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悪役令嬢に百合営業をしかけたら本気にされてペットにされました  作者: らびえ
番外編

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鶏紳士、現世に現る

 ひとまず屋敷の中に戻り、少し遅くなったが朝食をいただく。

 オリバーとニチャンさん、ジモーさんはまだ外だ。楽しそうに戯れている声が聞こえる。

 ……あとで私も混ぜてもらおうかな。


「…………」


 この場に言葉はない。

 かちゃ、かちゃと小さく食器が奏でる音色、それより遥かに小さな息や鼓動の音が響くだけ。

 決して険悪ではない沈黙は、ちょっとだけ贅沢な朝の時間にはふさわしく……。


「マリーさん、マリーさん」

「んえ? どうかしたの、クリスさん」


 そんな無駄に格好つけた情景描写は、耳心地の良い聞き慣れた声に邪魔された。

 けれど彼女はすぐに何かを言うでもなく、ただこちらをじっと見つめている。



 ……なんだ?

 何をする気だ?

 いや、私は知っている。クリスさんのこの顔は……何かを企んでいる顔だ……!


「……にゃ、にゃーん」

「……? …………。……!?!!!?!!?!!!!!?」


 困惑、思考、驚愕。

 お手本のような感情の三段活用。



 クリスさ、にゃって、あれ、あの、幻聴か??


「ん、んんっ……ふう。ぅにゃあ?」

「んぅぐっ!? がふっ、げふっあふっ……んっごふっ!? な、けほっ……なにクリスさん、なにを……!」


 まさかの追撃。

 しかも少し首を傾げて、猫のポーズ付きである。ポーズ付きである!!!


 心臓が三回は止まったかもしれない。

 寿命が百年は伸び縮みしただろう。

 少なくとも思いっきりむせた。


「あらあら、見なさいアル。あのクリスがあんなに素直に甘えているわよ」

「ええ、奥様……うぅ。なぜでしょう、自分のことでもないのに嬉し涙が……」

「ちょ、お、お母様! それにアル!! 茶化すのはやめなさい、これはその、私なりに真面目に!」

「真面目……?」


 どういう方向性の真面目……?

 セルフ羞恥プレイ……?



 いや、うん、誰も不幸にはなってないしまあいいか。

 ごちそうさまでした。


「ふふふ、マリーちゃん……うちの猫ちゃんをよろしくね?」

「あっはい」

「だ、だからそういうことではなく……! ああもう!」


 よほど恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にしてバタバタと手足を動かすクリスさん。

 しかしどう足掻いても、どう考えても自滅である。

 私にとってはご褒美でしかなかった。


「そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃない。ただちょっと、マリーちゃんを元気付けたかっただけなんでしょう?」

「え? 私を?」

「ぁぅ……いや……あの」

「流石は私の娘ね、自分の魅せ方をよーく分かってるわ」


 クレアさんのその言葉の真意は、よく分からなかった。

 とりあえずクリスさん可愛い。

 それが世界の真実だろう。



 とはいえクリスさんも黙りこくってしまったので、ひとまず食事に戻ろうかな。

 色々と聞くのは後だ。


 そうして蘇った静寂、こんな朝も悪くない──そう、再び謎の感傷に浸りかけた時。


「コケーーーーーーーーッ!!!!」

「「「「!!?」」」」


 けたたましく聞き慣れない声が、沈黙を破った。

 あまりに唐突に、開いていた窓から『それ』は室内に侵入してくる。


「コッコッコッ……」


 そして、さも当然のように室内を闊歩し始めた。

 まるでそうするのが当然かのように。


「あ、あら〜……な、何かしら……?」

「ななっなななななぜ!? どこから!? 奥様お嬢様マリー様、とりあえずあまり近付かないで……!」

「心配しすぎですよ、アル。とはいえそうですね、マリーさんはとりあえず私のスカートの中に隠れていてくださいね」

「あ、うん……いやどこに隠そうとしてるのクリスさん!」


 ツッコミにもいまいちキレが入らない。

 全員見事に目を丸くしている。



 一応その生物そのものは、私も知っている形のそれであった。

 実際に見たことも何度かだがある。

 

 テンプレ的な鳴き声に、丸っとしたフォルム。

 大きく立派なとさかに多分飛べはしない羽、綺麗な色の嘴にペタペタと床を叩く足──要するに、元の世界で言う鶏である。

 飛べない鶏、ただの鶏だ。



 ……いや、雰囲気からして『ただの』ではないけども。

 なんだかやけに肝が据わっている……鶏はその場にいた全員を一瞥し、そして。


「コッコ。コケー」


 真っ先に、私の元へやってきた。

 その嘴をよく見ると……何か、小さいものを咥えている……?


「え、あ、なにこれ? くれるの?」

「コココ」

「あ、ありがとう……」


 やつは飛べないくせに器用にテーブルに跳び乗り、そのままペタペタと歩いてきて私の前にそれを置いた。


 なんか、全体的に妙に動きが紳士的である。

 鶏なのになぜそう感じるんだろう?

 まるで人間を見ているようだ。


 動きの細やかさ、それに歩き方? とにかくどことなく頭の良さそうな雰囲気を感じる、不思議な鶏だ。

 無意味に歩いてお皿を踏んだりすることもなく、ただじっと私のことを見つめて……。


「あの、マリーさん……?」

「えっと……ま、マリーちゃんは鶏さんともお友達なのね……?」

「マリー様……なるほど?」

「い、いや、私も何も知らないよ! 知らないって! 何その『まあこいつならおかしくはないか』みたいな目は!!?」


 三人共に生ぬるい視線を向けられた。

 だが無実だ。

 おかしいものはいとおかし。

 少なくとも私の記憶内にこの鶏に関する記述はない。

 知らないったら知らない。


 というか鶏と友達ってなんだよ! ペットはオリバーだけでいいよ!

 なんなんだよこの無駄に凛々しくて賢そうな鶏は!!


『お褒めに預かり光栄です』

「うるせえ鶏は喋るな。喋るなったら喋るな。いいか? もうツッコミが足りないんだよ」

『は、はい……も、申し訳ございません』


 今はそれどころではない。

 いやほんとマジで。

 これ以上無駄な要素を増やさないでくれ、胃に穴が開く。


「ま、マリーさん……誰と話して……。いえ、まあいいです。それより、その紙は……」

「待ちなさいクリス。今のは『まあいい』で済ましていい事柄ではないわよ」

「ですが奥様、あの物体の正体も不明ですし……下手な憶測は危険なのでは……」

『心配しなくとも、怪しいものではありませんよ。お騒がせして申し訳ございません』

「「「や、やっぱり鶏が喋った……!?」」」


 はいはい、テンプレ的な反応はスルーだスルー。

 ツッコミは過労死しました。しんでしまうとはなさけあれ。


 それよりこの紙は……もしかして、手紙か?


『ええ、マリー様宛のお手紙でございます』

「ふーん、そうなの。ありがと」

「マリーさん?」

「マリーちゃん?」

「マリー様、反応が軽すぎでは?」


 いやあ、まあ……ねえ?

 色々疑念はあるけれど、ここはあの神(笑)が悪ふざけを交えて作った世界なのは間違いないだろうし。



 クリスさんとついでに私を襲ったあの忌々しい力とか、逆に救われた謎の薬とか、クリスさんやクレアさんの動きなどなど……はっきり言って意味不明なものも実際に見た。

 喋る鶏とか動物ぐらい、それと比べれば些事というか。

 敵意も殺意も感じず友好的なだけ、幾分とっつきやすいとすら言える。


「まあ、せっかく貰ったしとりあえず読むかな。誰からの手紙なの?」

『はい。そちら、我が愛すべき主人にして良き友人……イリーナ様より、直々にお預かりしたものとなっております』

「…………」

「い、イリーナさん……?」


 あー、うん、よし。

 愛すべき主人にして良き友人ね。

 流石恋愛ゲーの主人公、鶏まで口説き落とすとは。


 ……そこじゃないな。


 なんだろう、手段はともかくこのタイミングでのイリーナちゃんからの手紙……嫌な予感というか、一周回って当然なような気もなきにしもあらずにしろ…………ああもうなんでもいい。


 読むぞ。

 読むよ。

 読むしかない。

 ……読みたくない……!


 宛名もない非常に簡素な手紙、妙に雑な包装と一目しただけでガタガタなのが見てとれる字。

 それに早くも尋常じゃなさと不安を覚え、急ぎ文章に目を走らせる──。






 ***






『大変です! 大変大変犬変太変なんです、マリーさん!!!

 クーポさん、私のお友達のちょっと賢い鶏ちゃんにお手紙を運んでもらいましたが、なにか粗相をしていませんか!!?


 もしなにかあれば、即刻焼きと……いえやっぱりそんなことはどうでもいいです、大変なんですマリーさん!!



 オリバーくんがいなくなりました!

 いなくなっちゃったんです!

 いつも通り餌をあげようとしたら、紐が千切れていて!!



 ですがご安心ください!

 不肖このイリーナ、この責任はなんとしても取ります!

 この学園に入学してから築き上げた私の人脈を全て使い、草の根をわけても探し出しましょう!



 では、急がなくてはいけないのでこれで!

 急な手紙なので、ご無礼をお許しください!

 クリスさんにもよろしくお願いします!!!』

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