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悪役令嬢に百合営業をしかけたら本気にされてペットにされました  作者: らびえ
番外編

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二度目の

「…………」

「ん……? クリス、どうかした?」

「…………」

「……?」


 ある日の夕暮れ、部屋でくつろいでいた時のこと。

 クリスが突然、無言で私の前に回ってきて……私の顔をじいっと見つめている。


 ……いや、顔というより……。


「……ふむ」

「え、な、なに……んむっ!?」

「じっとしていてください、マリー。……ほー、へえ、なるほどなるほど……?」

「ぁぅ……えぅ……」


 視線の先にあったのは、私の口の中だった。

 それ気づいて間も無く、クリスの指が私の犬歯……牙を、撫でるように触ってくる。


 ほのかにしょっぱいような、でもなんだか甘いような不思議な味……じゃなくて。


「……引っ張ったら抜けるのかな……」

「!? ひゃめへ!?」

「いえ、冗談です。冗談ですよ? しかし……これに噛まれるとどんな感覚なのでしょうか……」

「ひゃ、ひゃあ……?」


 冗談というが、目が本気である。

 やめてくれ。

 いやまあ、吸血鬼にとっては生命線みたいなものだろうし多分生え変わると思うけど……。


「すみません、少し気になったもので。ところでマリー、あなたには、吸血願望みたいなものはあるんです? 食事は普通に摂っているようですが……」

「んむ……。いや、特にないかな? ルーシーちゃんが言うには、永く生きるなら将来的にいくらか飲む必要がある……かも? ぐらいの感覚らしくて」

「ふうん……?」


 私自身が元々人間であったこともあり、普通に生きる分にはそういった制限は特にない……らしい。

 確かに、寝起きと日光がやや辛くなった以外はほとんど以前と変わらない生活をキープできている。

 今の所の変化といえば、ある程度の傷はすぐに治ってしまうことと、犬歯が少し伸びたことくらいだ。



 彼女曰く、吸血が必要になるのは、もっと本格的に吸血鬼としての生が始まったあたり。

 『人間が普通に生きる』の領域を逸脱し、寿命などの点で明確に人間と離れ始めた頃……大体六十年から百年が経った辺りで、吸血が必要になるかもしれないということだった。



 もっともそれは、その頃まで一切『吸血鬼らしく』生きなければの話で。

 たとえば体が半分消し飛んだりしたら、吸血が必要になるかもしれないね……? とか冗談めかせて言われたけれど。


「まあそれでも、飲む頻度はそう多くないらしいけどね。あくまで万能栄養食みたいな感覚で……ちょちょ、舐めるな舐めるな!」

「ん? わたしの指についた液体をわたしが舐めることに、何か問題でも?」

「い、いや……」


 そう言われるとなんだか問題はなさそうにも思えるが、唾液である。

 舐めるなとは言わないが、正直恥じらいくらいは持って欲しい……。


「ふむ、つまり口から直接飲んでほしいと? とんだ変態ですね」

「言ってないからね!?」

「飲んでほしくない、ですか?」

「……………………」


 ひ、卑怯な言い方を。

 いや……うん……。


「ともあれそうですか……今は吸血は必要ない、と」

「あ、ああ……うん、まあそうだね」


 私をいじるだけいじって満足したような顔でそうまとめるクリス。

 ……ちょっとがっかりしたのは秘密である。


「残念ですね。私の体液であれば、好きなだけ飲んでくれて構わないのに」

「体液言うな」

「でも、ルーシーさんとソフィアさんはお互いのを飲みあっていると言っていましたし……」

「あのふたりどっちも吸血鬼だからね? 片方人間とは訳が違うんだからね??」


 医学知識のない私には、仮に飲んでいいと言われたとしてもどれだけなら飲んでいいのかわからない。

 人間であるクリスの体に影響のない範囲、というのがどれくらいなのかわからないのだ。

 もしそれでうっかり彼女が体を壊しでもしたら目も当てられないし……。


「ふむ……まあそうですね。わたしは別に、あなたに搾り取られるなら大歓迎なのですが」

「搾り取られるって……」

「探究の余地あり、といったところでしょうか? とにかく飲みたくなったらいつでも言ってくださいね……首を長くしてお待ちしています」

「何その飲みやすくなりそうな配慮」


 ……まあ、ゆっくり探していけばいいだろう。

 幸い、時間だけはうんざりするほどあるのだから。


「──あ、マリー。近いうちに何日かお休みがありましたよね?」

「んと……成績処理だっけ? 今年は特例でちょっと長くなる、とか言ってたような。それがどうしたの?」


 少々大変なことがありすぎた年だった。

 初っ端の学園長毒殺未遂事件から始まり、原因不明の大火、原因不明の疫病。

 最初はどうでもいいけれど後半の二つがきっかけでやめてしまったり、命を落としてしまった人もいたようで……諸々の事情を加味して、という体で近くまた少し長めの連休に入るらしい。



 単位や卒業などのあれこれは個人によって応相談。

 幸いというべきか私たちは特に卒業を急ぐ理由もないので、まあゆっくり勉強でもしようと思っていたのだが。


「ほら、わたしの実家からは以前急に帰ってきてしまいましたし……あなたの両親にも、せっかくの機会ですしわたしのことを紹介してください。婚約者なんですからね」


 ……両親。

 ……両親……?


「…………あ」

「え?」


 ……いや。

 いやいやいやいやいや。

 忘れていたとかそんなわけでは断じてない。


 例の騒動、火事の折にも私からしっかり安否確認の手紙を出したし、それ以前にもちらほらと。

 オリバーのことも向こうは知っているはずで……つまり、ええと……あれ……?


「……クリスは……いい子だね……」

「ふえっ? な、なんですか急に、もっと褒めてくださいよ」

「はは……」


 帰ったことは一度もない。

 ここ最近に至っては手紙を書くことすらも忘れていた。


 ……親不孝なのは前世も今世も変わらずか……。


「な……なるほど。ええと……そうですね、わたしの実家に顔を出して……それから、あなたさえよければそちらの実家にも帰りましょうか。……何にせよ、手紙くらいは出してあげてくださいね」

「はい……」


 ……こうして、またもやや唐突な里帰りが決まったのだった。

 何かお土産でも持って行こう……。

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