびえ
番外編

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幾度目の決意

 私たちが暮らすこの世界は、ある一本のゲームが元となっている。


 場所、時代、キャラクター。

 その多くが忠実に再現……いや、再創造されているという世界だ。



 細かな違いは多くあった。

 多くあって、ありすぎて、そんな自覚すら時に薄れてしまうほどに。


 ゲームを元にした世界。

 けれど百パーセント同じではない。

 最たるものが私の存在……いわゆる夢女子というかなんというか、とにかく元々は存在せず、この世界に新しく生まれてきたこの私。

 『マリー』という人物のアイデンティティそのものだった。



 他にも違いは多くあるだろう。

 ルーシーちゃん……あの吸血鬼の少女なんかいい例だ。

 いくつもの違いが大きな変化を生み、この世界は確かにゲームとは異なっている。

 私やクリスが掴み取ったこの未来は、間違いなく新しい世界。


 ゲーム本編には存在しない、完全なる二次創作の世界。

 本編の流れのどれも汲まない、全く新しいルートだ。



 ……いや、正確には。


「…………そう、思い込んでいた」


 思い込みたかった。

 信じたくなどなかった。


 この世界が、あのゲームの世界と同じ世界であるなどと。

 私が敬愛し、時に畏怖し、あるいは悲嘆に暮れた……あの世界での『彼女』の終わりが、そっくりそのまま引き継がれているなんて。


「──始まりは、あの大火事の時のことだよ。レイラ……ああえっと、クリスちゃんを殺しかけたあの子の名前ね。あの火事を起こしたのは彼女だ……ボクは、それを止めることができなかった」

「…………」


 不思議で嫌なあの力。

 今となっては『魔法』であったとわかる、浮遊する火球。

 煌々と光るそれが弾けるところが、今も網膜に焼き付いている。


「あの子はあの後自殺した。ボクとソフィアで丁重に弔ったよ。誰にも見つからない、けれどとっても綺麗な場所でね。……それも、よくなかったのかな」

「……後悔、しないであげて。友達だったんでしょ」

「……そうだね。そうかもね。でも……それは結果的に、今のキミたちの首を絞めた」

「……っ」


 彼女が、火事を起こした。

 あの魔法で。


 そして、その死体はルーシーちゃんたちが処理してしまった。

 つまりは、決して証拠が(・・・・・・)残らなかった(・・・・・・)


「そして、例の変貌事件。あれは結局、正体不明の病気として終結した……世界的には、ね」

「……あれは……色んな人が、色んな想いで、色んなことをやって……未来を掴みたくてそうして。その過程で起きた、どうしようもない副作用だよ」


 どうしようもない運命とやらを、世界ごと巻き込んで変えようとした。

 結果的に、変えることができたんだろう。

 ……今となっては、それすらも。


「そうだね。どうしようもないことだ。……誰にも、確たる悪意はなかった」

「…………」

「ボクは頑張ってそれを伝えようとしたよ。全てを明かせないまでも、誰一人悪くなんかなかったんだって。……無駄だったけどね」

「わかってる……わかってるよ」


 そう。

 それだって、証拠はなかった。

 誰がやったという、証拠も。


「……転生者。他の世界で死を迎え、そしてこの世界に生まれ直した子の中には……どうしようもないくらい、この世界を恨んじゃう子もいてね。中でも過激な一部の子は、色んな事件を起こしちゃうことがあるんだ。表沙汰にはそうそうならないけれど、機序不明の殺人事件なんて珍しいことじゃない」

「…………」

「そうした積み重ねが。何の根拠もなく、故に根強いその『意見』が。真綿で首を絞めるように、キミたちを追い詰めていった」


 不思議と言えるほどのことでもなかった。


 これまでに起きたいくつもの事件を、誰一人目撃していないはずがない。

 決定的かつ朧げな場面……原理不明の『魔法のようなもの』、どんな傷も立ち所に癒す薬。

 そんなものを使っていたり、使われたりしていたところを誰かに見られていたのなら。



 そこには一つの事実と、一つの尾ひれのつく話が残るのだ。


 『マリーとクリスという二人組が、理解不能の現象の渦中にいた』という事実。

 『時に自ら、騒動を引き起こした』という……一部本当で、一部は嘘になる話。



 世の中は賢く、そして愚かだ。

 そんな噂が一度でも流れればどうだろう?

 ……私たちの預かり知らぬところで、どんどん話は大きくなっていくのだ。


「クリスちゃんは結構名のある家庭の子だ。その彼女と婚約しているキミもまた、ある程度は注目に晒される立場にある。……これも、運が悪かったのかな」

「どう……だろうね」

「え……?」


 たとえば、事件と呼べるものが何一つ起きなかったなら。

 本当にただ平穏に日々を暮らしていたのなら。


 それならば、今私たちに起きているようなことが起きなかったかというと……疑問は残ると言っていい。



 だって、そんなの関係なく。

 全く、同じ状況なんだ。


「この世界さ。元々はゲームの世界だったって話、したよね」

「う……うん。そうだね。でも、だからってそれが……」

「違うよ。前提がそれなら、こうなってるのは……必然なんだよ」

「……どういう意味……?」


 そう。そうだった。

 あのゲームで、あの世界においてクリスは。



 『クリス』は、『悪役令嬢』だった。


「クリスはね、そういう役回りだったんだ。物語で起きる騒動、色々な事件の数々、そういうことの元凶で……成敗されるべき悪」

「そんな……っ! で、でもそんなの……ぁ」

「気づいた? そう。おんなじなんだよ、今と全く」


 無論、この世界における事実は違う。

 クリスはそんな子じゃない。

 悪役だの全ての元凶だの、そんな言葉とは程遠い……ただの、可愛い女の子。



 けれど。

 そんな認識、意味がないのだ。


「……悪役。悪に……される役」

「勧善懲悪は基本だから。そういう流れにした方が物語のまとまりがいい……そのために、悪を背負って立つ子。私はそう認識してた」

「……っ。でも、それじゃあ……っ!」


 そう。


 この世界でも、同じことだったのだ。


「押し付けられた。ルーシーちゃんも言ってたじゃない……私たちは、『悪役』にされたんだよ」

「……っ」


 この世界で起きた不条理な出来事。

 一つ、二つと本当に小さい、当事者からすればくだらないと言えるほどの『証拠』が。



 揃っていってしまっていた。

 どんどんどんどんでっちあげられていった。

 私たちの知らないところで、『私たちの罪』は増えていっていた──。


「──追放、か。追放……は……はは」

「……マリー、ちゃん」

「……なん、だよ。なんなんだよ。結局それかよ……! 私たちは……わたしは……っクリスは! クリスは、そんな子じゃないっつってんだろうがっ!!」


 耐えきれず、そばにあった木の幹を殴る。

 ぱきっ、と樹皮が折れる弱々しい音だけがした……麻痺しているのか痛みも感じない。



 最後の最後、詰めの段階。

 数日中にも私たちの元へ、前の世界でいう警察組織がやってきて……身柄を拘束され、刑を執行されるという段取りだったらしい。


 何も、知らなかったけれど。


「……もしその嫌疑が本当だったなら、殺人とか暴行とかそんな次元じゃない……国家級の犯罪者だ。キミたちに、いや周囲の人間にも可能な限り知られたくなかったんだと思う。ぎりぎりまでひた隠しにされて……確実に、キミたちを」

「なんでっ……くそっ……くそがっ!!」


 『悪役』の知らないところで、裁きの準備は進められていた。

 万が一にも逃げられないよう、ほとんど兆候すら見せず。



 気づいた人、知っていた人もまた。

 それぞれの理由で、私たちにそれを伝えなかった。


「……ボクの家から、ある日記が盗まれたんだ……とある呪いと、それに酷似した症状を示す毒について詳細に書かれてたはず」

「……それって、まさか」

「多分だけれど、最後の仕上げだ。大方、キミたちを捕まえるための口実にでも利用するつもりなんだと思う」

「…………」


 言外の意図を察する。

 もう、そこまで終わっているということ。


 強引にでも捕縛の目的を作る……そこまで、進んでしまっていると。


「それに……言ってなかったね。イリーナちゃんが、何者かに誘拐されたんだ……」

「……な」


 あの場にいなかったのは、そういうわけか。

 誘拐。そして持ち出された毒と呪い。

 ……嫌な想像ばかり、いくらでもできてしまう。


「ごめん、マリーちゃん。もう……ボクとソフィアは動けない。ボクらが変に動けば、一度でもボクらと関わった子が全員危険に晒されかねない……」

「……っ」


 彼女らふたりは、吸血鬼。

 紛れもない超常の代名詞。


 私とクリスが悪役に仕立て上げられたのは、その『罪』のほとんどが超常に起因するからだ。

 証拠がない故に、わずかな符合が証拠とみなされた。

 通るはずのない筋を無理やり通そうとしたせいで、渦中の私たちが巻き込まれた。


 まして今の状況で、彼女らが動けば……。


「ごめん……ごめんなさい……! わたしだって、あなたたちふたりを守りたいよ! でも……もう、下手に魔法も吸血鬼の力も使えない……」


 これ以上リスクは増やせない。

 そういうことだった。



 ……頭が、痛い。

 喉が渇いてしょうがない。


 クリスはいい子だ。

 守りたいと思い、守ってくれると誓った。

 ……もう今更、考えるまでもないことだ。


「……ルーシーちゃん。アンさんとイリーナちゃんのこと、よろしくね」

「え……」

「私はクリスを守るよ。クリスは私を守ってくれる」


 胸が張り裂けそうだ。

 この世界でまで、愛するあの子にこんな重荷を背負わせたくなかった。



 悪なんて。

 悪役だなんて。

 そんな汚名、着させたくなかったけれど。


「マリーちゃん……っ」

「ふたりでいるって決めたから。それがどんなに重くたって、一緒に持つって決めた。だから……大丈夫」


 逃げよう。

 それでまだ生きていられるのなら。



 それに、今更世界がなんだ。

 神だってぶん殴った身で、恐れるものなどあるはずがない。


「……っ。うん。アンちゃんは必ず守る……イリーナちゃんも取り戻すよ。こっちは、ボクに任せて」

「うん。任せる」


 何度目の決意だろう、これは。

 いや、何度だって決める。揺らがない。



 今度も必ず、クリスと一緒に生き延びる。

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