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悪役令嬢に百合営業をしかけたら本気にされてペットにされました  作者: らびえ
番外編

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転移……?

 ***






「どうにかしろよ! してくれよっ! 私が、いや世界が、何もかもがどうなっても構わないから……せめて、クリスだけは……!」


 彼女さえ幸せになってくれるなら、たとえそれだけだって構わない。

 捨てがたいものはいくつだってあるけど、捨てちゃいけないものはひとつだけだ。



 たとえ、私が死んだとしても。

 たとえ、世界が終わったとしても。


 クリスが幸せになってくれるなら、私はそれをハッピーエンドと呼べる。


「もったいぶるなよ! かっこつけるなよ! 神だとかなんだとか、そんなことどうっでもいいんだよっ! こんな時にさえ出てこないなら、お前は一体なんなんだよ!?」


 ……身勝手なのは分かってる。

 無理を言ってるのだって十分に理解してる!


 ほとんどやけにも等しい賭けだ!

 これが通らないなら……また……!


「──ったく、うるさいぞ。もっとよく周りを見ろ、人間」

「……はえ……?」


 ──どこか、懐かしいような気さえする声。

 言われて周りをよく見ると…………そこは、さっきまでいた場所とは異なっていた。


「必死なのは分かった。どうにもならん状況なのも理解している。だから一度落ち着け、話も何もできやしない」

「な……っ!? お、おま……本当、に……!?」


 辺り一面、真っ白で。

 壁も床も天井もなにもなく、光もないのに明るくて。

 いるだけで、なんだか気が狂いそうになる……そんな、超常的な風景。



 あの日見た、自身を神と呼ぶ存在が。

 また、目の前にいた。


「あれだけ大声で呼んでおいてその言い草か? 全くもう、人間一人の意識を引き上げるのは結構苦労するんだぞ」

「意識を引き上げる……って。つまり、今あっちの私の体は……?」

「ごく短期的には、『魂が抜けたように』立ち尽くしていることになる。こっちとあっちじゃ次元が違うから、時間の進み方も違うがな」

「はあ……」


 世界を渡る。

 今経験しているこれもまた、それに近しいものなのだろうか……いや、そんなわけのわからない理屈はどうでもいい。


「あー、待て、何も言うな。言いたいことは分かっている、そしてその言い分がどうにも抽象的なのもな」

「……どういう意味だよ」

「どうにかしろ、だけじゃこっちも困る。そもそも大したことはできないさ。私たち神とお前ら人間じゃ、文字通り生きる世界が違うからな」

「……っ。無理言ってるのは、分かってるよ。どうすればいいのかだって、ほんとはちっとも分かんない。でも……!」


 神はいた。

 奇跡の如く、転生することだってあった。



 ……でもきっとそれは、常識の範囲外を逸脱してはいないのだろう。

 事ここに至って、全てを丸ごと解決してくれるような……そんな超常は、存在しない。


「そういうことだ。都合のいい解釈に逃げるな。神には神の、人には人の仕事がある……他にやるべきことがある。神は人の上に立つものじゃなく、人は神の下にいるものじゃない。住むべき場所が違うんだ」

「……なんか、色々と怒られそうな宗教観だな」

「事実だよ。少なくとも私の視点ではな。私の解釈、ひとつの神としての私の考えがそれだ」


 ひとつの考え。

 そして、それを曲げるつもりはないんだろう。


 だからわざわざ、こうして呼び出して……残酷極まりない現実を突きつけるんだ。


「神は……万能の存在じゃ、ない?」

「そうだ。試しに時間でも戻してみるか? 世界の時間だけ戻したところで、何も変わりはしないがな。最初と同じ道のりを辿って、最後にここに辿り着く。よくやったよ、お前らは……ほとんど自力で、その答えにまで至ったんだからな」

「……っ」


 ──いくら続けても、ずれこむだけで。

 根本的には、何も変わらない。


 クリスさんBはそう言った。

 それが答えだった。


 仮に世界を渡っても、仮に時間を戻しても、仮に……全ての人の、全ての記憶を消してみても。



 それは、単なるニューゲームだ。

 つよくてニューゲームにはなり得ない。……クリスは救えない。

 残酷に……ある意味、原作再現のように。



 彼女は結局、『追放』されるのだろう。


「──そう。そこまでが、前振りだ」

「…………は?」


 ……前振り?


「さあ、言ってみろ。叫んでみろ。何が望みだ? 何がしたい? どうすれば世界を変えられる? どうすれば……今よりももっと、『幸せな』結末にできると思う?」

「ちょ……ちょちょ、ちょっと待て。どういうことだよ!? 何を望んで……というか何を企んでる!? ……どうにもならない、だろ!?」


 どうにもならない。

 どうにもできない。


 たとえ神でも、どうしようもない。

 そういう結論だった、はずだ。


「そうだ、私だけじゃどうしようもない。人間だけでもな。だが……動くのが、私だけでなかったとしたら?」

「な……っ」

「加えて言うならば、見落としているよ。ニューゲーム。つよくてニューゲーム。そう、その解釈こそふさわしい。つよくなるのは、単なるいちキャラクターだけじゃあるまい……?」

「……? ……!? な、ま、おま、まさか……!?」


 動くのは……神、だけじゃない。


 つよくなる。

 ニューゲーム?


 ……何の冗談だ、それは。


「あの元人間には、到底できないだろう。責めているんじゃない、力が足りなかったわけでもない。ただ……できないさ、あれはお前のことが大好きだからな。全てを……全ての結末を……全ての責任を、お前一人に押し付けるなんてできないさ。仮に気づいたとして、絶対に言い出さないだろう」

「……っ。クリス、は……」


 ……確かに、思ったとしても言わなそうだ。

 だって彼女の願いは……私が最期まで幸せに過ごすこと、だったのだから……。


「あいにくだったな。この私は、そんなことに縛られはしない。お前一人が『がんばって』、どうにかできるならそれこそ面白い! 見せてくれよ、選んでくれよ、何より楽しい結末を! 他の何より面白い、一人の人間の……あがきをっ!」

「お前……。……性格、悪いよ」

「よく言われる! 娘にも言われた!」

「…………」


 娘、いるのか。

 いや、どうでもいいけどな。


「さあどうする! 断って全てを受け入れるか!? それとも……!」

「やるよ。やるに決まってるだろ! クリスには悪いけど、私はここで止まる気なんてないっ!!」


 クリスは幸せにする。

 それだけは、何があっても守り抜く!


「…………よく言った」

「……っ……ぁぇ……っ?」


 突如、視界がぐらりと揺らぐ。

 足元が……いや、本当に言葉に足があるのかは分からないけど、足がふらつく。



 意識が、薄れたわけではない。

 ただ……まるで、この場にいられなくなったような……。


「一つ、確認だ。私は……お前を、ある場所にそのまま送る。記憶も、体も、魂も、何もかも今の形を保ったまま。言うなれば……異世界転移だ」

「……ああ」


 つよくて、ニューゲーム。

 確かにそれは……なかなかふざけた例えだった。


 皮肉と言ってもいい。


「向かう先は、とある時間のあの世界。そうだな……『そっちのお前』が『あの人間』と喧嘩して、飛び出す少し前くらいがいいだろう。一番変えやすいのはそのあたりだ」

「喧嘩……ね。うん、それでいい……」


 ……それが。

 そこまでが。


「そう、私の仕事だ。時間転移、空間転移、そこまでが神の領分だ。……そして」

「そこから先は、私の仕事。……お前の思い通りなのは癪だけど、やってやるよ。変えてみせるよ」

「……ああ……」


 やってみせろ。



 そんな声が、聞こえて。






 ***


 ***


 ***


 ***


 ***






「…………わっ」

「──うおわっ!?」


 色彩のある、見慣れた世界。

 そんな世界の片隅に、降り立った。

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