表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢に百合営業をしかけたら本気にされてペットにされました  作者: らびえ
番外編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/161

ひとときの休息

「ねえ、クーポくん。何買えばいいと思う?」

『ええと……ひとまずは赤ちゃん用の食料でしょうか? しかし、どこにあるのかまでは』


 いつも買い出しに来ている商店街。

 未曾有の大火事からもすっかり復興して、普段の景色を取り戻している。

 もっとも普段と違うのは、オリバーを連れていることと……クリスさんとイリーナちゃんの姿が違うこと。


「ぅー?」

「ん? クリスさん、どうかした?」

「あー。あぅー」

「そ、そっかー……?」


 ……わからん。

 何かをアピールしている。

 どこかを見て指差して……後ろ? 後ろか?


「──ごきげんよう、マリーさん」

「ふぇっ!?」


 怪訝に思い後ろを振り向くと、すぐ先に誰かがいた。

 いやもう本当、すぐ後ろに。

 体感一メートルもない、息が吹きかかりそうなくらいの距離にいた……いや怖い。怖いよ。


 世が世なら暗殺されていてもおかしくないが……はて、この人は誰だったっけ?

 なんとなく覚えがあるし、多分知り合いだと思うけれど。


「ご無沙汰しております。アンです、クリスの友人の……」

「……? ああ、アンさん! お久しぶりです!」


 思い出した。

 クリスさんの幼馴染の人だったか。

 そういえば、随分長いこと会っていなかった気がするな。


「ところでマリーさ…………え? あの、その子は……?」

「えっ? ……あー、えっと、どう説明すれば……」

「く、クリスはどこです!? 気は確かですかマリーさん、そんなところをクリスが見たら……辺り一帯が焦土と化しますよ!?」

「化しませんよ!!?」


 あ、いや……化すかもしれないけど。

 『なんですかマリーさんその子は、浮気ですか!? 浮気なんですか!?』とか言ってロケットランチャーでも持ち出してきそうな気がしないでもない。

 まあ、そんな状況はありえないが。


「それにそちらの子は……な、なぜ犬に乗って……?」

「ああ……ちょっとその、話すと長くなるんですが」


 説明するべきだろうか。

 私自身、彼女とそこまで仲が良いわけではないけれど……でも、もしも助力を得られるなら心強い。

 ほとんど私一人でこの二人の面倒を見るのは、結構大変だしな……。


「……うーん? それにしても……この子、どこかで見たような」

「え?」

「イリーナさん……? いえ、ありえませんね。あの人は浮気なんてしませんし隠し子なんているわけが……」

「ちょ、ちょっとアンさん?」


 アンさんはそう言って、犬に乗ったままのイリーナちゃんの顔をまじまじと見つめている。

 私のことなど一瞬で視界から消え失せたみたいに。


 隠し子っていうか、それが本人なのだが。


 ……あれ? それより、二人って知り合いなの?

 まあイリーナちゃんのことだし不思議ではないけれど。

 あの子の交友範囲は半端じゃない。もしも世界中の人間と友人になれるとしたら、彼女を置いて他にいないと私は本気で思っている。


「……ああ、すみませんねマリーさん。人探しの途中でして……もし、イリーナさんを見つけたらご連絡ください」

「え、あっ? えっ?」

「それでは」

「ちょっ……!」


 そう早口でまくしたてて、視界から消えてしまった。

 イリーナちゃんならここにいるのだが。

 呼び止めようにも、クリスさんとイリーナちゃんがいる以上素早くは動けないし……うーん、まあいいか。


 何か用があったのかな。

 だとしたら、こんな姿では意味はない。

 イリーナちゃんが元に戻ったら伝えておこう。


『……マリー様』

「ああ、クーポくん。どこ行ったのかと……」

『夜道に気をつけてくださいね』

「えっ?」


 どういう意味だ?

 何かあったっけ?


『いえ……まあ、気づいていないのなら。きっとそのうち……』

「うん……?」


 なぜか遠い目をするクーポくん。

 何かに気づいたのだろうか。まるで伏線のようなことを言う鶏だ。


 まあいいや、とりあえず買い物を済ませてしまおう。






 ***






「こんなところ、かなあ」

『ええ、急場は凌げるでしょう。たしか彼女の話では、三日もあれば勝手に戻るとのことでしたしね』


 乳幼児くらいでも簡単に食べられるものと、清潔な布を多めに。

 本格的に子育てをするわけでもないし、これだけあれば多分大丈夫だろう。


 正直今の状態であまり外出したくはない。

 変な噂が立つのもあれだし、何より危険だし……外出は最低限にとどめておこう。


「うー……ぅー……」

「すぅ……」


 しかし、二人は疲れてしまったようだ。

 イリーナちゃんはオリバーに乗って目をしょぼしょぼさせているし、クリスさんに至っては少し前から寝息が聞こえて来ている。


 どこかで一旦休むべきだろうか?

 でも、そんな都合のいい場所はなかなかないしな……。


「ワンッ!」

「わっ!? な、なになに?」

「ふぇぇぇぇ……」

「ああ、ごめんねクリスさん……どうしたのオリバー? 何かあった?」


 横から聞こえた突然の吠え声に、泣き出してしまったクリスさんを必死であやす。

 とはいえ背中を撫でるくらいしかできないが。


 慌てつつもオリバーに目をやると、控えめに尻尾を振りながら私の前に立った。


「ワン、ワン!」

『……? ついてこい、だそうですが』

「んん? そっち、何かあったっけ?」


 まあ、とにかくついて行くしかない。


 商店街から脇に逸れてそれなりに細い路地を抜け、住宅街に出る。

 オリバーは背中にイリーナちゃんを乗せているからか少し落ち着いた歩調ではあるが、それでもどんどん歩いていってしまう。


 追いつくのがやっとだ。

 文句を言う間もない。


「うー? うー、うぅー!」


 先程の眠そうな様子はどこへやら、やたらテンションが上がっているイリーナちゃん。

 それに釣られてか、オリバーの歩調も弾んでいる……追いつくのが辛いので、もう少しゆっくり歩いてはくれないだろうか……。


『おや……このあたりは随分家が少ないですね』

「うん? ……ほんとだ。まあ、そんなに人口は多くないってことじゃない?」


 確かに、辺りが少しずつ開けていく。

 そういえばあの火事以前にも、こっちの方にはあまり来たことがなかった。

 あまり人が住んでいない地域なのかあまり開発されておらず、進むにつれて緑が増えていく……やがて、周りに完全に建物がなくなった。


 かなり開けた景色が目に飛び込んでくる……!


『ほう……』

「おお……!」

「「あぅー!」」


 そこは、周囲を建物に囲まれた、箱庭のような場所だった。

 見る限り人目はなく、静かで暖かい……陽光が穏やかに降り注いでいる。


 中央に立った一本の大きな木は、まるで長老か何かのようだ。

 いかにも風情のある、街中のオアシスといった印象を受ける。


「そっか……このあたりはあんまり火事の被害を受けなかったんだ……」


 まるで、数年前から時が止まったかのような景色。

 そんなひとつまみの奇跡に、ある種の感慨すら抱いた。

 絵画のように美しいとは、まさしくこのことだろう。


「ワフワフ、ワワンッ」

『オリバーさんは、私たちをここへ案内したかったようですね。なになに……ここならゆっくり休めるぞ、自分が見張っているから、だそうですが』


 ……ふうん。

 オリバーもたまには、粋なことをしてくれるな。


「ワンッ!」

「よしよし、いい子いい子……うん。そういうことなら、ここで少し休んでいこうかな」

「うー?」

「うー!」


 クリスさんとイリーナちゃんをそれぞれ地面におろし、ようやく一息つけた。

 まさしく肩の荷が降りたようだ。


 それに腕に痺れるような感覚がある。

 こんな小さな子でも、抱っこって疲れるんだな……。


「ふう……疲れた」

「うきゃうや?」

「うややや?」

「ふふ、何さ二人とも……真似してるの?」

「「うやー」」


 木の幹に寄りかかるようにして腰を下ろす。

 すると、二人と一匹と一羽も──単位にすると多いな──自然に近くに寄って来た。



 クリスさんとイリーナちゃんが、それぞれ私に寄りかかるようにして横になる。

 クーポくんも、近くで文字通りに羽を休めている。

 オリバーはほんの少し離れたところでうつ伏せになり、周りに気を配っていた……番犬のつもりだろうか。


 可愛いやつめ。

 あとでたっぷり労ってあげなければ。


「ふああ…………ねむ」


 落ち着くと、途端に眠気がやってきた。

 抗いきれないそれは決して不快ではなく……ゆっくりと、私を安寧に誘っていく。


 クリスさんが元に戻ったら、またここに一緒にきてみようかな、とか。

 そんなことを考えながら……目を、閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ