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悪役令嬢に百合営業をしかけたら本気にされてペットにされました  作者: らびえ
番外編

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さいあくの

「もう一度言う。答えろ」

「…………」

「答えろ、っつってんだろうがよ……!」


 憤った声とともに、薬指の先に力が込められる。

 薄く脆くても働き者なたんぱく質の塊は、めりっと音を立てて剥がされた。


 ……これで、何枚目だったかな。

 十を超えていないのは確実だけれど。


「さてね。ボクに答えられるのは、最後に食べた夕飯くらいだよ」

「きっ……もちわりぃ……。てめえ、痛みとかねえのかよ……?」

「……どうだろうね」


 事実、痛覚は一時的に切ってある。

 ついでに体の再生も止めてあった。


 ボクが人間でないこと自体は、初めからバレていた。

 けれど幸い、ボクがどの程度(・・・・)人間でないのか(・・・・・・・)までは知られていない。



 痛みはなくせる、傷は治せる、窒息や圧迫にも耐えられる。

 そこまでが知られていないおかげで、拷問は未だ手心を加えられているのだ。


 うっかり殺したら、相手にとっては意味ないし。


「クソ……クソ、クソクソクソクソクソッ! なんで、俺が、こんなことっ!」

「っく、けふ……嫌ならやめてくれてもいいんだよ? その方がお互い幸せだろうに」

「黙れ! てめえみてえなガキ、その気になりゃいくらでもぶっ殺せんだよ!」


 ……無理だと思うけどね。

 でも、それを知られるとまずい。


 加減のなくなった拷問は、痛みがなくともかなり不快だ。

 あまり受けたいものではない。


「下品な言葉遣いをするものじゃないよ。キミのお兄さんは何をしてるんだい? かわいい妹がこんなことしてるって知られたら、どんな顔をするんだろうね」

「…………おい。喋んな」

「ん? 喋らせるための拷問じゃないのかな? それはそうと素晴らしい兄妹愛だよねえ、憧れちゃうよ」

「……俺を……あのクソ腑抜けと、一緒にするな……!」


 みぞおちに、深く爪先が入った。

 そのままぎりぎりと踏み躙られる。


 筋力はあまり強くないが、彼女の憎悪は大したものだ。

 誰に向けているんだかいまいち判然としないけれど。

 本人もわかっていないかもしれない。


「一緒にはしてないよ。ただほら、キミのお兄さんは既に手を引いたじゃない? それなのになぜキミは……っふ、えふっ、ちょ、最後まで喋らせてよ」

「うるさいっ! うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいっ!!」

「声量的にどう考えても……うぐっ」


 拷問が、暴行へと変わり出した。

 腹に、胸に、顔に、手足に、容赦なく打撃が加えられ続ける。


 困ったものだ。

 聞きたいことは山ほどあるのに、聞くタイミングが見当たらない。


「……クソが。喋らねえつもりなら、あの女殺すかんな」

「……誰のことかな」

「とぼけんじゃねえよ。あの女のために捕まってやったんだろ? おら、吐けよ……!」


 ……ついに来たか。

 やるならどうぞ、とは流石に言えない。


 ボクは何度殺されたって問題ない。

 ただ彼女……アンちゃんは……。


「そう言われても、誰のことなんだか分からないなあ。キミに殴られすぎて記憶飛んじゃったかも。ここに連れてきてくれたら、思い出せるかもしれないんだけどなあ?」

「要求できる立場かよ……! なら、思い出すまで殴ってやるっ!」

「……っ」


 暴力、暴力、また暴力。

 骨が軋むほど殴られる。

 憎悪は目を曇らせる、それがはっきりとわかった。



 ……すぐ背後、接近してくる人影に、彼女は気づいていないのだから。


「──ねえ。きみ、何様のつもりかな」

「な……ぎぃっ!?」

「それ、私のだよ。返して」


 暴行が……止んだ。

 振り上げられた拳が、めきめきと音を立てて砕ける。


 ……ちぎったり燃やし尽くしたりしないだけ、これでも丸くなったものだ。


「……ソフィア。また、来ちゃったの?」

「よっ……と。当たり前でしょ、ルーシーを助けるためだもん」


 共に、永い時を過ごした少女。

 家族みたいな友達で、もしかしたら恋人なのかもしれない……ボクの相棒。



 あっさりと気絶させた少女を雑に床に放り投げ、ソフィアはボクに歩み寄る。

 ……肩にはもう一人、別の少女を担いでいた。


「アンちゃんも回収済み、か。抜かりはないね、流石だよ」

「まあね。大した相手じゃなかったよ」


 ……?


「……ソフィア。あのさ」

「みんな無事だよ、安心して。ルーシーが目をかけてた子たちも、怪我一つない。これにて大団円、一連の事件はぜーんぶ終わり。長かったね、お疲れ様」

「…………」


 ……気のせい、だろうか。

 どこか芝居がかった口調に、妙なよそよそしさを感じる。

 それに、知っている子の匂いが……血の匂いが、するような。


「……? ルーシー、どうかした?」

「ソフィア……。嘘をついているのなら、全部話して欲しいんだけど」

「え? 嘘なんてついてないよ? 私が、ルーシーに嘘を話すわけがないじゃんか」


 それこそ嘘だろう。

 彼女は割と平気で嘘をつく方だ。


 ……特に、ボクのためならば躊躇なく。


「……キミの服。気づいてないかもしれないけれど、人の匂いが染み付いてるよ。少なくとも、この近くにその子はいる」

「……ルーシー……」

「血の匂いもする。キミ自身から、そして……すぐ近くからも。ねえ、ソフィア?」

「…………」


 彼女の表情は動かない。

 まるで都合の悪いことがバレた子供のように、押し黙っている。


「……マリーちゃんは、どこ?」


 彼女の匂いが、する。

 血の匂いもする。


 けれど、場所は判然としない。

 戦闘があったにしては、直前までほとんど物音もしなかった。


「…………あいにくと。私、ルーシー以外は割とどうでもよくてさ」

「……っ!」

「騙しはしない。けれど利用はする。私は、それを躊躇しないよ。……帰ろ、ルーシー」


 想像が、一つの形を帯びる。

 想定していた最悪よりもよほど最低な、一つの可能性。


「ソフィア……! マリーちゃんを、どうしたの……!?」

「…………。もちろん回収してくるよ。ルーシー、この子と一緒に待ってて」

「な……」


 アンちゃんが、ソフィアの肩から下ろされる。

 目立った外傷はなく、ただ眠っているだけのようだ……そのこと自体には安堵したものの、依然全く気は休まらない。



 回収。

 ソフィアは、当然のようにそんな言葉を選んだ。


 聞き違いか、勘違いであってくれ。

 ……そんなボクの淡い希望すら、次の一言であっさり打ち砕かれる。


「死体くらい、取り戻してあげないとね」






 ***


 ***

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