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悪役令嬢に百合営業をしかけたら本気にされてペットにされました  作者: らびえ
本編

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終わりと

「あの……すみません、話って何を?」

「そうですね……うん。この辺りでいいでしょう」


 見知らぬ少女に連れられて、人気のないところまで少し歩く。

 そこで彼女が発した言葉に、耳を疑った。


「……異世界」

「!? な……え……?」


 聞き間違いか。

 いや、いっそそうあってほしい。


「死亡。転生。神……」

「……っ!! な、なに、を……」


 思わずしどろもどろになってしまう。

 脈拍が異常に高まり、手汗が滲む。

 核心を突いた言葉をこうも連発されては、何も返せるものがない。



 無論、隠してきたことだった。

 誰にも明かしたことはない。クリスさんに対してさえも。

 信じられるわけがないと思ったし、信じてほしくないとも思った。


 そもそも、そんな話に巻き込みたくもなかったし。

 終わったことで、過去だ。


「どうやら、身に覚えがあるようですね」

「う……」


 迂闊を自覚する。

 だが、だからと言って今更どうにもできない。


 知られているのだ。

 どうしようもなく。


「安心してください。あなたと私は同類です」

「……て、転生者……?」

「そうです」

「どうして……」


 どうして。

 その一言だけしか、馬鹿な私は伝えられない。


 どうして……どうして。

 なぜ彼女が、いやなぜ彼女は、どうして、どうしてどうして。

 何も、考えつかない。考えられない。


「……神」

「え?」

「あなたは、神に……あいつに会いましたか?」

「え、えっと……」


 あの神(笑)のことだよね。

 それ以外を指しているとは考えにくい。


「会ったのですね」

「……まあ、はい」


 もう隠す意味もないだろう。

 というか隠せない。

 自分が馬鹿すぎて笑える。笑えない。


「それなら話は早い。あなたは、どこまであれのことを知っていますか?」

「あれの……?」


 どこまでって、どういうことだろう?

 大したことは知らないが。


「教えてください。あれは、あなたに何を話しましたか?」

「何を……? えっと、私はトラックに轢かれて……死んで。そしたらあいつが出てきて、『かわいそうだから転生させてやる』とかなんとか……」


 もうかなり前のことなのであまり詳しくは覚えていないのだが、大方そんな感じだったはずだ。


「……それだけ、ですか?」


 それを聞いて、彼女は落胆を浮かべた。

 何かを聞き出そうとしたのだろうか? あいにく大した情報は持っていないのだが……。


「……あ」

「なんですか?」


 いや、一つだけあったか。

 これもまた、転生という事情以上に隠してきたこと。

 正直進んで明かしたくはないけれど、この期に及んで隠すことでもあるまい。


「そういえば、『どこにでも転生させてやる』とか言ってました。だから、『生前やってたゲームの世界』って言ったらここに」

「……ゲーム……?」


 始まりはそうだった。

 あやふやな記憶ではあるが、それは、それだけははっきりと記憶に残っている。


「うん。なんか色々細かいところは違うんだけど、大体は同じで……」


 ──そう口にした途端、彼女の雰囲気が一変したように見えた。


「それ、は……つまり、あなたが……っ」

「え?」


 わなわなと肩を震わせて。

 先ほどまでの穏やかな雰囲気はどこへやら、鋭い目を。


 ……憎悪に溢れた目を、向けてくる。


「あなたが、この世界を始めたんですね!?」

「……え?」

「クソが……ゆるさない。許せない。許さない許さない許さない許さないゆるさないっ!」

「ええっ!? な、何!?」


 激昂。罵倒。悪態。

 困惑するしかない。

 一体今の言葉のどこに、そんなに怒られることがあったんだ!?


「わからないんですか!?」

「え、うん、えと、全然」

「じゃあ、教えてあげます……この世界は、『遊び』なんですよ」

「あ、遊び……?」


 ゲーム?


「あいつは、あの神は! 死んだ命を一つ一つ選んでは、この世界に送って楽しんでいるんです!」

「ど……どういうこと?」

「まだ分からないの!? 『転生させてやる』なんて甘い言葉でうそぶいて! 転生させた命を好きなように弄んで、それを見て楽しんで……っ!!」

「そんな……っ。でも、なんで、そんなこと知って……」


 意味が分からない。

 いや、分かりたくもない。


「うるさい! あんたには関係ない!」

「そ、そんなこと言われても!」


 関係がない、そんなことはないだろう。

 そもそもそれならば、私だってただの同類に過ぎないじゃないか。

 ここまで激昂された理由が分からない。


「違う。あなたがいけないんですよ。あなたが、こんな世界を作りたいなんて言った……言ったんでしょ……? だからこんなに沢山の人たちが、あの子が……ずっと苦しんで……」


 ……いや、分かってはいるのか。


 彼女のそれは、哀哭だった。

 巻き込まれただけの人間の。



 巻き込みたくない? 終わった話? 過去のこと?

 違う。巻き込んでいる。終わってもいない。今のことだ。

 彼女はきっと、そう言っている。



 私があの時言ったこと。

 私があの時願ったこと。

 それで割を食った人が、苦しんだ人が……苦しまされた人がいる。


 ならそれは、その原因はなんだ。

 ……私じゃ、ないのか?


「……ぁ」

「責任を、とってもらいます」


 中空に光る何かが浮かんだ……火の玉?

 鬼火ってやつなのかな。

 いや、魔法か何かのようにも見える。


 熱くて、まぶしい。

 幻想的で、暴力的だ。


「本当なら苦しめて苦しめて、死を望むほどに苦しめて、その上で殺してやりたいところですが……いえ、そんなことすら面倒くさい。それすら生ぬるい。どうでもいい」

「…………」

「せめて、一瞬で!」


 死の前に、何を思うべきなんだろう。

 私のせい。私の責任。

 そんな言葉が重くのしかかる。


 もしかしたら、どこかで気づいていたのかもしれない。

 この世界で、私のわがままが元で生み出された世界で、誰かが悲しんだとしたら……苦しんだとしたら……死んだとしたら。


 それは、その原因を作ったのは私じゃないのか、なんて。

 そんなことに、薄々は気づいていたのかもしれない……いや、違うな。



 そんなの希望的観測だ。

 そんなのは自己弁護だ。


 気づいていなかった。

 知ろうともしなかった。

 やっぱ私は、ただの馬鹿だ。



 二度目の死、か。

 その記憶が、あの痛くて辛くて暗くて冷たくて嫌で嫌で嫌で嫌な感覚が、否応なしに私の思考を埋め尽くす。


 もう、少しも動けない、動く気すらも起きなくて。


「──あ、マリーさ……ま、マリーさん!?」


 そんな時、一つの声が場を揺らした。


 ……クリスさんだ。

 それにすら気づくのが遅れる。


 駄目だ。

 ここに来たら、来てしまったら。


「逃げて……クリスさん……」

「そんなこと言ってる場合ですか!? 一体なにが……あなたは! 私の、わたしのマリーさんに、何を……!」


 私の静止にも聞く耳を持たず、彼女がその射線(・・)に入ってきてしまう。


 それは。


「……どいてくださいよ。私は、その人を殺さないと」

「ころ……っ! 嫌です、どきません、絶対に! マリーさんは、マリーさんは……!」

「……っ! うるっさいっ!」


 耳鳴りとともに、私の体が何かによって弾け飛び……そして。


「…………ぁ、つ」


 どこかから漏れ出た声が耳に届く。


 火の玉が当たった。

 弾けた音がした。



 でも、なんの感触も……熱さもない。

 それなのに、焦げ臭さだけが鼻をつく。


 確かに弾けたはずだ。

 目の前で、花火のように。

 目の前、で…………。


「……………………え」


 どさり、と。

 聞き慣れたそんなオノマトペは、しかし何度も聞いたそれとは全然、ぜんぜん、違っていて。

 


 ……嘘。

 そんなの、嘘だ。


「クリスさん」


 彼女の体は、まるでボロ切れか何かのようにぐちゃっと地面に叩きつけられた。

 焦げ臭さも、いやな赤さも、全部、全部全部ぜんぶぜんぶそこから出ている。



 彼女は。

 私の、たったひとりの、いちばんだいじな……お嫁さんは。


「クリス、さん……?」


 全てを、失ったような気がした。

 視界が暗くなる。

 耳が聞こえなくなる。


 なんで。

 どうして……私は。

 私を。


「……っ! クリスさん! クリスさん、クリスさん、クリスさん……ねえっ! 起きてよ!」

「マリー、さん? どう、したんですか……」

「クリスさん、き、傷……!」


 焦げている。

 大きく、えぐれている。


 誰がどう見ても致命傷で。

 痛そうで、いや途轍もなく痛くて苦しい……はずなのに。


「ふふっ、こんなの……かすり傷、ですよ……? それよりマリーさん、怪我は……」

「私はない! 私は、ない、けど……!」

「……そうですか」


 良かったです。

 彼女は、そう言って笑って……目を閉じた。


 痛々しく。

 痛みを、こらえるように。

 痛みを、見せないように……。


「え……? う、嘘……違う、違う違う……ちがう。私は、わた、しは、こんなことがしたかったわけじゃ……ちがう、ちがうよ……」


 あの女が。

 あのゴミが、なんか言ってる。

 聞こえる。



 込み上げるのは、怒りだけ。

 憎悪だけ。


「違うよ……なんであなたは、そんな人を庇って……? 違う、違う違う違う、私は、そんな……」

「……人殺し」

「違う! わ、私が……」

「人殺し」

「ち、ちが……違う……! 私は、あんな奴らとは……」

「人殺し!」


 それしか言えなかった。

 それくらいしか口に出せなかった。


 溢れる怒りを、憎悪を、それくらいでしかぶつけられなくて。


「……っ! いや、いやああぁぁあぁああぁあっ!」

「待て! おいっ! 逃げるな、くそ、待て待て待て待て待てっ!! ……おま、えぇっ!」


 追いかけようとして、やめた。

 だって私の横には、まだ……彼女がいる。

 今にも消え去りそうな彼女が。


「クリス、さん……」


 へたりと、地面に座り込む。

 力が抜けた。

 もう、なにもできない。


「………………」

「ねえ、起きて、お願い……おきて……。や、あ、いやだ……いやだよ……」


 声も出してくれない。

 目も開けてくれない。


 馬鹿だ。

 無力だ。

 何もできない。


 握った手はもう、冷たくなりかけている。


「──マリーさん! すみません、クリスさんがこっちに……っ!? なっ……!」


 イリーナちゃんが、今更走ってきた。

 彼女は無事だった。……よかった。


 ……でも、もう。


「クリスさん! クリスさん、クリスさん!? なんで……私が、止められなかったから……?」


 イリーナちゃんも、取り乱す。

 いや、彼女のせいではない。


 クリスさんのことだ。

 戻りが遅い私を探しに行くと言って止まらなかっただろう。

 私なんかを。

 私のせいで……。



 ……そんな時、イリーナちゃんのポケットから、何かが落ちた。

 かつん、と軽い音に注意をひかれる。

 反射的に、手の届く距離に落ちたそれを拾った……。


「……これ、は?」

「え?」

「イリーナちゃん、これは……。この瓶、いつから持って……?」


 それは、一つの瓶だった。

 中には、透明な液体が詰まっている。


「え? ……ああ、さっき、知らない人にもらって……でも、そんなこと……!」


 そんなこと、今は関係ない。

 そう言おうとしたであろうイリーナちゃんが……固まる。


 私の手にある瓶を、そこに貼ってあるラベルを見たからだった。


「……イリーナちゃん。これ、誰にもらったの?」

「あ、えと、知らない女の人……髪が長くて真っ白で、すっごく綺麗な人でした。……知ってるんですか?」

「いや、知らない。……でも」


 知らない人でもいい。

 嘘でもいい。


 もう、頼れるものは他にないのだ。


「……使うんですか?」

「こんな傷、病院なんかじゃ治せない」


 その小さな瓶のラベルには、たった一つ。

 『万能薬』と、書いてあった。


「で、でも……」

「……っ!」


 藁にもすがる思い。

 今以上にこの言葉が似合う場面を、私は経験したことがなかった。



 意を決して、瓶の中身を大きな傷跡に……振りかける。

 大した量じゃない。

 ……でも。


「………………!!」


 聞いたこともない音が響く。


 万能薬──嘘くさい響き。

 藁にすがるどころか、それに文字通り命を託した……それでも。


「ぇ……ぁ……?」


 少しぐらい、いい。

 ご都合主義にも程がある。

 それでも……彼女の傷は、跡形もなく消え去っていた。


「……クリスさん」

「あれ……わたしは……」

「あ……ぅ……! クリスさん、クリスさん! 起きて……あは、あははは……!」


 涙と笑いが溢れる。

 必死に保っていた涙腺が決壊した。構いはしない。

 目を覚ました彼女を、思い切り抱きしめる。


「……ま、マリーさん!? ちょ、ちょっと、くすぐったいですよ……!」


 いいじゃんか、ちょっとぐらい。

 夢も希望もない現実でも。


 ほんの少しの奇跡ぐらい、くれたっていいだろ?

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