面倒見のいいことで
「ぁぅー」
「きゃぅっ!」
「……どうすっかなあ」
ああは言ったものの、実際どうしたものか。
ルーシーちゃん曰く三日──それより短くなるかもしれないが──の間、本当に私が二人の面倒を見切れるのか?
「うー?」
「ぶー!」
……無理だろう、というのが正直なところだった。
資材も財も限られる学園内で、慣れていない私が歩くのもままならない赤子二人の世話をする。
トイレ、というかおむつはどうする? 食事は? 何らかの事故が起こらないという保証は? ……心配どころをあげればきりがない。
まあ、つまりは……。
『不安なんですね、マリー様』
「まあね……」
『誰よりも動揺しているのはマリー様でしょう。あいにくと、私には大したことはできませんが……私にできることがあれば、なんなりと』
「……ありがと、クーポくん」
いつのまにか回復していた喋る鶏は、励ますようにそう言った。
アボカドはルーシーちゃんが持っていったので、彼に関してはもう心配はいらないだろう……そのアボカドの入手経路は気になるところだが。
自生してるのかな。
「きゃきゃきゃきゃっ!」
「うぅー……うー……!」
「ああ、喧嘩しないで……イリーナちゃん、クリスさんを叩かないの」
「むー?」
じゃれているだけだよ、みたいな顔をするイリーナちゃん。
まあクリスさんの方も、本気で嫌がっているわけではなさそうだし別にいいか……。
「んー….」
さて、これからどうしよう。
三日間この部屋に幽閉ってわけには流石にいかない……食べ物も水もないし、どこかで外に出なければ。
しかし、私があの二人を同時に抱いて外に出られるか? いや無理だ。
そんなの絶対怪我させる。
後悔はしたくない。
何かいい手は……。
『……おや? 何か、変な音がしませんか?』
「え? ……ほんとだ、なんか聞こえる。ドアの外……? クーポくん、ちょっと二人を見てて」
『了解しました』
耳を澄ましてみると、確かに何だか聞き慣れない音が聞こえてきた。
カサカサというかカリカリというか……ネズミ? ゴキブリ? いや、そういうものではないような……。
「だーれだ……ってうわっ!?」
訝しみながらもドアを開けた途端、外から茶色の物体が飛び込んできた。
突然のことに面食らい、思わず後ろに倒れ込んでしまう。
じんわりと痛む腰、嗅ぎ慣れたにおい、思わず前に伸ばした手に触れるふわっとした感覚……。
「ワフ」
「お、オリバー!?」
そう、オリバーだった。
ここはイリーナちゃんの部屋なのだが……というか、寮の中には入らないように何度も言いつけたはずなのだが。
どうしてここに、なぜわかった、よりによってなんでこのタイミングで。
オリバーは混乱する私の顔をぺろりと舐め、そのまま飛び越えて部屋の奥に向かう……。
「クゥン……」
「ちょ、ま……待て待って! 今そっち行っちゃ……」
「きゃーーーーーっ!」
「ぎゃぁぁぁぁぁっ!?」
遅かった。
イリーナちゃんの歓声とクリスさんの悲鳴が部屋にこだまする。
そりゃそうだよ、小さくなってたって二人は二人なんだから。
動物好きのイリーナちゃんと犬嫌いのクリスさん。
反応が年相応なだけに、余計にやかましい。
「……って、あれ?」
「ふぐぅぅぅぅ……うううう……!」
「あーはいはい、怖かったねーごめんねクリスさん……よしよし」
「うー!」
「単純だな」
案の定というか、ボロ泣きして私の足に纏わりついてくるクリスさん。
ゆっくりと抱き上げ、なんとか機嫌をとる……これはむしろこのままの方が楽かもしれない。
大人になると、変にへそを曲げる分宥めるのが大変だからなあ……。
「きゃぁぅ、うー、うきゃきゃっ!」
「ワフ、ワン。ワワンッ!」
「きゃーーーーっ!!」
そしてイリーナちゃん、大歓喜。
どっしりと構えてイリーナちゃんの相手をするオリバー。
……あの犬、私より赤ちゃんの扱い上手くないか?
いや、当然なのか?
私が生まれた時からオリバーはいたんだもんな。
でも私って、そんなに赤ちゃんっぽかったかなあ……?
もうそんなに覚えてないけど…………あ、そうだ。
『……マリー様? 何を……?』
「いや……ほら、あれをああしたらさ」
『そ、それは流石に……!』
「ワンチャン行けない? 犬だけに」
いや、うん。
危険というか、良い子は真似しないでねって感じなんだけど……あいつならやれる気がする。
というかいける。
私も幼少期に同じことをやった記憶があるからだ。
『……オリバーさん、どうでしょうか』
「ワワフッ」
『ああ、問題ないそうですよ』
「意思疎通取れるの?」
犬と鶏なのに。
ちょっと羨ましい。
まあいい、とにかくオリバーが良いというならやってみよう……良い子は真似しないでね。
***
「漫画かよ」
『上手くいくものなんですねえ……』
「ワフッ」
「きゃーーい!」
クリスさんを抱いた私。
隣を歩く喋る鶏。
そしてオリバーがその更に横を歩く……イリーナちゃんを上に乗せて。
乗用馬ならぬ乗用犬。
まさか本当に上手くいくとは……。
「えっ……なにあれ?」
「か、隠し子か……? 隣のは何だ?」
「ねえ、あの鶏喋ってない?」
「きゃー! かーわーいーいー! なんか乗ってるー!!」
寮の部屋を出た瞬間、どこからともなく現れた野次馬に囲まれた。
そりゃそうである。
この世界にスマホとSNSがあれば、間違いなくバズれるだろう。
炎上するかもしれないが。
本人、というか本犬に許可は取ってあります。
「あー……まあ、さっさと用を済ませよっか」
『ですね』
「ワンッ」
水と、赤ちゃんが食べられるもの。
あとはおむつの代わりになるもの。
他は……まああとで考えればいいか。
「落ちないでね、イリーナちゃん」
「あぅー!」
「クリスさんも、あんまり暴れないで」
「うー? うぅ」
目の前にある金髪を軽く撫でる。
不安はあるが、ひとまず出発だ。




