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悪役令嬢に百合営業をしかけたら本気にされてペットにされました  作者: らびえ
番外編

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最後の反旗

「分かってよ、マリーさん……これが一番、いちばん丸く収まるの! 変貌の原因、私がこの世界を変えてしまった以降の記憶を全部消す! そうすれば全部、何もかも、初めから無かったことになるんだから!」

「それは……いや、そんなの……!」


 とても上手くいくとは思えない。

 たとえ首尾よく本当に全ての人の記憶を消せたとしても、矛盾は絶対に残るだろう。


 人の記憶は巻き戻る、かもしれない。

 でも、過ぎた時間や変わったものは戻せない……!


「全部、ぜんぶうまくやるからっ! 今度こそ、絶対に失敗しないから! お願いマリーさん、おねがい……!」

「だめ! いやだよ! クリスさんだけに何もかも背負わせるなんて、そんなひどいことできないよ!」


 私や、クリスたちの記憶も消える。

 ルーシーちゃんもおそらく、知っていてそれを受け入れたのだろう。


 ……でも、そんなことで何が残るんだよ?

 後始末も何もかも、クリスさんBに丸投げじゃないか。


「背負うも何も……私のせいなんだよ!? この世界のアンや、あなたのペットや、他の多くの人が! 私の世界の記憶のせいで狂って、変になって、傷ついたのは……そのきっかけを作ったのは私なの!」

「それは……クリスさんのせいじゃないでしょ! クリスさんはただ……ただ……!」


 彼女はただ、目的を果たそうとしただけ。

 それが悪だと言うのなら、私だって共犯であり……元凶だ。


 彼女をそこまで追い込んだのは、『わたし』の行動の結果だから。


「擁護される権利も、優しくされる理由も私にはない! もういいから……お願いだから、私に……任せてよ……!」

「クリスさん……!」

「忘れないよ。生き続けるよ。大好きだから、ずっと約束を守り続けるよ! だから……一度でいいから、私のお願いも聞いてよ……!」

「……っ」


 ……だから、彼女を忘れろと?

 彼女に救われて、そして傷つけたことを……全部?


 私が今ここにいるのは、彼女のおかげなのに。

 世界を超えてまで助けてくれた、それすらも。



 私たちは何もかも忘れて、そして……彼女は……。


「……誰の記憶にも、残さない。私がここにいた痕跡は、この世界からかけらも残さず駆逐する。ただの夢みたいに、目が覚めたらいつも通り。別世界だとか変貌だとか、そんな無茶苦茶なことは全部なくなって……普通の世界に戻る! それで、いいでしょう……?」

「…………」

「あなたも『わたし』も幸せなまま。ぜんぶ、ぜんぶ元に戻すよ。……だから」

「……っ」


 ……それが、世界のためか?

 人のために、なるのか?

 彼女の……覚悟なのか?



 もしも全てがうまくいくのなら、確かにそれは……大多数の人間にとっては、理想的な結果なんだろう。

 別世界だとか時間だとか、難しいことはやっぱり分からないけど……そんな概念が手の届く場所にあるのは、確かにどこか不自然にも思える。



 クリスさんBがここに来た。

 たったそれだけのことで世界が変わってしまうなら、きっとそれは人が手を出しちゃいけない領域だからだ。


 身の丈に合わない場所。

 運命を変えるとか、だれかを助けるだとか、そんな高尚なことは似合わない。



 人は人らしく、ただ足掻くだけ。

 無理に、無駄に、無意味に壮大なことは考えず、目の前の運命を受け入れろ。

 そんな、世界からのメッセージが……今起きている、変貌とかいうふざけた異変なのかもしれない。



 ……だったら……?


「……分かってくれた? マリーさん。私たちは、最初から間違ってたんだよ……変えるなんて、無理だったんだよ。あなたといられた時間は楽しかった、それで……それだけで、満足するべきだった……」


 ……ああ、それが一番賢いんだろう。

 それが一番、スマートなやり方なんだろう。



 今ある幸せを受け入れる。

 今この時を全力で楽しむ。


 達観したようにそう思う。

 それがきっと一番幸せで、何よりも素晴らしい結末。



 過ぎた時間は帰ってこない。

 だけど、記憶だけは戻る。


 クリスさんBの、きっと最後のわがままだ。

 私は……私たちはそれに甘えて、彼女の分まで目一杯、最期の最後まで幸せに過ごそう──。


「──とか。私が、そんなこと言うわけねえだろクソがぁぁぁぁっ!!」

「は、はいっ!? なにマリーさん、いきなり大声で……!」


 ああそうだよ、フラグだよ!

 なっがい前振りとフラグを回収してやるよ!!



 運命? 世界? 身の丈? 幸せ? 知るかそんなもんっ!

 そんな面倒なことを考えられるほど私は頭良くないよ!


「クリスさん! 私はちっとも、ちっっっっとも納得してないから! そんな結末、絶対に受け入れないっ!」

「な、何を言って……! マリーさん、悠長にしてる暇はないの! ルーシーさんも、この世界の私も、みんなそれが一番だって分かってるよ!? だから……!」

「一番!? はあーっ!? 私のクリスが、どんな世界でもクリスが幸せになれない道なんてちっとも意味ないよっ! クリスを幸せにする、そのために、そのためだけに私は生きてるんだ!!」


 そのために転生した。

 そのために、あの神にこの世界を作ってもらった。


 そのために死んだ……わけではないけど……あれは単なる不幸な事故だけど……!


「そ、そのためだけにって……。な、ならマリーさん、今の状況をどうにかできるの!? 時間が経てば経つほど変貌の症状は増える、どんどんどんどん手がつけられなくなっていく! 決定的にどうにもならなくなる前に、何か手を打たなきゃいけないのに……!」

「ぐ……そ、れは……っ」


 ……ああもう、自分の馬鹿さが嫌になる。

 威勢のいい言葉で誤魔化したって、結局のところ無策には違いないんだ。



 クリスさんBの言うことは、どこまでも正しいよ。

 私には世界をどうにかするだけの力なんてない。


 そんな私の虚勢を見透かしてか、どこか苛立ったふうにクリスさんBは言う……。


「……マリーさん。私が、何も考えなかったとでも思ってる? こんなその場しのぎ以下でしかない手段を、本気で実行したいとでも?」

「い、いや……」

「いっぱい考えた。できそうなことは片っ端から試したの! でも結局、何も見つけられなかった……何をどうしたって、力も時間も絶望的に足りない……! マリーさんを救えば救うほど、無関係な誰かが犠牲になる!」

「…………」


 ……クリスさんBの目的は、この世界における私の『救出』。

 彼女の世界で命を落とした、私の死の運命を……変えること。



 でも、それを行うには、どうしたって彼女自身が干渉しなくちゃいけない。

 けれど、彼女が干渉すればするほど世界は歪む。人は変わる。


 私を救おうとすればするほどに、人々は……世界は、割を食う。


「わたしだって、本当はあなたをちゃんと救いたいっ! くだらない危機になんか晒されないで、ずっとずっと……永遠に、幸せでいてほしいに決まってるっ! でも……でも、できないんだよ……!」

「……クリスさん……」

「ずれていくの。どんどん変になっちゃうの! いくら続けてもずれこむだけで、根本的には何も変わらない! ……私には、あなたを救えない……!」

「……っ」


 絶望しきった彼女の表情に、引き込まれるように心が曇る。



 彼女が何を見てきたのか、何を知ってきたのか、どれだけ足掻いて……どこまで傷ついてきたのか。

 想像するしかできない自分が……本当に、本当に腹立たしい……!


「神も仏も、救いもどこにもない! あなたは死ぬの、苦しむの、何をどれだけ頑張ったって私には何も変えられなかったのっ! ……だからマリーさん、もう、ぜんぶ忘れてよ! せめて、最期に幸せになってよ……!」


 ……全部のしがらみから解放されて。

 前と同じように幸せに、幸せな日々を過ごす。

 いつか絶対に訪れる、理不尽な終わりの日まで……ずっと……。


「……でも! 私は、クリスさんにだって……!」

「これっきりにするから! もう二度と、絶対に、あなたを──あなたを、救おうとなんてしないっ! ……ちゃんと、幸せに生きようとするから……過去ばっかりじゃなくて、ちゃんと前を見るから……だから、ぁ…………!」


 ──私を、救おうとしない。

 その言葉を吐くまでに、彼女はどれだけ苦しんだんだ?


 もう、過去は過ぎ去った。

 未来もきっと変わらない。



 私は死ぬ。

 どの世界でも、何をやっても、どう頑張っても私は死ぬ。


 そして、『全ての記憶を消す』ということは、そういうことだ。

 完全にまっさらな状態で……何にも阻まれず、何一つ変わることなく、『正史の通りに』──私は、死ぬ。



 クリスさんやルーシーちゃんは、『今』を忘れた彼女たちは、きっと諦めないんだろう。

 諦めて、くれないんだろう。


 クリスさんは吸血鬼になり、そして長い時を過ごす。

 おそらくは何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度だって私を救おうとして。


「……っ。……くそ……くそ。くそ、くそ、クソクソクソクソクソクソ……クソが……っ!!」


 ……そして、失敗する。

 今、この場所に辿り着く。



 最後には私を諦め、私を救うことを諦め、全てを運命に委ねる。

 絶望しきった表情で、かけらも癒えない傷を抱えて、クリスさんだけは前へ進む。


 私を救えない未来を、私を諦めてしまった未来を。

 永遠に、歩き続ける……その背を押したのは、私だ。



 ……何も知らなかったのに。

 今も、何もできないくせに!

 彼女に死んでほしくないと、彼女が死ぬのは耐えられないと……そんなこれ以上なく自分勝手な理由で、彼女に楔を打ちつけた!


 そのせいでもう、彼女は死ぬことすらも許されない……!


「……もういちど。もう一度、だけでも……あなたに、おかえりなさいって言いたかった……! それだけ、だったのに……」


 ……クリスさんB。

 彼女が、初めて私たちの前に姿を現した時。



 彼女は、すまし顔で私たちの部屋にいた……私の帰りを、待っていた。


「……っ。わたし、は……!」

「……マリーさん。さいごの、お願い……きいてくれる……?」

「…………ぅ」


 世界ごと、世界中の人々が、この数週間のことを全部忘れる。

 まるで何事もなかったかのように、日常がまた始まる。



 ……何事もない日常、ただ幸せな毎日の中で……わたしは、死ぬ……。


「ぜんぶ……元に戻すから。幸せに生きて、マリーさん……最期まで、最後のさいごまで……しあわせ、に……」


 さみしそうに笑う彼女は。

 泣いているクリスは。



 いつか私を失った彼女は。

 この先で、また私を失って、そして……また、こうなるのだろうか。



 また、私は死んで。

 また、クリスさんは鬼になって。

 また、私を救おうとして。



 ……また、諦めるのだろうか?


「……そん……なの……!」

「……? マリーさん……?」

「……ざ、けんな。ふざけんな! そんなの、そんなこと……許すわけ、ないだろ……!」

「え……」


 諦念と疲労の中で、何かが熱く燃えたぎる。



 まだ、まだ、まだ、まだ……まだ……!

 何かあるはずだ、なにか、一つ、どこかに……絶対に!


「クリスを。私のクリスを、いつまでも不幸になんて……しないっ!」


 探せ。考えろ。見つけろ。諦めるな。

 何回も、何回も、何回でも、死んできたんだろ。


 諦めて……でも諦めたくなくて、考え続けてきたんだろ!?

 前世なんだかなんなんだか、別の世界だとかなんだとか、よくわかんないけど……今だって、かけらも分かってなんかいないのかもしれないけど……!


「マリー、さん……? まだ……なにか……」

「……選ぶもんか、そんな選択。諦めるもんか! まだだ、まだ……!」

「……マリーさん。無駄だよ……きっと今までも何回も、何回だってそうやって……何も、できなかったんだよ……?」


 吸血鬼には、無理だった。

 ただの人間にも、やはり当然無理だった。



 なら……頼れるものは、なんだ?

 なんだってやってやる、どんな代償だって払ってやる……いつまでだって食らいついてやる!


「──いるんだろ。見てるんだろ。ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ふざけた顔して見てんだろ!?」

「ま……マリー、さん……?」


 狭い路地から、空を仰ぎ見る。


 実際、そこにいるのかは知らない。

 けど……あの何よりふざけたクソ野郎が、どこかで見ていないはずがないだろ……!


「出てこいよ! アフターケアには期待するな!? 転生させるだけ!? ふざっけんな、このやり逃げ半端野郎っ!」

「マリーさん、何を……? 上には、何も……」


 この叫びが、聞こえているなら。

 馬鹿な人間を、ほんの少しでも哀れに思うなら。

 何か一つでも、できることがあるってんなら……!!


「もう一度……出てこいよ! ──()ぃっ!!」

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