表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢に百合営業をしかけたら本気にされてペットにされました  作者: らびえ
番外編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/161

顛末、結末?

「……おはよう、クリスさん」

「マリー、さん……」


 消沈しきった表情で座り込む彼女……クリスさんBの正面に、ゆっくりとかがみ込む。



 聞きたいことは山ほどあった。

 確かめたいこともいくらでもある。


 けれど、まずは……。


「ありがとね……助けてくれて。ずっとそう言いたかったのに、なんで消えちゃうのさ」

「……お礼を言われる筋合いなんて、ないから」

「……そう?」


 彼女は一度、今朝で二度、私を……助けてくれた。

 世界を渡って、時間を渡って、私を助けに来てくれた。


 私のためにそこまでしてくれた彼女に、お礼を言わない理由がない……。


「違う」

「……え?」

「マリーさんのためなんかじゃない。……私のためだよ。どこまで行っても、どう言っても、ただの私のエゴでしかない」

「そ、そんなことは……」


 ない。

 そう言おうとして、思わず口をつぐんだ。



 私は、彼女のことを断片的にしか知らない。

 ほんの少しだけ感じた記憶と、あとは全部伝聞……そんなんじゃ、何も分からないことに気づいたからだ。


「……マリーさん。私の世界で、あなたがどうして死んだのか……知ってる?」

「え? あ、いや……」


 ……知らなかった。

 当然ではあるが。


「そうだよね。私、その部分だけは省いたから……都合よくあなたを操るために、あなたに渡した記憶からそこだけは故意に抜き取ったから」

「あ、操るってそんな……」


 そう言って彼女はどこか自罰的に、嘲るような笑みを浮かべた。

 ひどく痛々しい……彼女が次に発する言葉が、怖い……。


「私があなたに刷り込んだ記憶は、一つ。あなたが死んだ後、ルーシーさんがそれを私たちに伝えに来て……私が、自殺する時までの記憶」

「……そう、だね」


 あの生々しい死の情景が思い起こされる。

 文字通り、冷たく苦しい夢の中でそれを観た。


 ……正直できるだけ考えたくなくて、思い出さないようにしていたのだけれど。


「じゃあ、どうして? どうしてルーシーさんが、それを真っ先に知らせに来たの? どうしてあんなに申し訳なさそうに、それを私に『謝りに』来たの? ……どうして私は、そのことで何より自分を責めたの?」

「……っ。ま、さか……」


 的確に、嫌な想像をさせられる。

 断片的な情報がつながり、線を成し……一番、嫌な方向へ。


「……あの朝、私とマリーさんは……喧嘩をした。それで、マリーさんは部屋を飛び出した」

「…………」

「その時は全然知らなかったけど、あの時マリーさんはルーシーさんにそのことを相談しに行ったんだって……オリバーくんの散歩がてらに、どうすれば仲直りができるかって考えてた」

「……それは」


 確かに、私のやりそうなことだ。


 もし、私がクリスさんと喧嘩して……そして部屋を飛び出すようなことになったら、わずかな癒しを求めてオリバーの元へ向かうだろう。

 そして結局そのまま途方に暮れて、藁にもすがる思いでルーシーちゃん辺りに頼って……色々考えて。


 帰ったらなんて言おうとか、どんな言葉で謝ろうとか……あるいは過去の自分を責めたりして。


「私も、いっぱい考えた……騒ぎを聞きつけたイリーナさんが部屋に来て、私の話を聞いてくれた」

「はは……」


 それもやはり、ありそうな流れだ。

 イリーナちゃんはよく遊びに来てくれるし、学園内の情報にも耳が早いし。


「──で。マリーさんは、いつまで経っても帰ってこなかった」

「……っ」

「ルーシーさんの命を狙ってるとかいう輩に、たまたま巻き込まれて死んだんだって。……そんなこと、どうっでもよかったけど」


 ……それもまた、ありがちで。

 なんとも、救いようのない。


 ルーシーちゃんは吸血鬼だし、そういう因縁もなくはないのだろう。

 結果としてそばにいた私まで巻き込まれて……私たちは、永遠に仲直りの機会を失いました、と。


「……で、でも! 私は絶対……!」

「そんなことで、マリーさんが私を恨んだりはしない。きっと最後の最期まで私のことを考えて、クリスさんごめんなさいとか……そんなことばっかり考えて、死んだ。……分かってるよ、それくらい」

「そう……だよ。どんな結果だったって、私はクリスさんが大好きだ。だから」


 恨んでなんかいない。

 後悔こそあれ絶対に、私は最期まで幸せだった。

 だから……!


「……だから、何よりも嫌なんですよ」

「……っ」

「後悔も、罪悪感も、引きずり続けるのは私だけ。結局、自殺も失敗した……ルーシーさんが私を吸血鬼なんかにしたせいで、絶対に死ねない体になった」

「……そ、れは……」


 それだって、ルーシーちゃんに悪気があったわけじゃあるまい。


 むしろ逆だ。

 私を死なせてしまったからこそ、せめてクリスさんだけは、って……。


「……私ばっかり。私だけ、思い出はずっと暗いまま。最後に見たあなたの顔は、あなたが泣いた顔のまま」

「…………」

「だから……それが、嫌だったから」


 そのために。



 ……そのためだけに。


「クリス、さん……」

「私は、あなたを助けに来たんです。私の未来に、あなたがいなくても……永遠に、あなたを塗り替えるために」

「…………」


 塗り替える。

 思い出を、美化する。



 ……なるほど、彼女のためだった。

 確かにそれは、彼女のエゴでしかないのかもしれない……けれど……。


「だから、感謝なんていらない。私にとっては、あなただってもう必要ない。都合よく利用して、『元の』あなたを忘れるための……道具だから」

「そんなこと……言わないでよ……」

「いらない。いらないいらないいらない……いらない。……もう二度と、『あなた』を思い返しもしない」


 ……それは。


 彼女にとっての、彼女の私が。


 彼女の世界にいた私が、もう、永遠に…………。


「──あー。ふたりとも、ちょっといいかな?」

「……えっ? る、ルーシーちゃん……?」


 いつのまにか、すぐ傍らにルーシーちゃんが立っていた。

 私のクリスさん……クリスさんA、イリーナちゃん、アンさんはまだ少し遠くで私たちを見守っているようだが……。


「横槍を入れるようで悪いけど……クリスちゃん。『キミの世界のボク』は、キミに、何をどう話した?」

「何を……?」

「いや。キミの語り口というか、話し方というか……前提からして、そもそもずれているような気がしてならないのだけれど」

「……何のこと? どうでもいいよ、そんなの」


 前提?

 一体どういうことだ?


「本当に、心当たりがない……? いや、ボクが考えそうなことといえばそうだけど……だとしたら、ボクも性格が悪いな……」

「えーっと……る、ルーシーちゃん? 本当、何の話?」

「……話していいのかな。いや、いいんだろうな……全く、ボクの役立たずめ……」

「はあ……? 何のことか知らないけど、話すなら早く話してよ……ルーシーさん」


 しばし考えるような素振りをした後、一呼吸おいて彼女は告げる。

 まるで、余命宣告か何かのように。


「……クリスちゃん。キミは──もう、死ねるはずだよ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ