似たもの同士……?
「私、浮気を疑われてるんです!」
……浮気。
浮気?
ウワキ???
「えイリーナちゃんって恋人いたの!!?」
「イリーナさんって恋人いたんですか!?」
クリスさんとハモった。
いや、イリーナちゃんはモテるしおかしいというほどのことでもないか……でもこれまでそんな素振りは一切なかったような?
私たちの知らないところで、密かにお付き合いしてたりしたんだろうか……。
「あ、え、えーっと……そういうわけではないんですけどー……」
「え?」
「はい?」
そういうわけではない?
どういうことだ?
「あのその、恋人さんがいるわけではないんですよ。でも浮気を疑われてて……」
「待って論理が破綻してるよイリーナちゃん」
「そうですよイリーナさん、恋人がいないのに浮気って……そんなの、マリーさんがいないのに結婚する私みたいなものでしょう」
絶妙に外しているクリスさんの例えはともかく、その通りだ。
浮気とは恋人がいるから成り立つものだろう。
初めからいないんじゃ成立しようもないはず。
「それが……」
イリーナちゃんが続けて何かを言おうとした時……世界が揺れるような爆音が響いた。
ドアの方からだ。
見ると玄関のドアが軋み、たわみ、割れんばかりにしなっている。
めきめきと、みしみしと。
どう見ても自然に起きる範囲の現象ではない……何者かが、半端じゃない力でドアを叩いている……!?
「──イリーナさーん……? ここにいるのは分かってるんですよ……?」
「ひゅっ!?」
……どこかで聞いたような女の人の声だ。
イリーナちゃんの反応からして……この人が、イリーナちゃんの浮気を疑っているという人だろうか……?
「出てきてくださいよ……私と、おはなししましょう……?」
「ひあっ……みゃ……た、たすけてくださいクリスさん……」
ライオンを前にした小動物のように縮こまって震えるイリーナちゃん。
そんな姿もまた、庇護欲を喚起されるものではあるが。
「ね……ねえ、クリスさん? この声って……」
「…………ひとまず、開けましょうか」
「えっ? だ、大丈夫?」
まあ、他ならぬクリスさんがいいなら大丈夫なのかもしれない。
ひとまずイリーナちゃんを部屋のクローゼットに隠し、乱暴な来客への対応はクリスさんに任せる。
ここは期待するしかないだろう……クリスさんの、幼馴染としての力に……!
「今開けますよ。開けますから、ドアを壊さないでください」
「いーりーなさーん…………」
「ああもう、だから叩くなと……っ! やめなさい、アンさんっ!」
尚もどかどかと叩かれていたドアを、クリスさんが力任せに開け放った。
よろめきつつ部屋に入り込んできたのは、つい先日会ったばかりの顔。
クリスさんの幼馴染にして友人、アンさんだった。
「クリスぅ……? イリーナさんは、どこです……?」
「今のあなたには教えられませんよ。一体どうしたんですかアンさん、らしくもない……あなた、そんなに乱暴な人ではないでしょう」
「はあはあ……イリーナさん、イリーナさんはどこに……」
「な、ちょっ……! ま、待ちなさい! 私の話を……くっ、マリーさん……!」
玄関で何やら押し問答をしたのちに、アンさんがゆっくりと歩み寄ってきた。
クリスさんは大丈夫だろうか……いやしかし、今はこっちが優先だ。
「あ、あはは……どうもアンさん、ごきげんよう……」
「……そこですね?」
「みぇっ!? い、いいい一体なんのことだか皆目全く検討も」
「イリーナさんの……においがします……!」
「あっちょっ!」
「みゃああああああああっ!?」
間男よろしくクローゼットに隠れたイリーナちゃんは、しかしあっさり見つかってしまった。
においって何、ねえ匂いって何!?
クリスさんみたいなこと言わないで!!?
「許しませんよぉイリーナさん、この私から逃げるなんて……」
「ひぃ……あ、ゃ……ちがう、違うんです、その、ごめんなさい……そんなつもりじゃ……」
「ほら行きましょう、私と二人で……二人っきりで、いぃっぱいおはなししましょう……?」
人が変わったように目が据わり、私のことなど目もくれずイリーナちゃんの腕を掴むアンさん。
いや、私そんなにこの人と仲良くしてたわけじゃないけど……こんな人だったっけ!?
もっとこう、正統派なお嬢様って感じの人じゃなかった!?
なんで暗さと怖さと乱暴さを三倍ぐらいに煮詰めたクリスさんみたいになってるの!?
「やめなさい、アンさん」
「あぁ……? クリス……?」
そこにクリスさんが駆けつけ、横からアンさんの腕を掴んだ。
ヤンデレ同士の睨み合いがしばし続く。
「イリーナさんが怖がっているでしょう。こんなの、私の知ってるアンさんじゃ……」
「……たが……さんを…………?」
「はい?」
「あなたが! 私のイリーナさんを! 寝取ったんですね!!?」
ヒステリーを起こしたように、クリスさんの腕を振り払おうとするアンさん。
掴まれていない方の手でクリスさんを引っ掻こうとしたので、慌てて割って入った……すごい力だ。
うっかりするとお互い怪我をしてしまう。
「ね、寝取るも何も私にはマリーさんが……」
「あぁああぁあぁぁぁあああっ! この、このぉ! 私のイリーナさんをっ! かえせ、かえせ、かえせかえせぇっ!」
「駄目だこの人、早く何とかしないと」
衝撃のあまりクリスさんが新世界の神になってしまった。
もはやこの場には怒りと呆れと恐怖しかない。
恋は盲目とは言うが……しかしどうしよう。
このままでは収拾がつかないのだが……。
「あっ、あのっ!」
「あぅ……!?」
「あ、アンさん、落ち着いてください! お二人は私のお友達です! 寝取られたりなんかしていませんし……と、とにかく落ち着いてくださいっ!」
「う……い、イリーナさん……の香り……」
こ、この主人公……!
暴れるヤンデレ猛獣を無理やりハグしてなだめただと……!?
流石天然人たらし!
「ふう……いたた」
「クリスさん、大丈夫?」
「ええ、大したことは。マリーさんも……怪我はなさそうですね。……しかし、一体どうしてこんなことに……?」
腕をさすりつつ、少し離れたところからそんな光景を眺めるクリスさん。
まるで恐ろしいものを見るような目だ。
……自分のことは棚に上げているのだろうか。それとも自覚がないのか?
いやまあ、私たちはずっと両思いではあるんだけど……。
「すぅ……はぁ……はあはあ……」
「…………」
イリーナちゃんがめちゃくちゃ助けを求める目をしている。
しかし私たちにはどうにもできない。
再度割って入ったところで拗らせる結果にしかならないだろう。
とりあえずここは私たちの、というか私の部屋なので、出てってもらうわけには……いかないだろうな……。
「あー……しばらくこのまま待ってみて、落ち着いたら事情を聞いてみようか……」
「そうですね」
「えっあの」
それくらいしかできることはないのだ。
色恋沙汰に首を突っ込んでもろくなことはない。
「が、がんばれイリーナちゃん!」
「あなたならきっと大丈夫ですよ、彼氏の意地と包容力を見せましょう」
「か、彼氏じゃないですし……! あの待ってください二人とも、なんで少しずつ離れていくんですか……!」
「イリーナさーん……うへへへ……」
「ちょっ、あっ、やめっ」
終わりよければすべてよし。
でも幸せならOKです。
……そういうことにならないかなあ……。




