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悪役令嬢に百合営業をしかけたら本気にされてペットにされました  作者: らびえ
番外編

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あなたと共にいる

「マリー。マリー、起きて。朝ですよ、マリー」

「…………」

「起きて……起きなさい。マリー? もう……」


 ……体が、重い。

 朝の訪れを本能で感じる。

 瞼を突き抜ける光が、痛いほどに眩しい……。


「……むにゃ」

「……はぁ。おーきーなーさーい、マリーっ!」

「うぇぇ……うぅ……あと……ごふん」

「その言葉はもう十回は聞きました! 今日だけで十回です! いい加減観念しなさい、マリー!!」


 別にいいじゃないか。

 五分も五十分も大差はあるまい。


 吸血鬼の体になってからというもの、朝が辛くて辛くてたまらないのだ。

 日光を浴びても死にはしないが、日の出る時間は死ぬほどだるい。

 夜行性の生き物なのである。

 ……まあ、元からいくらか昼夜逆転気味ではあったけれども……。


「いいじゃん、くりす……いっしょにねようよ……」

「その誘いはとっても魅力的ですが、わたしにはあなたを健康体にする使命があります! いいから起きなさい、マリー!」

「クリスがきびしい……」


 そう簡単に目が覚めるなら誰も苦労はしない。

 まだ意識の半分は夢の中にいる。

 重い体を引きずり出そうにも、こうも力が出なくては……。


「……そうですね。では、五つ数える間にベッドから出られたら……」

「……出られたら?」

「なでなでしてあげましょう。いーち」

「おはようございます!!!」


 布団を弾き飛ばし、ベッドから飛び降りた。

 体が重い? とんでもない。

 むしろ元気いっぱい、体中に力が有り余っていますとも。


「よしよし、いい子いい子」

「えへへ……」


 そんな私の様子にも全く動じることなく、私の頭を撫でて見せるクリス。

 手慣れたものである。

 もう毎朝のようにこんなことをしているから当然かもしれない。


「……さて。そろそろ出ましょう、マリー」

「あ……うん」

「そんな寂しそうな顔しなくても、ちゃんと一緒ですよ」

「……うん」


 手を繋いで、一緒に部屋を出る。

 今となってはなんてことない日常のひとかけら。



 ……まだ、ほんの少しだけ痛みは残っていた。






 ***






「行くよ、オリバー」

「ワウッ!」


 オリバーの首輪にリードを繋ぎ、しっかりと手に巻きつける。

 相変わらずのもふもふだ。

 何歳になっても衰えない……本当に何歳なんだっけこいつ。


「い、行きましょうか。だ、だだ、大丈夫ですよマリー、あなたはわたしが守りますからね」

「あはは……むしろ、今はクリスの方がずっと……」

「い、いいえ! ぜ全然そんなことはありましぇんっ!」

「そう……?」


 口は勇ましいが噛んでいるし、膝は笑いまくっている。

 クリスにとって犬への恐怖は本能に根ざしているらしい。


 オリバーが賢いやつでよかった。

 決して無駄に吠えたりせず、静かにクリスを見守っている……というか慈しみの目を向けている。


 ……犬にも哀れみはあるのか……。


「だ、だいたいですね! あなたがいつも、いっつも、どこかへ散歩に行く度に厄介ごとを引き込んでくるんですから! だから、いつでもわたしがついていないといけないんですっ!」

「…………」


 一理あるといえば一理ある。

 オリバーとの散歩はクリスと離れる数少ない機会だったこともあり、不満もあったのだろう。



 もっともそれはそれとして、恐怖は拭えないようだが……。


「ワウ。ワフ?」

「あ、うん。クリス、オリバーがそろそろ行こうって」

「はひ……はい……」


 まあ、彼女のことだ。

 一度ついてくると言った以上は何と言ってもついてくるだろう。

 いつもの散歩に、ほんのちょっと片腕が重いくらいなんてことはない……。


「……ねえ、クリス?」

「なんですか、マリー」

「くっつくのはいいんだけどさ……足にまで絡みつくのはやめよう……?」


 訂正。

 まともに歩けやしない。


 オリバーごめんよ……そんな目で見るな……。


「──マリーちゃん、それにクリスちゃんも。おはよう、今日は早いね」

「おはよ、ルーシーちゃん」

「……おはようございます」


 ほどなくして、ルーシーちゃんが文字通り飛んできた。

 もはや見慣れた光景だ。

 朝ということもあり、眠そうに目をこすっている……。


「しかし何というか……初めて見る組み合わせだね。クリスちゃん、キミは犬が苦手なんじゃなかったっけ?」

「……マリーを守るためです、背に腹はかえられません。あんなことが何度もあって、うかうかと手段を選んでいられるほど呑気じゃありませんから」


 ……クリスの拘束が、少しきつくなった。

 敵意というほどではないにしろ、かなり冷ややかな目をルーシーちゃんに向けている。


 そういえば、前も彼女のことは苦手だと言っていた。

 色々あったし、少しぎくしゃくしてしまうのは仕方ないのだろうか……?


「そう。まあ、ボクにはキミのことを止める権利などないけれど……その上で、一つ忠告しておく。ボクが教えたあの力を、キミはあまり使うべきじゃない」

「……なぜですか」

「キミはいささか不器用だ。それに思い切りが良すぎて加減を知らない。ボクがキミに少しだけ教えた、一般に『魔法』などと呼ばれる力は、少なからず使用者本人の体に負担を強いる……キミはそれを実感しているはずだよ。……命を縮める行動だってこと、よく理解しておいて」

「…………」


 あの時の、あの力。

 ぼろ家の扉とジャンさんをまとめて吹き飛ばすほどの、常軌を逸した力。


 思い返してみればあの少し前から、クリスが一人でどこかへ出かけることが増えていた。

 そのタイミングでルーシーちゃんから『魔法』とやらを少し教わり……それを、私を守るために活用したのだろう。



 しかし確かにあの直後、クリスには消耗が見てとれた。

 ……放置はできないな。


「クリス。私からもお願い」

「マリー……」

「守るって言ってくれることは、すごく嬉しいよ。でも……そのせいでクリスが傷つくなんてのは、嫌だ」

「……そう、ですね……」


 そう言うと、クリスは俯いて黙り込んでしまった。

 こちらも何を言っていいのか分からなくなる。


 さんにんと一匹の足音だけが、妙に大きく聞こえる……。


「──マリーちゃん、クリスちゃん。ひとつ、聞いてもいいかな」

「な……なに?」

「なんです……?」


 ふいにルーシーちゃんがそんなことを言った。

 歩みは止めずどこか淡々と、感情を押し殺したような声で。


「色々あって、犠牲も出た。キミたちだってそう……クリスちゃんの魔法、マリーちゃんの体、どっちも完璧に元通りに戻すことは難しい。記憶なんかも含めてね」

「…………。それくらい、覚悟はできてたよ」

「わたしだって。マリーを守れたんです、後悔なんてしていません」


 クリスは魔法を。

 私は、体を吸血鬼に。



 どちらも、ただの人の領域を一歩くらいは踏み出した。

 踏み出してしまった。

 その先に潜む伏魔殿と、これから先の人生で一切関わらないのは……きっと難しいだろう。


 多分これからも、なんだかんだでごたごたに巻き込まれる。

 もしかすると、以前よりもずっと理不尽に……。


「だからこそ、だよ。ボクが言えた義理じゃないけれど、こんな世界に一歩でも踏み込んでほしくなかった。キミたちはいつでも寄り添い続けるって、永遠にでもふたりで苦しみかねないって……そう、思っちゃうから……!」

「「…………」」


 クリスと、目を見合わせる。

 ……きっと、思うことは同じだろう。


「……ボクは、キミたちをこちら側に引き込んだひとりだ。けれど……だから、キミたちに誓ってほしいの! 永遠の不幸に囚われたままじゃ、絶対に終わらないって……!」


 永遠の不幸。

 彼女が誰を想いながらそんな言葉を口にしたのか……それは、私の知るところではない。



 私が、私たちが言えることは一つだけだ。


「当たり前でしょ」

「当たり前ですよ。そんなのありえない」


 ほとんど同時にそう言葉にした。

 そしてもう一度目が合い、お互いにふっと笑う。



 苦しいことも、辛いこともあるだろう。

 失敗することもあるし、きっと……後悔することだってある。


 けれど、不幸なんてありえない。

 彼女と共にいることを、不幸と呼ぶなんてありえない。



 そう、だって。


「だって、クリスと一緒なんだよ?」

「だって、マリーと一緒なんですから」


 いつまでも想い通わせて。

 愛し合えるって、誓えるから。

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