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悪役令嬢に百合営業をしかけたら本気にされてペットにされました  作者: らびえ
番外編

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さらば愛しき鶏紳士……?

「──ぅぁー。あぅー?」


 ……誰かの、声が聞こえる。

 まるで幼い子供のように、拙さとあどけなさが混じる声。



 しかし、どうにも体が重い。

 そんな他愛もない思考もまた、鈍重な眠気に吸い寄せられていく……。


「…………ぐぅ」

「あうぅー? うー!」

「ぐぁっ!? な、なんっ、なにっ!?」


 閉じ直した瞼に、何か細いものが突っ込まれた。

 痛みと、それまで大して気にならなかった異様な体の重さが私の意識を覚醒に導く。


「うぅー」

「は? えっと、あれ……?」


 痛みからか涙が滲む景色。

 見慣れた天井、そして視界に入る金髪。

 昨日の夜と同じ色だが、昨日とは何かが違う。


 そう、それは単なる違和感で片付けられるものではなく……。


「あぶぅ」

「?????」


 寝起きの頭にはてなが浮かんだ。


 赤ちゃんだ。そう見える。

 大して長さはない金髪に金眼、成人と比べてややふっくらとしたその顔つき。

 小さな体はまるで猫か何かのようで、私のお腹の上でぱたぱたと暴れる。


 ……私のよく知る『彼女』にどこか重なって見えるのは、気のせいだろうか?

 気のせいだよな……?


「うぅ……」

「わ、な、なになに? ちょま、叩かないで……分かった分かった起きるから! やめてって!」

「うー!」


 ひとまず、仰向けの体勢からなんとか起き上がらなければ。


 そう考えて腕を伸ばし、赤子の両脇の下あたりを掴む……赤ちゃんの抱き上げ方って、これでいいんだっけか。

 分からない。

 

 見たところ首も腰もしっかりしているようだし、大丈夫だと信じて持ち上げた。

 腕の力でなんとかその子を脇に置き、ベッドの上に座り込む。


「はあ……んで、君は誰? どこから来たの?」

「ばぶう」

「分からん……いや、伝わるわけないよね。というか、クリスさんは……?」


 部屋を見渡しても、愛しい彼女の姿は見えない。

 先ほど抱いた疑念も、謎の現実味を帯びてきてしまうが……いやいや、いくらなんでもそんなわけ。


「あーぃ」

「…………」


 もったりと手を上に挙げ、拙い言葉で返事のようなものをあげる少女、いや幼女? というか女の子だよね?

 そのタイミングになんだか不安を後押しされ、ほぼ反射的に彼女を抱き上げて部屋を出た。






 ***






『わーっ! やめてくださいイリーナ様、困ります! 困りますイリーナ様! 困りますっ! いやーっ! 困ーっ!!』

「うきゃきゃきゃきゃきゃ! うーー!!」


 なんとなく予想はしていた、しかし現実であって欲しくはなかった。

 フリではない。


『あっ、マリー様! お願いです助けてください! このままでは私の羽が、肉が、手羽先があっ!』

「むぅーっ!」


 金髪の赤子を抱いて私が向かったのは、イリーナちゃんが寝泊まりしている部屋だ。

 異様にハイハイの速度が速い赤ちゃんが喋る鶏を追いかけるという、情報量の多い光景。



 疑惑はもう、ほぼ確信に変わったと言ってもいい。


「はあ……イリーナちゃん?」

「うきゃ?」


 そう声をかけると、鶏……クーポくんを追いかけていたほうの赤ちゃんがこっちを向いた。

 そして、ぱたぱたとこちらに向かってくる。


「よーしよし、怖くないからねー。……さて」


 黒髪の彼女を撫でたのち、金髪の赤子をもう一度見る。

 バイアスもあるかもしれないが、確かにクリスさんの顔に似ていた。


 いや、というか多分……本人だろう。

 それを認識し、半ば確信のようなものを抱いて、再び立ち上がる。


『ま、マリー様? 何を?』

「ああ、大丈夫大丈夫。呼べば来るでしょ、あの子は」

『あの子……?』


 二人は……ひとまず床に座らせておこう。

 きょとんとした顔でこちらを見上げる仕草はなんとも可愛らしいが、しかし今は愛でている場合ではない。


 なすべきことをするまでだ。

 怪訝そうな声をあげる鶏と二人の赤子に背を向けて、室内にある窓をがらりと開ける。

 朝方の眩しい太陽光に心地よい風。うん、今日もいい天気だ。


「はあ…………すぅ……」


 ぎりぎりまで肺から息を出し切り、新鮮な空気をたっぷりと吸い込む。

 吸いすぎず、八割ほどで止めるのがポイントだ。


 そして、口を大きく開く。体は反らしすぎないように、お腹にしっかりと力を込めて……叫ぶ。


「るーーーしーーーちゃーーーーん!! 戻って、こぉぉぉーーいっ!!!」






 ***






「もぐもぐ……やっほー、マリーちゃん。どうしたのさ、朝から叫んで……」

「おら確保じゃ確保」

『大人しくお縄につきなさい』

「えっ? な、何!?」


 開け放った窓から入ってきた白髪少女を、クーポくんと協力して拘束する。

 流石の彼女も面食らったようで、手から謎の緑色の物体が落ちた……すごい気になる、主にそれを食べていたであろうことはものすごく気になるが、ひとまず今はそれではない。


「白々しいことを……いいからとっとと白状しなさい!」

『親子丼でも食べますか?』

「は、白状も何も分からないし……親子丼? ねえそれどの意味で? 仮に鶏肉と鶏卵だった場合、キミが食べられることにならないか……っていうか待て待ってなんで鶏が喋って」


 ツッコミどころが多すぎる、そんな顔をするルーシーちゃん。

 だが知らん。

 その困惑の原因の八割は私の管轄ではない。


「ほら、あれ」

『あれですよ』

「あれ……? …………え?」


 ようやく現状を理解してもらえたようだ。

 しかし、やはりというか何というか混乱している……犯人じゃなかったのか?

 ほぼ、というか絶対、彼女の仕業だと思っていたのだが。

 というか他の原因には皆目見当もつかない。


「言ってる意味、分かった?」

「う、うん……ええ? ねえマリーちゃん、あの子たちって……」

「状況証拠的にはまあ、本人だと思う。というか、心当たりはないの?」


 私のその言葉に、考え込むようにするルーシーちゃん。

 ……それはともかく、床に落ちた緑色の物体の正体が今更気になってきた。

 なんらかの果実、いや野菜? なんだか見たこともあるような、今世より前世でしばしば見かけた……なんだっけ……?



 ……いや、どうでもいい。どうでもいいということにしておこう。


「……あー……? もしかして……いや、そんなことあるかなあ……?」

「ん、あ、え? なにかあった?」

「仮説程度だけど。ちょっと詳しく調べてみてもいいかな?」

「ああ、うん。もちろん」


 拒む理由もない。

 あっさりと私たちの拘束を振り解き、二人のもとに歩み寄るルーシーちゃん。


 私はというと、齧られた緑色の物体を拾い上げたところだ。

 うん、やはり何かの果実……見覚えはあるが微かにどこか違うような気のする外見。

 この世界特有のものだろうか。


『マリー様、それは……うっ!?』

「ん? クーポくん、どうかした?」

『な、なぜでしょう……なんだか息苦しい、ような……? 本能、でしょうか……』


 急に体を縮こまらせ、さも苦しそうにするクーポくん。


 だが、特に何か変わったことをしたようには見えなかった。

 原因があるとすれば、私が今手に持っている果実だが……落ちた場所はクーポくんからやや離れた場所であったし、そんな程度で影響があるとも思えない。


 なんだろう、トラウマか何かだろうか。


「ねえ、ルーシーちゃん? これ何?」

「うん? ……ああ、アボカドだけど」

「アボカド」


 アボカド。

 アボカド?

 ほわいあぼかど?


「おいしいよ?」

「えっあっうん……そうだね?」


 どこをツッコめばいいだろう。

 早朝にアボカド食べながら飛んでくる吸血鬼の存在そのものだろうか。

 おおよそ全てじゃねえか。


『い、息が……ガクッ』

「よっしゃ照り焼きにしよう照り焼き」


 く、クーポくーん!

 ちくしょう誰がこんなことを!



 そうだ、アボカドって人間以外には駄目なんだっけ? ……食べたわけではないと思うんだけど。


「マリーちゃん、本音と建前が」

「りかっういつ。んめごんめご」

「逆だねえ、言葉も」


 倒置法。

 ことばってむずかしいね。


「まあ、それは置いといて。ルーシーちゃん、何か分かったの?」

「一応はね。見たところ、あの子たちは幼児化したクリスちゃんとイリーナちゃんで間違いなさそう……原因の細かいところは不明だけれど、推測するに昨日の催眠魔法の副作用じゃないかな」

「さ、催眠魔法?」

「ボクが、あの二人を眠らせてたでしょ? あれ」


 そういえばそんなこともあったような。

 いやしかし、本当にそんなことが……?


「な、治る見込みはあるの? まさかずっとあのままなんてことは……!」

「それは大丈夫だよ。魔法ってのは基本、永続的なものじゃないからさ。個人差もあると思うけど、三日もあれば自然に治るんじゃないかな」

「そう? うーん……」


 三日。

 長くはないが、それでも短いとは言い難い。

 少なくともその間、二人からは目が離せない……赤ちゃんとはそういう生き物だろう。


「ごめんね、ボクのミスだ。魔法の効力の一部が、遅れて脳や身体中の細胞に予想外の作用をもたらしたんだと思う」

「い、いや……でも」


 元はと言えば、私の責任もある。

 あの状況になった原因の一部は私にもあるのだ。

 彼女を責めるのはお門違いだろう。


「ひとまず、色々調べてみる。別の魔法や他の技術で、治りを早くできないか……ほんの少しだけ時間を頂戴。その間、なにか不都合があったらいつでも呼んで」

「……うん。ありがとう」

「お礼なんていいよ、当たり前のことだもん」


 とにかく、そういうことだ。

 三日間……それ以上かも以下かもしれないが、とにかく治るまでの期間は私があの二人を守らなきゃ。



 二人の方を見る。

 四つのつぶらな瞳が見つめ返してきた。


「クリスさん、イリーナちゃん。おいで」

「うきゃ!」

「うー?」


 ……一歳やそこらの赤ちゃんに、『さん』付けってどうなんだろうか。

 別にいいけど。


「よしよし、いい子いい子……っと。それじゃあルーシーちゃん、そっちはお願い」

「うん、任せて」


 まあ、こんな経験滅多にできるものでもない。

 三日間、せいぜい頑張るとしよう。

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