死亡フラグ
部屋着に上着を羽織り、財布と鞄だけ持って家を出る。
お金は、まだ以前やっていたバイト代が残っているので大丈夫だ。
めんどくさくなって辞めちゃったんだけど……ま、ゲームの一本ぐらいどうとでもなるだろう。
曇っているせいか、空は少し暗くなってきていた。
「うーん、これは降るかな……? まあ、ちゃっちゃと帰ろう」
少し歩くペースを早めようか……と思った矢先、信号が赤になる。
「……むう」
急いでいる時に限って信号が赤。そういうことはよくある。
苛つかされるがしかたがない。ルールを遵守してこその安全だ。
多少雨に降られたって、命には代えられないよね。
「うー……。……あれ?」
車道に何か白くて丸いものが落ちている。
いや、落ちているというかあれは……猫?
なんであんなところに?
「野良猫かな? 珍しい……でも、危なくない?」
なんか動いてるし、ひとまず生きてはいるようだが。
そのうちどっか行くかな……? いやでも、そんな長いこと待ってる余裕もないような……?
ここはあんまり交通量が多いわけじゃないけど、それでもたまには。
「……あっ」
まるで私のフラグに反応したかのように、来た。
しかも大きめのトラックだ。
轢かれたら確実に助からないぞ、あれ。
おーい、運転手ー?
気づいてるー?
あんたのそのトラックの進路、猫がいるぞ。
「止まれ……止まれって……!」
あ、だめだこれ。
減速しない、気づいてない。
信号は……まだ赤だ。
つまりあっちは青信号。止めるものは無い。
「ええ……」
正義感に任せて飛び出すか。
でもこれはあれだな? 猫助けようとしたら私が轢かれるやつだな?
それで全身大怪我ってか?
いや大怪我じゃ済まないだろうけど。
「……ふむ。でもまあ、いけるな」
だがしかし、私はそんなベタな展開は踏まない。
残念だったな!
そもそも、ここはそんな大きい道路じゃない。
猫を拾って退避するぐらいの時間はある(フラグ)
運動神経も悪い方じゃないし(フラグ)
大丈夫大丈夫。
こうしてあからさまな死亡フラグを乱立すれば、逆に生き残れるというフラグ!
これぞ忍法ギャグ式生存術!
よーし、イメトレ完了。
何、走って猫を拾って……それができなきゃどうにか追い払って、それで私も車道から退避。
それだけだ。
うん、それだけそれだけ…………。
「……痛っったあ!!?」
想定外は起きるものだなあ、とか呑気なことを考えている場合ではない。
轢かれたのだ。
ただしトラックではなく、人間に。
……なんで車道でマラソンしてんだ?
しかもあいつ、私のこと無視してどっか行った。
二度は見逃す仏ですらもたった一度でブチ切れることはあるだろうに。
それが命に関わる場面であれば尚更。
……ちがう、猫だよ!
猫はどこ行った!?
「ね……あ、いたあ。なんだ、心配させやがっ……て……?」
そう、猫はいた。
猫は確かにそこにいた。
ねこはいました。私の前に。
私の目の前も目の前、顔のすぐ近くに。
「……え?」
ちょっと整理しよう。
猫は車道の真ん中にいた。
トラックも、同じ道の真ん中を走っていた。
そして、その猫が今、私の目の前にいる……ということは?
「うわ……あ……?」
──何があったかを理解する間も無く……意識が闇に飲み込まれる。
苦しくなかったのは、せめてもの救いか。
いや救いようはないけどな。
そんなことを思いつつ。
「ぅぐぁっ?」
全てが、終わった。




