表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢に百合営業をしかけたら本気にされてペットにされました  作者: らびえ
番外編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/161

和解?

「ひ……い……いやああぁあああああぁぁあああああっ!」


 恐怖。嫌悪。不快感。忌避感。

 やけにうるさい自分の叫び声。


 目の前の男は……人間だったものは、白目を剥いて口の端から泡をふいて。

 そして、ぱたりと仰向けに倒れた……。


「…………つぎ。お前ら、だ」

「ひぃっ……!?」

「ま、待てよ……あたしらは何も……っ! う、うわああああああっ!?」


 両腕の拘束が消える。

 哀れな女二人は、転げるように逃げ出した……だが、振り切れることはないだろう。

 もう一人の私は私に目もくれず、どこまでも据わった目でそれを追っていく。



 ……あっさりと、殺した。人を一人、簡単に。

 あれもまた、私の……末路……?


「──クリスっ!」

「ぁ……ま、りー……?」


 その時……死体の向こうから、聞き馴染んだ愛しい声がした。


「クリス、大丈夫……怪我は!? それにイリーナちゃん、アンさんも……!」


 マリーが、慌てた様子で駆け寄ってくる。

 ルーシーさんも一緒だった。


 今更のように、自分が地面に座り込んでいたことに気付く。

 けれど、立ち上がることさえできない。

 手が、足が、震えてぴくりとも動かない……。


「マリーちゃん、少し落ち着いて。誰も怪我はしていないよ……この子以外は、ね」

「……っ。その、人は……」

「大丈夫、まだ治せるよ。クリスちゃんを殺人者にはさせない」


 ……私の言いたいことはお見通しか。

 震える声を懸命にしぼり出す。


「……ルーシー、さん。あちらに、まだ二人……それに、私が……!」

「そっちも問題ない。ボクの……あー、知り合いに連絡をとっておいたから。あっちのクリスちゃんとは面識があるし、あの子ならうまく止めてくれるよ」

「そう……ですか……」


 手回しが早い。

 彼女の優秀さには頭が下がる……私とは大違いです。


 喧嘩の果てに飛び出して、勝手に命の危機に晒され、挙句腰が抜けて立ってもいられない。

 何もできず、無駄に、無意味に。

 お母様が知ったらきっと呆れるでしょう……それに、マリーだって……。


「……クリス」


 ……マリーが、腰を屈めて話しかけてくる。

 けれど、とてもその目を見つめ返せない……どんな表情を浮かべているのかさえ、見たくない。


「ごめんなさい、マリーさん……ごめんなさい。私は……ただ……」

「クリス……?」

「ただ……選ばれたかった。マリーにとってのいちばんを、取られたくなんてなかった。……わたしは、私よりも、あなたに必要とされたい……!」


 ……走りながら、色々考えました。


 別の私を、不憫に思ったのは事実です。

 殺された方がよっぽど楽だと思ったのも、マリーになら殺されてもいいと思ったのも。



 けれどあの質問を……あの脅迫をした根底には、きっと一つしかなかった。


「……クリス。そんなの……」

「勝手なのは分かってますっ! わたしが、どれほどあなたを傷つけたかも! 迷惑をかけて、心配をかけて、でも、それでも……!」


 選ばれたかった。

 他の誰より、たとえ私と比較してさえ、一番に必要とされたかった。


 唯一、彼女に愛されたい。

 そんな、ただのわがままで……傲慢に過ぎない。


「違うよ……! クリスは何も間違ってなんかない! 本当にクリスのことを想うなら、私があの場で迷わず選ぶべきだった!」

「……っ! 違います! マリーは何も悪くない! そんなこと、マリーに選べるわけがないのに……選んで、ほしくもないのに……!」


 彼女にならば、殺されたい。殺されてもいい。

 けれどそのせいで、彼女が苦しむなら意味はない。



 ……私は、彼女を幸せにしたいんです。

 だから、あんな問いを投げかけるべきではなかった……私以外誰も救われない、あんな道を提示するんじゃなかった!


「クリスは何も間違ってない!」

「マリーは……何も、悪くない……!」


 いつのまにか、二人とも大声で。

 そう叫んだ後には、ほんの少しの静寂があった。



 勢い任せにやっと見据えた、彼女はやっぱり……泣いている。


 私のせいだ。

 私が、誰よりも彼女を苦しめた。


「──マリーさん。クリスさん」

「……? イリーナちゃん……?」

「イリーナ、さん……」


 真っ先に沈黙を破ったのは、イリーナさんだった。

 先ほどの恐怖からか、立ち上がってはいるものの足が震えている……隣に同じく立っているアンさんと支え合って、ようやく姿勢を維持しているようだ。


「二人とも、喧嘩はやめましょうよ。そんなに苦しそうに、辛そうにする喧嘩なんて、なんの意味もないですよ」

「……で、でも!」

「分かりきってるじゃないですか。二人とも、相手のことがいちばん大切なんだって。だから、誰より傷つけたくないから、傷ついてほしくないから……そうやって言い合いしてるんです」

「……っ」


 ……一理、ありますが。

 でも……。


「クリス。意地を張るのはやめなさいって、昔から何度も言っているでしょう。マリーさんのことを、本当に大切に思っているクリスは……もっともっと素直になるべきですよ」

「…………」


 ……いっそ、マリーに殺されたい。

 それが、私にとって一番幸せな結末だから。



 私は、確かにそう考えました。

 けれど……それは……。


「──ん。戻ってきたかな? クリスちゃん、もうひとりのキミが帰ってきたよ」

「え……?」


 黙々と治療らしきものを進めていたルーシーさんが、不意に声を上げた。

 言われて背後を見ると……肩に何かを担いだような人影が、こちらに向かって歩いてきている。


「──ルーシー。捕まえて、きたよ」

「ありがとう、ソフィア。首尾はどう?」


 ソフィア……さん。

 不思議な存在感のある女の人……人、でしょうか?


 ただの人にしては、やけに荷物が多いような。

 そもそも、ルーシーさんの知り合いですし……。


「こっちの二人は……ちょっと怪我してるけど、生きてる。それでこの子は……んー……生きては、いるよ」

「そう……お疲れ様。ひとまず、そのあたりに寝かせておいてくれる?」

「……分かった」


 三つ立て続けに、ぐったりとした人型が地面に寝かされた。


 最初の二人は、私を拘束して……『私』から逃げた女二人。

 最後のひとりは、紛れもなく。


「ぅ……ぁ……」

「……先、帰ってる。必要なら、また呼んで」

「うん、ありがとー」


 放心状態の『私』をちらりと見やり、ソフィアさんは姿を消した。

 一体何者……いえ、追求は後ですね。


「……マリー。その……」

「分かってるよ、クリス。……それとさ」

「……はい」

「ごめん。色々と。言いたいことも、聞きたいこともいっぱいあるけど……今は、喧嘩はこれっきりにしよう」

「ええ……」


 ……ああ、もう。

 先に言おうと思っていたことが全部言われました。



 喧嘩はひとまず後回し。

 愛してる、今はそれだけでいい。






 ***


 ***

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ