転生……?
すっごく、眠いような感覚。
あたま……からだ……うで、あし?
……あー……うん、よし起きた。
目がしょぼしょぼして、喉はからからで、耳もなんだか聞こえづらい。
そんなよくある感覚と共に、私は目覚めた。
……あれ? 起きた?
なんか、死んだような気がしたんだけどな。
さっき散々死亡フラグ立てて大方の予想通りトラックに轢かれて……いやだっせえ。
かませ犬かな?
うーん、まあいっか。
全く、悪夢にしても芸がないな。
自分が死ぬ夢なんざ珍しくもないが、あんなの捻りもなにもない。
死因トラックなんて見飽きたぞ。
全くもう、転生ものじゃあるまいし。
とにかく、周りを見回す。
そこには見覚えのある家の天井、使っていくうちに少しずつ潰れてきた布団、そんな当たり前の朝の光景が広がって…………いなかった………………?
「……えっ、と? どこだここは? あれー?」
誘拐とかの類、でもない。
確かにそこは知らない場所ではあったが、なんというか……知ってはいけないというか、知りたくもないというか。
辺り一面真っ白で壁も床も天井もなにもなく、光もないのに明るくて、いるだけで気が狂いそうになる。
そんな、超常的な風景。
「うーん、えっと……夢……? ならば、どれほどよかったでしょう……?」
聞いたことのあるフレーズでごまかそうとするが、いやごまかしきれないぞこれ。
体の感覚も頭の感じもしっかりしすぎている。これが夢ならえらい想像力だ、近年のVRでもここまでじゃない。
フルダイブには早すぎるだろう。
つまりこれは、このどう考えても科学的とは呼べない空間は……現実??
……あー?
あーーーーーー?
えっと、えっとだな。
うん。まず私、死んだよね?
体の骨がバッキバキになる感覚とか、出したくも無い汚い声が喉と肺から漏れ出た音、内臓が……いややっぱいいや。
とにかく、死んだ感覚を覚えている。
つまりあれも、現実。
……そういうことか?
ベタな展開ってやつか?
使い古されたネタなのか??
スライムになったり最強だったりスローライフを送ったりしちゃうのか!?
普通に嫌だよ!
「ああ、最近の人間は理解が早くて助かる」
そこに、見覚えのない人影があらわれた。
精一杯目を凝らしても、輪郭が捉えきれない不思議な感覚。
夢ではないのは多分間違いないし、このどことなく感じる異常性。
つまりあれは……あれはまさか、神ってやつなのか!?
「何で知ってるんだよ……ったく」
え? 心読まれた?
半分冗談のつもりだったんだけど、まさか本当に神なのか?
「心ぐらい読める。その通りだと言っておこう」
で、出たーーー!
近年のフィクション作品でよくある、すごい抽象的な神ってやつだーーー!!
ありふれすぎだろオリジナリティとか無えのかああん!!?
「やめろ、あまりそういうことを言うな」
「言うというか思っただけなんだけど……で、結局これは転生ってことでいいんですか? 神よ」
「ああ。……その敬意も何もない態度については、ひとまず不問に付してやろう」
「さすが神(笑)! 太っ腹!」
「(笑)を付けるな」
うん、だってさ。
『転生』ってことは、もうほぼ疑いようもなく私死んでるからさ。
「死んでるぞ」
返答ありがとよ。
クソが。
「それで? 私を転生させてどうする気?」
「いやどうするというか……転生させるだけだぞ。アフターケアには期待するな」
「そういうことでもない……けどそれはそれで聞き流せないぞ、そんなやり逃げみたいな」
「やり逃げ言うな」
「だってほら、多分全人類を見境なくこうして転生させるわけではないんでしょ?」
「そりゃ、そんなことは無いが。時間も力も有限だからな」
「それじゃあなんで私? まさか本当に、ベタな死に方をしたからってこと?」
トラックに轢かれた人間は転生させる決まりなのか?
だとしたらトラック強すぎでしょ。
衝突時のエネルギーによって異世界への扉が開くのか、スゴイナー。
「違う……とも、言いがたいな。その、なんというか……お前の死に方が……」
「死に方がなんだって?」
「死に方がなんというか……哀れというか」
「……それで?」
「せめてもの情けとして、好きなところに転生させてあげようと。もちろん記憶はそのまま」
「ええ……」
なんか釈然としないなあ。
好きなところって……ええ……?
「…………」
「な、何? 人の顔じっと見つめて」
「いや……まさかとは思うが、自分の死に方に自覚とか……ないのか。そうか……」
え? 自覚?
交通事故から猫を庇って、トラックに轢かれたんだよな?
気を失ったりしたわけでもないし、はっきりと覚えていると思うが。
「そこだよ」
うん?
なんか変なこと言った?
「いや、猫を庇ったってところがな?」
それが?
「……ビニール袋」
「……は? ビニール?」
「お前が猫って言ってたやつな……ただの、白いビニール袋だったんだわ」
「…………………………???」
えっと……ええ?
ビニール……袋……?
つまり?
つまり、なんだ?
私は、ビニール袋のせいで……というかそれを猫と勘違いした自分のお粗末な頭のせいで……命を落とした、と?
「……そうなる、な」
「…………」
うん……なんというか、ごめん。
全ての生命に対して。
お父さんお母さん、あなたの娘はビニール袋のせいで命を落としました。
「まあそんなわけで……君はおそらく全人類の中で初めて、ビニール袋が原因でトラックに轢かれたわけだが」
「そんなわけでって何? そこの二つに相関関係ができることある???」
私の人生なんだったんだ。
誰かを救ったわけでもなく、ましてや自分で死のうと思ったわけでもなく。
ビニール袋で、ビニール袋のために、命を落とした。
それがあまりにも無様だったから、転生させてやろうと。
「まあそうなるな。……ちょ、痛い痛い、殴るな神を殴るんじゃない」
「……知らぬが仏、とかさ。お前に良心はないのか、というかさぁ? なあ??」
「はは、知らぬが仏? 私はかm……いっだぁっちょっまっ許してごめんごめんごめんて」
つい手が出た。
足も出た。
だが私は謝らない。
というか、神でも殴られたら痛いのか……どうでもいいけど……。
「──んで、それで? 具体的にどういうものなのさ、この場合の転生って」
「無駄に切り替えが早い……。まあいい、転生な。あー、まあ大体お前がイメージしてるのと同じようなものだと思うぞ? 輪廻転生、巡り巡って異なる命に宿る方の転生ではなく、記憶を保ったまま……自分を自分として保ったまま、他の体に生まれ変わる転生。……さてどうする? 望みの世界があるなら、聞いてやらんでも無いぞ?」
「望みの世界……ねえ? 例えば?」
サンドバッグを殴って多少は落ち着いたが、冷静になればなるほど訳のわからない状況なのは変わらない。
例えば……そう、提案とか欲しい。
「世界最強の戦士になりたいとか、世界を救う勇者になりたいとかそんなものか?」
「厨二病かな?」
あいにくと戦士も勇者もごめんだな。
そういうのって、普通にめんどくさそうだし。
「いいだろ別に……それで? 何かあるのか?」
とは言ってもなあ。
特にはない……ああ……いや? どうせ、もう後戻りはできないなら。
「……ゲーム」
「え?」
「ゲームの世界とか、できる?」
そう、そうだ。
ゲームだ。
あるじゃないか、ピッタリのゲームが!
「ゲームというと……あれか? ええと、お前の記憶にやけに強く焼きついているらしい、あの恋愛? だかなんだかの……」
「そう、それ! 流石神(笑)! それだよ、私はそれがいい!」
どうせなら、だ。
あの平和な恋愛ゲームの世界、そこに文字通り浸ってみるのも一興なのでは?
夢女子ってやつだ。
「お、おう……? テンション高いな? じゃあお前の記憶を解析して世界を創造、その上で適当な人物を創り出して当てはめるがそれでいいか?」
「うんうん、分かってるねえ。さすがは神、オタク趣味にも理解があるぅ」
自分が主人公や登場人物になるのも悪くは無いが、それ以上に『自分自身』としてその世界に入り込みたいという欲望な。
それを理解しているとはなかなかの手練れだ。
自分という、全く新しい別のキャラ……それでこそifルート、それでこそ夢小説!
夢が広がる……。
「嬉しくねえ……まあいいさ、やってやるよ。一応言っておくが、後になって文句は言うなよ?」
「もちろん! 創る世界、間違えないでよ?」
「はは、留意しておくよ」
まあ、大丈夫だろう。
私の人生であれ以上にプレイして熱中したゲームは確かないし。
「転生先は乙女ゲームの世界。人物たちの関係などはなるべくそのままに保ちつつ、新しくお前という人物を作り、当てはめる。どうなるかもどういった道を辿るかもお前次第……それでいいか?」
「……いいね、最高だよ」
「全く……大仕事だ。ちょっと待ってろ」
そう言って、神はどこかに引っ込んだ。
まさしく神出鬼没というか神出神没、超常的という言葉がこれほど当てはまるのも珍しい。
そして程なくして……。
「よし、できたぞ」
と声がして、気がついたら後ろに立っていた。
なぜ後ろに……まあいい。
どことなくしたり顔で、なんだか地球儀みたいなものを差し出してくる。
「これを……?」
「世界の……あー、抽象みたいなものだ、少し触れればいい。それで魂が吸い取られ、転生がなされる」
「吸い取られるって……なんか怖いな。ともかく、ありがとね」
「……ほーん」
「……どうした?」
お、なんだなんだ?
突然のデレか?
悪いがお断りだぞ?
「……いや」
「え?」
「お前、感謝とかできたんだな」
…………台無しだ。




