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悪役令嬢に百合営業をしかけたら本気にされてペットにされました  作者: らびえ
本編

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突然の

 暑い……熱い?

 どうして、こんなに。

 な、なんで……?


「……! ま、マリーさん!!」

「う……クリスさん? これは、どういう……」

「それは首輪です。……じゃなくて!」

 

 目覚めたと思ったら、何かが首元に巻き付いていた。

 やけに苦しいと思ったが……そりゃそうだ。ぎっちぎちである。


 なんで首輪? 私は犬か?


「そんなことはどうでもいいんです!」

「いや、どうでもよくは……」

「外! 見てください!」

「外?」


 妙に慌てているクリスさん。

 らしくもない。



 この寮の部屋には、小さめの窓が一つある。

 まあせいぜいちょっとだけ換気をしたり、後は外を眺めたりできる程度だが。


 そう、外を……眺めたり……。……え?


「な……燃え……て…………?」

「照れますね」

「その『萌え』じゃない!」


 いや、漫才してる場合か?



 だって、外が燃えているのだ。

 本当に。

 小窓から望めるだけでも、大変な大火である……家が、街が、火に包まれている。



 どうするんだよこれ?

 ……どうにも、できない?


「そんなこと言ってる場合じゃなくて。クリスさん、これは……?」

「わかりません……さっき起きた時から、ずっとです」


 それはそうか。

 突然の火事だ、むしろある程度冷静に私を起こしてくれたことに感謝しなければ。


「と、というかこれ、この学園は大丈夫なんですか?」

「……あ」

「ここは一応石造りだけど……でも、あれだけ燃えてますし」


 ただちに延焼こそしないだろうが……だが、絶対に無事とも言い切れない。

 そもそも、人為的な火事の可能性だってある。考えたくはないが。


「……行きましょう」

「行くってどこに?」

「……どこでしょう?」

「いやいやいやいや……」


 判断に迷う。

 どうするのが正解なのか……そう考えている間に、ドンドンドンと。

 いつもよりも切羽詰まった感じのノックの音が部屋を揺らした。


「クリスさん! マリーさん!!」

「イリーナちゃん!?」


 ドアを開ける。

 慌てているせいか、髪の乱れがちなイリーナちゃんが姿を現した。


「外! 見ましたか!?」

「見たよ!」

「なら話は早いです、行きましょう!」


 そう言って、私とクリスさんの腕をひいてくる。

 逆らう意味もない、とにかく部屋の外に駆け出した。


「でも、行くってどこに!?」

「いいから、ついてきてください!」






 ***






「……なに、これ」

「ひどい……」


 慌てて学園の外に出た私たち。

 外に出て、改めて現状の異常さを実感した。


 学園の外は一面、真っ赤な炎に包まれている。

 学園は敷地が広く他の家とも多少スペースがあるので、直接の被害はまだないようだが……それでも、かいた汗がすぐに乾くような熱気を感じる。


「クリスさん、マリーさん……怪我は……?」

「私はひとまず大丈夫。クリスさんは……」

「私も大丈夫です」


 三人とも、肩で息をしている。

 寮から一気に学園の広場まで駆けてきた上にこの熱気だ、なかなか息苦しさが抜けない。


「それにしても……人、多いな」


 学園の庭園は広い。

 そのためか、一時的な避難所になっているようだ。学園内の顔ぶれのほか、地域の人間が集まっている。


 百……千……いや、それ以上。数えられないくらいの人が、とりあえず命を拾ったようだ。

 それは逆に、それだけ多くの……それ以上に多くの人間が、危険に晒されたということでもあるのだが。


「ともあれ、これだけの火事にも関わらず生存者が多いのはいいことですね」

「うん……」


 しかし、集まった人々の顔は暗く沈んでいる。

 当たり前だろう。住む場所や大切な人を失った人だって多いはずだ。


 そんな人波に揉まれていると、唐突に……知らない声に、呼び止められた。


「──あなたが、マリーさんね?」

「……え? 誰?」


 聞きなれない声。知らない女性だった。

 私と同い年……いや、私より少し年上くらいか?


 にわかに警戒心が高まる。

 この状況で、見知らぬ人間に声をかけられること……しかもその人間に名前を知られていることが、この上なく不審だ。



 しかしそんな私の警戒をよそに、彼女は私たち三人を見回して言う。


「……そう、よかった。あなたには、ちゃんと『友達』がいるのね?」

「は、はい……?」


 友達?

 二人のことか?


「……? はい! 私はマリーさんのお友達です!」

「私はマリーさんの結婚相手ですが……」


 クリスさんは、またも当然のように言い放った。

 ちょっと慣れてきた自分が怖い。


「結婚……? そ、そうですか。それは……よかった」


 名も知らぬ彼女は、なぜか一瞬心底ほっとしたような顔をして……。


「……許せない」


 ぽそりと、つぶやいた。

 思わず背筋がぞくっとするような、強い気持ちを纏った声。


 嫌悪でもなく、ただの怒りでもない。そんな甘い気持ちでは断じてない。

 あれは、確かに……憎悪だった。


「……今、なんて」

「ん、ああ……ごめんなさい、こちらの話です。それで……マリーさん」

「は、はい?」


 こちらの話。

 無論、他人の事情に踏み入る気はないが……それが私たちに関わってこないことを祈るしかない。

 願わくば、あんな感情とは縁を切っていたい。


「少し、お話できませんか?」

「私と……ですか?」

「そうです」


 話? この状況で?

 この怪しすぎる女性と?


 メリットがない。というより、関わりたくはない。

 だが……なんだろう、この感じは? 決してここで彼女を無視できない……親近感? そんなものにも近い感情が湧く。


「……! マリーさんは、渡しませんよ」

「いえ、別に奪うつもりはないのですが……ともあれ、二人で」

「…………。少し、だけなら」


 応えてしまう。

 応えざるを得ない。


 こういう直感は、無視するべきではないだろう。

 不審さは募るが……いや、不審すぎるからこそ、ここで彼女を無視することはできなかった。


「ま、マリーさん……」


 心底心配そうな声のクリスさん。

 その心遣いが、あたたかい。


「ありがとうございます。では、こちらで」


 クリスさんとイリーナちゃんが、心配そうに見つめてくる。

 大丈夫だ……きっと。

 きっとすぐ、戻ってくる。

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