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悪役令嬢に百合営業をしかけたら本気にされてペットにされました  作者: らびえ
番外編

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番外編・はじまりはじまり

 前回までのあらすじ。



 清廉潔白な乙女であるところの私は、不運にも事故に見舞われ命を落としてしまう。

 だが前世で積み上げた数々の善行、神が裸足で逃げ出すほどに積まれた徳。それらは私を見放さなかった。

 なんと死後の空間で私はとある神に出会い、好きなところの好きな時代に生まれ変わる……俗に言う転生の機会を得たのだ!


 そこで私は、前世でプレイしていたとある乙女ゲーの世界へと転生することを選択。

 ただし主要人物としてではなく、原作では存在しなかった無名の人物として。言ってしまえばモブだ。


 なぜかって?

 それはもちろん、とある二人の百合えいぎょ……じゃなくて、恋愛というものは往々にして一定の下心を以て行うものであり前世では声もかけづらい高嶺の花として有名であった私がそんな庶民の遊びに付き合うわけにはいかないからだ。うん。



 まあそんなこんなで紆余曲折、さまざまなイフストーリーを挟んだ末に私はそこそこに充実した暮らしを…………あっちょっとどうしたのクリスさん? え? 何? 会いたかったから? そ、それはまことに嬉しいことではあるんだけどさ、ちょっとタイミングというか、プライベートというか、今ちょっと取り込んでてあの待って止まって縛るな押し倒すな待て待て待て待て!


 せめてドア閉めて。

 うん、そう。

 いくら私たちの交際が周知の事実だとは言え、学園の寮内でドア開けたままする(・・)のは色々と覚悟が決まりすぎてる。




 …………。

 あー。

 えーっと、うん。

 ごめん、八割方嘘。






 ***






 誰しも、心の内側に一つは仮面を持っているものだ。

 本来の自分を晒すのは別に全然悪いことではないが、それはそれ。

 見ず知らずの他人にまで自分の全てを明かすというのは、まあなかなかできることではないだろう。



 うん、まあ、なにが言いたいかというと。


「ふふ、どうしたんですかマリーさん。あ、これが噂の『賢者たいむ』というやつですか?」

「ねえ待ってどこで噂になってるのそれ。違う……と言い切れないのも腹立たしいな」


 ここにいるのは、私たち二人……私ことマリーともう一人、学園の高嶺の花(笑)ことクリスさんだ。

 なんで(笑)かって?

 いや、だってさ。


「すう…………ふう。マリーさんの匂い、落ち着きます」

「そりゃどうも……ひあっ!? ちょ、ま、手冷たいってクリスさん」

「あれ? そうですか?」

「うんうん。ほら、まだ早いんだし布団被ろう?」

「ふふ、積極的ですねえ」


 深夜に人の部屋に押し掛け、ちょっと文字では言い表せないような×××××(自主規制)をして、まるでよく懐いた子犬か何かのように私の髪の匂いを嗅ぎ触り。

 そんな高嶺の花がいるわけなかろう。

 ただの変態である。


「そういうんじゃないって……寒くなってきたんだしさ。風邪ひいてもあれだし」

「……ふふふ」

「どうかした?」

「いや……やっぱり、優しいなって。それでこそ、私の妻……だ、だよね?」

「……うん。そうだよ、クリスさん」


 私が妻。

 彼女(・・)も、妻だ。

 わざわざそこにケチをつけるような無粋な輩はここにはいない。


「マリーさ……あ、えっと……マリー」

「どうしたの、クリス」

「好きで……じゃない。好き。愛してる」

「ん……私も」


 とくり、とくりと心臓の音が聞こえる。

 大して広くはない布団の中で、お互い示し合わせたように距離を詰め……抱き合う。

 互いの腰に腕を回し、何も身につけていない肌を肌で温める。



 まあ、いつものことだ。

 慣れることはないし、慣れたいとも思わないが。

 それは決して悪い気分ではなく…………いや、取り繕うのはもうやめだ。



 私は、この子が……クリスが好きなのだ。

 どうしようもなく、好きなんだ。


 理由も理屈もいらないし、普通も異常も関係ない。

 陳腐で馬鹿げた言葉だけどそれでもあえて言うならば、『好き』って気持ちに優劣はないから。


「マリー……」

「何?」

「もし……もし。マリーが、私以外を……私、以外を…………っ」

「無駄な仮定はやめなよ、クリス。いつも言ってるでしょ? ……私は、クリスになら殺されたって構わない。いや、違うな……クリスになら何をされたって、どんなことをされたって、絶対に好きでい続けるから」


 私は、きっと。


「ぅあ……マリー、さん……」

「ふふ……。やっぱり、そっちが素なんだね」

「し、知りません……知らない。もう怒りました、お望み通りどんなことでもして……する……し、しちゃうんだからねっ!」

「……ん」


 ああ、もう。

 いつになっても、かわいいなあ。

 本当に。


「食べちゃいます。やっちゃいます。そっちがその気なら、もう口も聞けないくらいに……ぐっちゃぐちゃに、しちゃいますよ?」

「…………」


 その言葉に、言葉はいらない。

 ただ、薄い微笑みで返す。



 歪んだ愛も偏愛でも結構。

 どれだけ汚い欲望でも、私はそれを愛と呼ぼう。

 いつまででも、恋と描こう。


 だってこの子は『悪役令嬢』で、私はその『ペット』なんだから。

 何をされたって構わないし、そうでなくちゃ困る。


 それが。


「……あい、ですよね」






 ***






 きっと、愛に形はいらないのだろう。

 詭弁で偽善で欺瞞の虚飾でも、私はそう思っている。

 それで充分だ。


 一度は終わりかけたこの(ものがたり)、続くと言うなら続けてやろう。


 見せつけるように。

 確かめるように。


 これは、プロローグだ。

 これは、リスタートだ。

 番外編と言えば番外編で、蛇足といえば蛇足で、それでも多分生きている。

 そんな私の、私たちの、とても大事な記憶のかけらだ。


 それでもいいなら……。




「──クリスさん、ほら」

「んう……?」

「ほら……起きて」

「もう、なんですかマリーさ……ふあああ」

「なんでも何も……だって、もう授業始まっちゃうよ?」

「えっ……」




 ……まあ、のんびりと進もうか。

 いつか終わるのは知ってるけど、それがいつかなんて知らないし。


 ダラダラと、ゆっくりと、されど時々どきどきと。

 それが、人生ってものでしょう?






 知らんけど。

次回は『悪役令嬢に百合営業をしかけたら妻として相手の家族に紹介されました(仮タイトル)』です、お楽しみに。

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